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竜は静かに暮らしたい  作者: イエス・ノー
二章 予兆
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スラムの道場

王国と結んだ条約は「敵対しない限り友好関係であること」「王国に所属すること」の二つだけだった。

友好関係と言っても何か交易をしたりするわけではなく、互いにこのままの関係を維持するだけだ。


せっかくなので王都の道場を探すことにした。私は力があるだけで技術はないので、技術がなければ力を完全に使いきれない。


どんな道場を探すかだが、戦場生まれで乱取り稽古の道場がいい。

戦場生まれは基本的に「殺敵」を想定しているのでかなり強いが、同時に危険である。一つ間違えば簡単に命を奪えてしまうものがある。

前世ではさすがにそんなものは教えないか一子相伝だったが、この世界では条件を満たしたものであれば普通に教えられる。

それに戦場生まれは他の武術にありがちな弱点が少ない。

例えば、空手は強力な打撃技で攻撃するが投げ技や関節技がないので組み伏せられると抵抗できない。柔道は相手を投げ飛ばし関節技で動けなくするが打撃技がないので相手を掴まなければダメージを与えにくい。合気道は強いが相手から仕掛けてこないと何もできない。

達人であればそんなものは関係ないだろうが、極めていなければそういった弱点をつかれるかもしれない。

しかし戦場生まれはさまざまなパターンを想定しているため、危険で難しいが強い。乱取り稽古ならばさらに危険だが実戦で役に立つ。


そんなわけで私の求める道場があるか聞いているのだが、どれもいまひとつだ。


王は「力だけで十分では」と言い、リリアは「護身術でもいいのでは」と言う。

確かに護身術もいいのだが、そもそも最大の護身は危険に近づかないことなので、護身術は基本的に万が一に備えるものだ。


こういうのは騎士とかの方が詳しいかもしれない。

騎士団長に聞いてみると、私が求めるような道場は一つだけあるらしいが、危険だからやめた方がいいと言われた。

危険でもいいのでどこにあるのか教えてくれと頼むと、平民が住む地区の治安が悪いところにあるらしい。


教えられた場所に行くと、確かに治安が悪そうだった。


物乞いや柄の悪い奴がいて、建物はあるがボロボロである。スラムのようだ。


スラムを進み、ようやく目当ての道場を見つけることができた。

『サルマド武術極戦流道場』と木札に書かれていた。

ここだけ立派で、中からは怒声や殴りあう音が聞こえる。


中へ入ると、強烈な汗と血の匂いがした。

筋肉質な男たちが激しく殴り合っている。


「お主は誰じゃ」


背後から一切の気配を悟らせることなく声をかけてきたのはまさに達人といった白髪の老人だ。

背筋はまっすぐで眼光は非常に鋭い。


「この道場に興味を持った」


誰と言われても今世の私には名前がない。

種族名ならあるが私個人の名前もニックネームなどもない。

なので要件を言うことにした。


「俺は強さを求めている」


「お主を見る限り、力はありそうだが」


「力だけあっても使いこなせなければ意味がない」


「そうか。では使いこなす技術を得たとして、その力を何に使う?」


「魔物や多数の人間に害なすものに対抗するために使う」


「そうかそうか。お主はまだマシな方じゃな。ここはよく殺人のために力を求める者がくるからの」


「こんなところに道場を構えていればそうなるだろう」


「まあの。じゃが武道の精神が分からん奴はボコボコにして追い返いておる」


「そうか」


前世では問題になるだろうが、この世界ではバレなければ問題にならないし、喧嘩はスラムでは日常茶飯事なのでこの程度で通報する者はいないらしい。


「お主は武道の精神は分かるか?」


「力をふるう相手を見極め、無意味な争いはしないことか?」


「その通りじゃ。お主には教えてやってもいいじゃろう。お主、身体強化や纏技は使えるな?」


纏技は剣などに炎などを纏わせ、攻撃力をあげたり攻撃を速くしたりする技だ。素手でも使える。


「使える。教えてくれることに感謝する」


途中でくたばらないようにしなければ。












