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竜は静かに暮らしたい  作者: イエス・ノー
三章 旅
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力比べ

奴隷商人は起きそうになるたびに『気絶』の魔法をかけている。

気絶した男が風船みたいに浮いているのだから傍から見ればかなりシュールだ。


それと少女はアリアというらしい。


アリアは魔物の肉を食べることに抵抗感があったが、久しぶりの肉なのでがっついていた。ちなみに熊は硬くてボソボソしてて不味かった。


道中はとくに何事もなく、ようやく獣人国についた。

入国審査町の列に並ぶが風船みたいにされている奴隷商人のせいでみんなが道を開ける。


様子がおかしいことに気づいたのか、入国審査官の兵士が来た。


「なにをしている!」


「闇奴隷商人を捕まえただけだ。引き取ってもらえるか?」


「闇奴隷商人?お前はグルじゃないよな?」


冒険者カードを見せる。


「え、Sランク!?し、失礼しました!こちらへどうぞ」


最高ランクだから優遇されるのだろうか。

兵士が門にいたもう一人の兵士に事情を説明し、案外早く獣人国へ入国できた。


奴隷商人を引き渡し、善良な奴隷商の店を聞く。

この世界ではほとんどの国で犯罪奴隷以外の奴隷も身分保証されている。

平民より下だが奴隷の主が奴隷に対して理不尽なことをすれば主が捕まる。真面目に働いていれば奴隷から解放されるので、借金返済のために奴隷になる人も多い。


アリアも善良な奴隷商の店なら文句はないだろうと思ったのだが、アリアに袖を引っ張られて


「強くなりたい。だから私に戦い方を教えてください。・・・師匠」


と言われてしまった。


戦い方と言われても私は体術で戦うので剣などよりも訓練がきついと思う。怪我もしやすく、筋トレをずっと続けなければならない。


だから無理だと言ったのだが一向に引き下がってくれなかったので、体術と短剣を組み合わせた戦い方を教えることにした。体術で相手のバランスを崩し、短剣で急所を狙う。


それならある程度は戦えるだろうということで納得してくれた。


ところがここである問題が発覚する。

金、武器がない。


金は冒険者の依頼でどうにかなるが、討伐の冒険者が稼ぐには魔物討伐または素材を売るほうがいい。護衛や採取も受けられるが、冒険者は自分のタイプにあった依頼を受ける方が報酬も良くなる。


良い武器を買うには大金が必要だ。

私は素手で戦えるが、アリアは無理だ。


・・・いや、そんなに悩む必要はないな。

私が戦う様子を見させればいい。後で役立つはずだ。


「アリア、ついてこい。戦う様子を見るのも役に立つ」


-------------------------


「そろそろいいな。何か分かったことはあるか?」


「えっと・・・防御がなかった?」


「だいたいあっている。防御をするよりは捌くかいなしてカウンターをする方がいい。どうせ受けるならダメージをできるだけ少なくするんだ」


森で魔物が大量に発生したという知らせがありちょうどよく依頼が張り出されたので受注してから森へ来た。


私の前には大量の魔物の死体が積み上げられていた。

蛇、熊、猪など凶悪な魔物ばかりだ。

魔法で異次元に収納して獣人国へ戻る。


-------------------------


「買取と依頼達成の手続きを頼む」


獣人国は町が少し変わっている。

城から離れれば離れるほど建物が小さく質素になっていき、見かける獣人も変わる。一般的に城へ近いほど強いとされる種族が増える。


ギルドはまあまあ強いとされる種族が住む場所にあるため、弱いとされる種族から強いとされる種族まで様々な獣人を見かける。

彼らはほぼ全員が実力主義で、弱くとも実績と実力が認められれば城に近いところへ住むこともできる。また下剋上や強そうなものを見かければ喧嘩という名の力比べを始めるためよく言えばにぎやかで悪く言えばある意味治安が悪い。


