討伐依頼
「ほら、これが注文の手甲四つと短剣だ」
武器屋にきて完成した武器を受け取りに来た。
サイズを測っていないので手甲をつけられないのではと思ったのだが『サイズ調整』の魔法がかけられているらしい。
手甲も短剣も赤黒く威圧感のあるデザインだ。
さっそく装備してみる。
『サイズ調整』のおかげでピッタリでよく手に馴染んでいる。
アリアも気に入ったようだ。
「ありがとう。何かあればまた来る」
「礼を言うのはこっちだ。竜の素材を扱えるなんて武器職人として最高の誉れだからな」
さっそく試してみよう。
ギルドの討伐の依頼を受けてアリアにやらせてみよう。
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「アリア、この依頼はどうだ?」
「ウルボアの討伐ですか・・・」
ウルボアは魔物化した猪のことである。
普通の猪でも突進は脅威だが魔物化したことにより速さと威力が上がる。大木を突進で倒すほどだ。
「Dランク推奨だが、今のお前なら油断しなければ大丈夫だと思うが」
「分かりました」
紙を掲示板から剥がしてカウンターへ持っていき受注する。
なぜSランクがDランクの依頼を受けるのか怪訝に思われたが弟子の修行ということで納得させた。
「依頼主は西門から続く道の先にある村の村長からだ。近いから走れば三十分ほどで着く」
「さ、三十分!?」
「スタミナのトレーニングだと思えばいい。それに狼の獣人なら走るのは得意じゃないのか?」
「走るのは好きですが・・・」
「じゃあいくぞ」
西門の道をマラソン感覚で走る。
馬車より少し速いぐらいの速度だ。
三十分ほど走り続けて村へ着いた。
アリアは疲れているがもうすぐで実戦だからかやる気だ。
村から灰色の紙をした年寄りの鼠の獣人がやってきた。恰好からしてこの村の村長だろう。
「失礼、どのような目的でいらっしゃた?」
「ウルボアの討伐依頼を受注して来た」
「おお、ありがとうございます。ウルボアのせいで村の畑を荒らされて困っておったのです。ようやくウルボアを討伐してくださる方がいらしゃった。頼みますぞ。危険ですが、この薬を撒けばウルボアを誘い出すことができます。ただし持っているだけでも効果がありますのでご注意ください」
「承知した」
薬をもらいウルボアの住処があるらしい森の中へ入る。
人の手が入らないため草木が伸び放題で歩きずらい。
しばらく歩いて開けた広場のようなところへ出た。
森の中ではやりずらいのでここへウルボアを誘い出す。
薬を撒き、近くの茂みに身を隠す。
「アリア、ウルボアが現れたらお前のやりたいようにやれ。正面から戦ってもいいし背後から一撃で倒してもいい」
「師匠、私は正面から戦います」
「そうか」
大丈夫か、などとは聞かない。
ウルボアは危険だがアリアなら大丈夫だ。
一時間ほど待ってようやくウルボアが現れた。
金色の体毛で背中に黒い線がある。
普通の猪と比べてかなり大きく、大きめのテントほどはある。
鼻を鳴らし、薬を撒いたところの匂いを嗅いでいる。
「アリア、行け」
言い終わるより早くウルボアの前へ飛び出すアリア。
餌を横取りされるとでも思ったのか、唸り声をあげてアリアを威嚇する。
威嚇しても意味がないことを悟り突進する。
いきなり前世の乗用車ほどのスピードを出すため反応が遅れれば死ぬ。反応できても巨体が高速で向かってくるため腰を抜かして動けなくなりそのまま殺される者も多いらしい。
アリアは突進をよけようとせず、タイミングを合わせてウルボアの眉間に強烈な突きを放つ。
あまりの衝撃に悲鳴をあげて後ずさるがすぐに怒りに満ちた目で再び突進する。さっきよりも数段スピードが上がっている。
アリアは今度は掌底でウルボアの脳に衝撃を与える。まともにくらったのに少しひるむだけで済むのはさすが魔物と言うべきか。
アリアはその怯んだ隙を逃さずウルボアの背に乗り腰につけた短剣を抜いて首筋に突き刺す。
ウルボアは断末魔の悲鳴を上げてしばらく暴れまわっていたがアリアは振り落とされることなく短剣を持ち続け、しばらくして動かなくなった。
「師匠」
「見事だ」
血抜きをした後は村長に報告して依頼完了の札をもらうだけだ。
血抜きを終え、異次元に収納して村へ向かうと話し声が聞こえた。
