国と軍隊
いつのまにか竜になってから十数年もたっていた。
毎日飛び回って狩りをして住処で寝る。
単調だが私は満足している。
自由に好きなことが出来て幸せだ。
それはそうと、数年前に大きな国を見つけた。
洞穴に向かって右へしばらく飛んで行ったところにあった。
円形の形をしており、直径が数千キロメートルぐらい。
中心にはまっすぐそびえ立つ立派な城があり、城を囲むように家や何らかの施設があった。
国へ入ってみようとしたのだが、竜でいくと国民が世界の終りのような顔をして逃げ、城から大量の魔法や矢が飛んできて歓迎されないし、直撃しても痛くもなんともないからしばらくとどまってたら超極太のレーザービームで撃たれて追い返された。
別に自分の魔法で仕返ししてもいいのだが、力加減が難しく下手をするとこの国が消滅してしまう。
人型ならいいだろうと思ったのだが身分証がなく山賊か何かと勘違いされて入れてもらえなかった。
こっそり忍び込むこともできない。
大国なだけあって防衛がしっかりされている。
そんな感じなのでこの国は放置している。
それ以来、ハンターたちがやってきては威嚇して追い返すということを繰り返している。
無意味な殺生はしたくないし、彼らも『帰りたい』といった顔をしているためだ。
しかしそれが馬鹿にされていると勘違いされたらしく、大規模な軍隊がやってきた。
全員が覚悟を決めた顔で威嚇しても怯みはするが帰らない。
そうだ、『念話』で話し合おう。
威厳のある竜を演じよう。
『聞こえるか、小さき者たちよ』
「な、何者だ!?」
軍がざわめきだす。
しばらくして一番偉そうな人が出てきた。
「今の声は、あなたのものですか?」
『そうだ』
「おお、まさか喋ることが出来るとは・・・」
何やら感動している。
「待てよ、喋ることができて赤黒い鱗を持ち、ここに棲む竜・・・まさか、伝説のヴィッツ・ヴェルナード?」
ずいぶんとファンタチックな名前だ。
話からして、私の名前だろうか?
『そのヴィッツとやらは我の名前か?』
「は、はいそうです!」
敬礼しながら答える偉そうな人。
しかし何で軍が来たのだろう。
国が襲撃されたなら来るのは分かるが、私はそんなことは一切してないしハンターも威嚇して追い返している。
ここに棲んでいるのが問題なのだろうか?それは困る。
『小さき者よ、貴様の目的はなんだ?先に言っておくが、ここから立ち退くのは無理だ。討伐目的で来たのなら我にも考えがある』
やられる前に転移魔法で強引に送り返す。
「いいえ、討伐ではありません。我々が来たのはここから去ってもらうための交渉だったのですが、先に否定されてしまいました」
『交渉にしては軍の数が多すぎるな。武力で脅そうとでもしたのか?』
「・・・実は我が国の王が『可能ならば捕獲せよ』と命令したのです。そして無理矢理軍を率いていくようにされたのです」
絶望したような顔で話している。
この人は苦労してそうだ。
私も官僚時代、行政の裏仕事でとんでもないことをよくやらされた。
事件屋の手助けがなければできないようなものばかりで、法律違反まがいの仕事だったのでバレればすぐにクビになるようなものだった。
この人も似たようなものだろう。
できるわけのないことをやらされている。
やりたくないのに上からの命令でやらされる姿に親近感を覚える。
まあ、それが何だという感じだが。
『捕獲だと?戯言を。貴様らが我を捕獲できるわけなかろう』
「ええ、わかっています。ただでさえ竜は劣等種でも対城を想定した軍が必要なのに、伝説級のあなたと戦えと言うのは死刑宣告と何ら変わりありません」
『貴様も苦労しているようだな。まあ、我はここから去るつもりはないが、敵対しない限り貴様の国を襲ったりはせぬ』
「ほ、本当ですか?」
『本当だ。敵対しない限りはな』
私の言葉に全員が安堵した様子を見せる。
「ありがとうございます。我々はあなたが国にあらわれてからずっといつ襲われるのかと怯えていたのです。去ってもらうというのも、不安の原因を無くすためでした」
『我は無意味な殺生はせぬ。貴様らの国を訪れたのも単なる好奇心だ』
「そうでしたか。それでは我々は国へ帰ります。あなたと敵対しない限り襲われることはないと正式に発表すれば民は安心するでしょう。・・・あ、ひとつ大切なことを忘れていました」
『なんだ?』
「素材収集のためにこの山に出入りしてもいいでしょうか?この山の地下には大きな洞窟があり、昔から怨霊が集まってできる『怨石』という貴重な鉱石が採れるのです。さらにあなたのような伝説級の竜から漏れ出る魔力を吸収し変質したものは世界で最も希少かつ埋蔵量の少ない『滅怨の輝石』と呼ばれる鉱石が出来ます。それらを採るために出入りの許可が欲しいのです」
希少鉱石か。
私には使い道が分からないし採られても問題ない。
『構わぬ。自由に採るがいい』
「ありがとうございます。では」
軍隊が規則正しい行進をしながら帰っていく。
この時の私は、後に『滅怨の輝石』のせいでとんでもないことになるとは思っていなかった。