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竜は静かに暮らしたい  作者: イエス・ノー
一章 王位継承の争い
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私の前世と恐れる理由

登場する人物名・団体などはすべてフィクションであり、現実とは一切の関係がありません。


また、話の内容がすべて正しいとは限りません。あくまでも作り話です。

『いえいえ、私は芸南市の地元企業の利益と規制解除による大型ショッピングモールの進出に伴う利益を吟味し、地元企業を保護する方が利益になると判断したまでです』


「私はそんなことを言っているのではありません!あなたが規制解除に反対なのは地元企業から賄賂を受け取り、優遇してもらっているからでしょう!規制解除をしてしまうとその地元企業がショッピングモールに潰されてしまい自分にとって不都合だからでしょう!?」


『賄賂ではありませんよ。昔からの付き合いでよく季節の贈り物をしているだけです。それを賄賂というのなら、こちらにも考えがあります。それと規制解除に関してですが、この件に関しては政治家が絡んでいる可能性があり、また地元企業と関りの深い方々の規制解除の反対抗議のため規制解除ができないのですよ』


「それはすべてあなたの絵図でしょう!確かに我々官僚は政治家の介入を絶対に避けなければなりませんが、反対活動はあなたが反対運動屋を雇ったからでしょう!?」


『私が不正行為をしているとでも?なら証拠はありますか?今回の抗議活動はあくまでも自然発生したものです。まあこちらでも善処はしますので、これ以上難癖をつけるのはやめていただきましょうか。それでは』


「・・・・・・くそっ・・・どいつもこいつも俺を下に見やがって・・・自然発生だと?どう考えてもおかしい。絶対に反対運動屋がいる。だが俺にはどうすることもできない・・・」


善処するとは言っていたが、役人の善処は『善処しなくて済むように抵抗する方法を検討する』という意味だ。


そして規制解除が出来なければ俺の能力評価に大きなバツがついて出世コースから外されてしまう。


官僚になるまでは、全国の役人が協力するものだと思っていた。

でも実際は他者を徹底的に攻撃し出世コースから外すドロドロの世界だった。


そして自分の利益のためにどんな汚い手も使う。

他人がどうなろうが知ったことではない。


・・・どうして。


・・・どうしてそんなに残虐になれるんだ。











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「君!どうか私の選挙に協力してくれないか!私が議会で文句を言うためにも、役人の君の力が必要なんだ!」


選挙。

政治家や立候補者たちが演説をし、支持を集める。

立候補者たちが「地方には地方のバランスがある」「新人だが、新人だからこそなんのしがらみもなく議会で意見を言うことが出来る」と、必死に演説をしている。

きっと、考えや人柄で票を集めるのだろう。


そう思っていた。


-------------------------


「で、股介議員のスキャンダルは見つかったか?」


「ええ、見つかりましたよ。あいつ、なんと三股してるんですよ。清廉潔白が政治だとか言いながら、ちっとも清廉潔白じゃありませんね」


「そうだな。これを奴の支持者・・・主婦層にでもばらまいてやれ」


「ちょっとちょっと、公務中になんて話してるんですか!」


「ん?ああ、君は中央の新幹線組のキャリア官僚じゃないか。選挙っていうのはね、表ではどんなにでも清らかにできるが、裏はそうじゃないんだよ。選挙というのはね、いかに相手を妨害し敵を寝返らせるかにかかってるんだ。たとえ相手が親友だろうと、選挙の敵になれば容赦はしないんだよ。ほら、君が支持してる海里さん、敵の二股議員と親友なんだ。俺たちは海里さんに頼まれて、二股議員の弱みを探しているんだ」