「・・・に良かったんですか?」
「ああ。あれは・・・・で・・・だからな。所詮は冒険者・・・・とでもできるさ」
「ですね・・・は・・・馬鹿・・・・・・・ね」
ところどころ聞き取れなかったが、大体の想像はつく。
内容や話し方、口調からして討伐したのはウルボアではないのだろう。おそらくウルボアよりも恐ろしい魔物のはずだ。
強い魔物ほど依頼料が高額になるので比較的安い嘘の魔物の討伐依頼を出し、騙されてやってきた冒険者に討伐させる。
冒険者は馬鹿だから気づかれないとでも思ったのだろう。愚かなことだ。
アリアも聞いていたらしく、毛を逆立てている。
「あいつら・・・」
「よせアリア。あいつらを攻撃しても悪者は我々だ。それにこちらの勘違いということもある。まずは死体を見せて反応を見る。そして何も言わずに依頼完了の札を渡してきたあとにギルドに報告するとでも言おう。その時に相手が攻撃してくるのならこっちも正当防衛で戦える。殺しさえしなければな」
村に入り、証拠の死体を見せて村長に討伐したと報告する。
「おお、助かります。確かにウルボアの死体ですね。ありがとうございました。依頼完了の札です」
「村長」
「なんでしょう?」
「冒険者が馬鹿だとでも?」
その瞬間一瞬笑顔から真顔に戻るがすぐに取り繕って、
「はて、何のことでしょう?魔物のことを熟知している冒険者の方が馬鹿なわけないじゃないですか」
「戯言を。さっき『冒険者は馬鹿だから騙してもバレないしバレてもどうにでもできる』と誰かと喋っていただろう?」
すると村長が真顔になった。この反応、クロだな。
「冒険者風情が、魔物を狩ったぐらいでいい気になるな」
「そっちこそ、魔物一匹狩れないくせにいい気になるな」
挑発すると村長の顔が真っ赤になり叫ぶ。
「お前ら、やってしまえ!」
村のテントや家から武器を持った男どもが三十人ほど現れた。全員が農具ではなく剣や槍を持っている。どこかで奪ったのだろうか?
この村の性格を見る限り買ったのではなく奪っていそうだ。
村長は三十人もいれば勝てるとでも思ったのかニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべている。
「師匠、やっていいですか?」
「まだだ。相手が手を出してからだ」
「なにコソコソ喋っている?命乞いの相談か?」
嫌らしい口調で馬鹿にするように話す村長。
アリアも我慢できなかったのか、
「命乞いなんてするわけがない。するのはそっちの方。しても聞かないけど」
と挑発する。
命乞いさせるまでボコボコにするつもりはないんだが。
だが村長や村人が挑発に乗ったから良いとしよう。
「小娘め!やれ!」
一斉に村人が襲い掛かってきたが、私は手出しをしない。アリアの練習相手になってくれ。
村人たちはアリアを見下しており、余裕の笑みを浮かべている。
しかしその笑みは一瞬で消える。
アリアが槍の柄の部分を掴んで勢いを利用して男を投げ飛ばし、そのまま槍を振り回して近くにいた数人を一瞬で倒したからだ。
その後も投げたり首筋に手刀を落としたり短剣で手足の腱を切ったりと蹂躙していた。
十秒ほどで三十人ほどいた村人を倒したので村長は顔面蒼白だ。
「ひ、ひぃぃ・・・!」
「このことはギルドに報告する。問題ありとして依頼を出せなくなるかもね」
脅しをかけるあたり、将来凶暴な性格になりそうだ。
修業が落ち着いたら学園でも通わせてみようか。学園があったらの話だが。
もちろん私は勉強を教えられないので実技などで入ってもらうことになるが。
そんなことより今は目の前の問題に対処しなければ。
テントや家から女子供が出てくる。
旦那に縋りつく者やこちらを睨みつけて来る者、泣いて謝罪する者もいるが一人一人相手にするのは面倒なのでこう言ってやる。
「先に仕掛けてきたのはそっちだ。我々は正当防衛で身を守っただけだ。どんな事情があったか知らんが魔物の正体を知っておきながら嘘の依頼をして真実に気が付いたら始末しようとする。完全に悪者はお前らだ。我々が襲われたときに見て見ぬふりをしていたお前らも同罪だ。知らなかったとかいう言い訳は聞かん。文句はギルドに言え。・・・行くぞ、アリア」
「はい、師匠」
テンプレというか、こういうたちの悪い者たちは度の世界にもいるようだ。