なのであり得ない量の魔物の死骸がカウンターに出てきたため、狐の受付嬢が驚き周りの冒険者たちが騒ぎ出す。

素材の値段を決めるために時間がかかると言われた。

そうなると私の実力を疑うものが現れる。


「おい、どうせ弱ったやつばかり狙ったんだろ?」


絡んできたのは・・・赤い犬の獣人か。


「いいや。俺の実力で真正面から仕留めたさ。健康体の魔物をな。疑うなら力比べをしてみるか?」


「望むところだ!」


町で武器を使用するのは厳禁なので素手で戦うことになる。

右ストレートを右腕をあげて左に半歩ずれて避け、すぐに右肘を相手の右腕に叩きつける。

骨の折れる音がした。


「ぎゃあああああ!」


「どうだ?」


痛みで転げまわっている犬の男に回復魔術をかけてやる。


「・・・参った。あんたの勝ちだ。もう何も言わねえよ」


獣人は負けは素直に認めるし正面から勝てば恨まないのでそういうところは好感が持てる。


ちょうど査定が終わったらしく、受付嬢から金貨三枚を受け取った。


この世界では銅貨一枚が百円、銀貨一枚が千円、金貨一枚が一万円、大金貨一枚で百万円、白金貨一枚が一千万円となる。


今回の報酬は三万円だ。


たった三万円では何も買えない。


・・・しょうがない。ズルをしよう。


私が竜の時にたまに古くなった鱗が剥がれ落ちることがある。

三十枚ほどあれば私とアリアの手甲と短剣一つは作れるだろう。


もちろん加工費は高額だが獣人国では力比べで値引き交渉ができる。

どれほど値引きできるかは店の経営状況とどれぐらい圧勝できたかで変わる。


ギルドで武器屋の場所を聞き、アリアと共に向かう。


-------------------------


「金貨三枚で手甲四つと短剣一つ作ってくれ。材料はこちらが出す」


「おいおい、たった金貨三枚じゃなんもできねえぞ」


答えたのは金髪の虎の獣人の職人だ。なんとなくヤンキーに近い。


「分かってるさ。だから力比べで値引き交渉しに来た」


「お?やんのか?」


威圧してきたのでこちらも威圧する。

しばらく睨み合い、どちらも引く気はないと分かり相手が動いた。


素早く背後にまわりジャーマンスープレックスをかけてきた。初っ端から容赦ないな。

ジャーマンスープレックスは肩と首を強打するため死ぬこともあるかなり危険な技である。


拘束から逃れて受け身をとり、バク転でいったん距離をとる。


「へえ、今までの奴らは今ので勝負がついたんだが、あんたは違うようだな」


「体術には自信がある」


次はこちらだ。

右フックで殴ると思わせてそのまま両手を地面につけ足で蹴る。

相手の反応が遅れ、クリーンヒットとは言えないが多少のダメージは入ったようだ。


そのまま繋げて前宙で脳天に踵落とし。多少の無茶な動きでもこの世界では魔力で怪我しないようにカバーできる。

相手は予想外だったのか反応できずにまともに当たる。


ゴンッと鈍い音が鳴り、倒れる。起き上がらないのを見ると気絶させてしまったようだ。


回復と気付の魔法を使う。


「いやー参った!あんた強いな!だが、いくらなんでも金貨三枚は無理だな。なにか別のもんで埋め合わせできるんなら話は別だが・・・とりあえず材料を見せてみろ」


私から剥がれ落ちた鱗三十枚を出す。


「っ!これ、竜の鱗じゃねえか!どこで手に入れた?いや、今は武器の話だったな。えっと、手甲四つに短剣一つだろ?この量の鱗でギリギリだな。もう少し量があれば余った分を売って料金の代わりにできるがどうする?」


さらに三十枚ほど出す。


「・・・あんた、いったい何もんだ?いくらなんでもこの量は異常だぞ。まあいいか、こんな貴重な材料で武器を作れるし力比べで負けたから作ってやるよ。三日ほど時間をくれ」


「分かった」


三日か。

その間はアリアの相手をしておくか。

アリアが空気・・・

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