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いつのまにかこの道場に来てから半年も経っていた。

たった半年で私は前世で言う黒帯まで上り詰め、師範ともしばらくはやりあえるようになった。


サルマド武術極戦流は己の魔力を使って自分を強化する。また、多対一で相手が武装しているという状況でも対応できる。

構えなどはない。リラックスして呼吸を整え、自然体でいる。そうすることで余計な力が入らず最小限の動きで回避しやすくなる。


師範もたったの半年でここまで強くなったのには驚いていたが、教えがいがあるといって私に他人より厳しいプログラムを課すようになった。


例えば、本来は偽物なのに私だけ本物の剣だったりする。その方が練習になるが危ない。実際一度まともにくらって大怪我を負った。すぐ治療したが。


そして今日はこの道場の門下生全員と同時に相手をすることになっている。

それぞれが本物の剣や槍などを持っており、一つ間違えれば簡単に死ぬ。彼らは今だけ殺しに躊躇がなくなるように魔法がかけられている。私は丸腰だ。

事前に死んでもいいという書類に同意させられているので、この勝負で私を殺してもなんの問題もない。恐ろしいことだ。


「準備はいいか?・・・では、始め!」

始まった瞬間、周りの門下生が私に襲い掛かってきた。

ふつうなら瞬殺されるが、私は半年間、厳しすぎるプログラムをこなしてきたのだ。

全身の力を抜き、身体強化と思考加速の魔法をかける。


「・・・参る」


スローになった世界で、私はどういう順番で倒すか、頭ですぐに考える。

まずは一番近くの槍で突き攻撃をしようとしている敵からだ。


敵に近づき、槍の柄の部分を踏みつけ、顔面に強烈な肘打ちをお見舞いする。


「ぐえっ!」


背後から斬りかかってこようとする者がいるので後ろ蹴りで倒す。私の攻撃は超強力だ。手加減しても吹き飛ぶ。


「うぐっ!」


次は蹴り飛ばされた仲間を見ていた者だ。

回し蹴りで横に吹き飛ばし、数人一緒に倒す。


あとはもう簡単だった。

攻撃を捌いたり、剣の腹を踏みつけ顔面に肘打ちしたり、投げたりと、蹂躙だった。


「えぐっ!」

「ぐはっ!」

「へぶしっ!」

「ほぁぶしっ!」

「最高の御褒美です!!!」


なんか一つ危険な発言が混ざっていた気がする。


だがそれを気にする間もなく、敵を全員倒していた。


「ほっほっほ・・・お主、やはり異常じゃのう。たったの半年で儂と少しやりあえるようになり、門下生を一瞬で倒すとは・・・お主、何者じゃ?」


鋭い眼光でこちらを見る師範。どう答えたものか。

正直に言ってもいい気がする。この師範なら問題はないだろう。

竜だと言ってもにわかには信じられないと思うので、翼だけを生やす。


「!・・・お主・・・」


「俺は竜だ」


「もしや、最近よく聞くヴィッツ・ヴェルナードか?」


「そうだ」


「・・・」


黙り、細かく震えだす師範。どうしたのだろう?


「おお、おお・・・まさか生きているうちに、伝説の竜をこの目で見ることが出来ようとは・・・」


なんか感動し始めた。

伝説伝説と言われるが、私にはあまり伝説という自覚がない。

油断すれば怪我はするし、完全に不意を突かれれば殺されるかもしれない。

なので最強でも伝説でもなく、私は強い竜としか思っていない。


「どうした、師範?」


「ああ、儂が憧れた存在と出会えたことが嬉しいのじゃよ。空の支配者と言われる飛竜、その飛竜の最上種と命を賭けた闘いをすることが儂の生きる目的だった。じゃが飛竜の最上種なんて数百年に一度会えるかどうかじゃ。いくら儂でも老いには勝てん。もう無理かと思いかけていた時、お主が儂が求めていた竜だった。じゃから儂はとてもうれしいのじゃよ」


「そうか。俺・・・いや、我が師範とまともにやりあえるようになったら師範の長年の夢が叶うな」


「おお、伝説の竜に師範と認められるとは。よし、ではお主にはさらに厳しい稽古をつける。三ヶ月もすれば儂とやりあえるようになるじゃろう」


「分かった」


この日から狂気の稽古がつけられるようになった。


そして四ヶ月後、私は激闘の末に師範に勝利した。

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