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竜は静かに暮らしたい  作者: イエス・ノー
三章 旅
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奴隷

やはりいくら力が強くとも技術で使いこなせなければ意味がない。

邪神の眷属は魔法なしでも力は普通の人間なら即死するぐらいの力があったが、捌いていなせば大した敵ではない。

変幻自在な師範の方が何倍も強かった。


私は初試験でSランクという偉業を成し遂げ、見学していた冒険者パーティにスカウトされることになった。


一人で旅をしたいという理由で全部断り、さっさと白金のカードを受け取り、ギルドに保管されている大陸地図を開く。地図と言ってもかなり大雑把だ。

どこら辺に国があり、道と馬車でどれぐらいの時間がかかるかぐらいしか書かれていない。


私は近くの国で一番気になった馬車で十日ほどの『クルーア獣人国』へ行くことにした。獣人が気になる。

獣人は王国でも見かけるが少ない。


それに年に一度武道大会が開かれるらしい。参加したい。


旅の路銀はないが途中で動物を狩れば大丈夫だろう。


-------------------------


「獣道か?にしては大きすぎる」


五日ほど道を進んで狩りのために森の奥へ入ったのだが、そこで不自然な道を見つけた。

一直線に草が無くなっている。獣道ではない。

動物の痕跡が全く見当たらないし、馬車の車輪のような跡がある。


気になってしばらく道に沿って進んでいると、バラバラに壊された馬車と数人の惨死体、貧相な服を着て首輪のつけられた少女とでっぷりと太って大量の指輪とネックレスをつけた男がいた。

どうやら魔物か何かに襲われているらしい。しかし、様子が変だ。


死体はすべて貧相な服と首輪があり、太った男は死体を盾にしたような逃げ方だ。少女も男を守るように・・・いや、守らされているのか。


おそらく闇奴隷だろう。


少し様子を見よう。熊の魔物が襲い掛かったら守る。


-------------------------


私は奴隷。


半年ぐらい前に両親が事故で死んで、生きるために冒険者になった。

でもいくらがんばってもランクは上がらないし、周りの冒険者や受付嬢から馬鹿にされる。


私の国は実力主義だから、弱いものが馬鹿にされるのは当たり前。

だけど強いとされる狼の獣人が馬鹿にされるのは許せなかった。喧嘩をうったけどすぐに負けて、ボコボコにされて、気が付いた時には奴隷にされていた。


奴隷になってからは毎日が嫌だった。

汚い部屋に押し込まれ、ろくに食事はもらえず愛玩道具として売られるのを待つだけ。

今日は私たちの出荷日だった。


でも途中で熊の魔物に襲われて、商人は私たちに身代わりになれと命令した。首輪のせいで逆らえない。

いつもいつも理不尽な命令をされるたびに、私の中に暗い何かが溜まるのを感じた。

力があれば殺せるのに。そう考えていた。


今、私の目の前には鋭い爪がある。

復讐もできず最後まで惨めなまま死ぬのか。


そう思ったら、いきなり熊が吹き飛んだ。

すぐに起き上がるけど、やってきた誰かに近づくたびに殴られ、投げ飛ばされる。


私はその光景を見て、きれいだと思った。

自然体で、息をするように敵を攻撃する。

熊が倒された後も、全く息は乱れていなくて、ついさっきまで戦っていたのが信じられないほどだった。


・・・私にも。


・・・私にもその力があれば、こんなことにならなかったのにな。


-------------------------


熊っておいしいのだろうか。


熊が少女を殺そうとしたので間に入って倒した。

今日の晩飯は熊だな。


「おい、そこのお前」


太った男が声をかけてきた。

いま気づいたが、男以外みんな獣人だ。少女は見た感じ狼だろうか。少し長めの赤い髪で身長は百五十センチぐらいか?


「助けてくれて感謝する。だがな」


「なんだ」


「見られてしまっては困るのだよ」


「闇奴隷だからか?」


男は何も言わず、いきなりナイフを突き出してきた。

ただしまっすぐに来ただけなので手首をつかんで捻って地面にたたきつける。

打ち所が悪かったのか気絶した。


男は放っておいて、少女に話しかけようとしたが、少女は落ちていたナイフを拾って男を憎悪に満ちた目で睨みつけている。

なんとなくわかった。

だが・・・。


「殺すな。お前には早すぎる」


「うううう・・・」


止めようとしたのだが、頭に血が上っていて聞いていないようだ。


「やめろって」


「ううう、ガアッ!」


間に入ると今度は私を刺そうとしてきた。

さっきみたいにたたきつけるのはかわいそうなので手首をつかんで捻り上げる。

抵抗するが関節が極まっているので全く動かない。


「お前にこの男を殺させん。お前にはまだ早すぎるんだよ」


「放せっ!」


「放さん。放すと暴れだしそうだからな」


「お前に何が分かる!私は両親が事故で死んでずっと惨めだったの!」


それを言うなら。


「俺は両親に捨てられた」


その瞬間、少女の抵抗が止まった。

過失による事故死よりも故意に捨てられたという方が少女にとっては深刻なのだろうか。

まあ抵抗しなくなるのはいいことだ。


「俺は捨てられた後、ずっと街をさまよっていたんだ。生きるためにごみ箱をあさって、腐った食い物や泥水を啜って生きていた。細かい境遇は違うが、大まかな境遇は同じはずだ」


二人とも両親を失って毎日生きるのに必死だった。


「初めは両親が憎かった。殺したいほどにな。だが今は違う。あの時の憎しみのおかげで生きることができたと思っている。お前もその憎しみは持っておけ。憎しみを生きる糧にしろ。俺のようにな。それとももう死んでもいいなら俺は止めんが」


「・・・」


少女はしばらく動かなかったが、ナイフを落とした。

よかった、殺人を選ばなくて。


私は少女を解放する。

少女は女の子座りで放心状態だ。


とりあえず魔法で穴を掘ってそこに遺体を埋め、合掌する。

男は拘束と浮遊で近くにあった蔦でさらに縛る。

そうすると風船のようになるからこのまま獣人国で引き渡そう。


まさか道中でこんな面倒ごとの種になりそうなことと出くわすとは。

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