「・・・」


たかが選挙で、親友を裏切るのか。

親友を裏切ってまでそんなに市議員になりたいのか。

親友との関係は、そんなに脆かったのか。


親友って、何だったんだ。













-------------------------------------------------------------------------------











「海里さん、市議員当確おめでとうございます!今夜は宴会ですね。実はもう店をとっているんです」


「おお、気が利くねえ。キャリア官僚の君も、本当によくやってくれた。ありがとう」


「・・・」


素直に喜べなかった。


いくら上からの命令で海里を傀儡議員にしなければならなかったとはいえ、あんなひどいことをしても罪悪感のかけらも感じさせない海里が不気味だった。


噂によると、浮気がバレた二股元議員は、恋人は全員逃げ慰謝料を請求され、友人も失ったらしい。


「・・・あ!おまえは・・!」


噂をすれば。

やつれた二股元議院がきて、海里を睨みつけて胸倉をつかんだ。


「お前のせいで全部失ったんだ!全部お前のせいだ!お前が立候補するから!」


「おい、やめろ!」


海里の支持者が二股を引きはがし、海里が乱れた服装を整えながらため息をつく。

近くにいた一般人たちがこちらをみて何か話し合っている。


「どうやら、今度は一般人からも『何か』を失ったようですな。二股議員?」


嫌な顔で、嫌な口調で淡々と告げる海里。


「・・・」


まだ、責めるのか。

たくさんのものを失った相手から、さらに奪うのか。


「嫌な空気になってしまったね。軽くなにか食べておこうか」


「・・・はい」


嫌な空気にしたのはお前だ。

もういいだろう。

二股をどれだけ責めれば気がすむんだ。

もう選挙は終わった。

二股はもう何もできない。

それなのに。


二股を、ストレスのはけ口かなにかとしか思っていないのか。

血も涙もない。


選挙は、権力は。

ここまで人を変えるのか。












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「あの腑亘理ふわたり建設株式会社から不渡り小切手をサルベージすればいいのか?」


「そうだ。依頼主は役所の傀儡企業だから潰されると困る。それに大規模テーマパークの建設に腑亘理建設株式会社が一枚噛もうとしていてな。一枚噛まれると私の出世に響く」


「そうか。しかしあんたも変わったな。中央からの新幹線組でキャリア官僚だったお前はこういうのを毛嫌いしていたはずだが」


「昔の私は想像もしてなかったよ。だが中央で成り上がるためには裏社会のあんたの手が必要なのさ。裏社会とは持ちつ持たれつ・・・それが政治というものだろう?」


「やっぱすごい変わったな。俺たちは報酬がもらえれば不満はないが・・・俺には昔のあんたのほうが輝いて見えたな。今のあんたはもう輝いていない。くすんでいる」


「裏社会に手を染めたからな。私の子供は官僚にはさせないつもりだ。官僚はいいことばかりではない。それに我が子に汚れてほしくない」


「そうか」


あれほど裏社会を嫌っていた私が、裏社会の事件屋とよく酒を飲みながら仕事の話をするほど仲良くなるとは思ってもいなかった。


だが裏社会と関りを持たねば、出世できないのだ。


子供のころに想像していた官僚とは大違いだ。


だが仕事のやりがいは大きいし、家族もでき、幸せに暮らしている。


裏社会と関わっていなければ、ずっと地方で寂しく仕事をしていただろう。


幸せだが、虚しさのようなものも感じる。

彼が言うように、昔の輝きを失ったのだから。












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『・・・他人を傷つけ、利用することになんの躊躇いもない。罪悪感すらない。そんな人間が我の恐れる人間だ。人を人として見ておらず、そのくせ自分が利用されると憎悪を抱く。自分勝手で独善的な考えを持つものが憎悪を抱き、他人を陥れるための知恵を思いつき、その知恵を別の他人が利用してさらに別の他人が陥れられる。そういう負の連鎖をいとも簡単に作り出す人間が、我にとって最も恐れるものなのだ』


「ですが、素晴らしい人もいます」


『その素晴らしさを、輝きを、死ぬまで持ち続けられる人間がどれほどいると思う?ほとんどの者が大人になるにつれて汚れていき、輝きを失う。我もそのうちの一人だった。最後まで素晴らしく、輝き続けるというのは想像を絶する難しさなのだよ』


「・・・・・・なぜ、分かるのですか?」


『何がだ?』


「なぜ、人の立場で物事を見られるのですか?竜様の言い方は、人の暮らしを観察したというものではなく、自分自身が人間としての一生を過ごさなければ分からないような感じでした。強大な存在で、人とは全く違う考え・価値観を持つ魔物とは違いすぎています」


『・・・』


元人間だったから、といっても信じられないだろう。


私がこの話をしたのは、リリアに私のようになってほしくなかったからだ。


王の器ではないと言ったが、本当は王になることで輝きを失ってほしくなかったのだ。


私が補佐役になればいいと言ったのも、裏仕事や汚れ仕事を引き受けるためだった。


それに、リリアはどことなく私の孫に似ている。

だから健全に育ってほしいと言う親心のようなものもあったりする。


『それは答えられんな。人は誰しも他人には言えない秘密を持っているだろう?それと同じようなものだ』


私が言えるのは、それだけだった。

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