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竜は静かに暮らしたい  作者: イエス・ノー
七章 天空世界
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決着と帰還

遅くなり申し訳ございません。

禁術は『パーシュ・パタ』というものにした。

仕留めることはできなくともこれなら致命傷を与えられそうだ。


構築を開始し、発動前に待機させておいた次元魔法『空間破砕』を発動する。『転移』を考えたがどういうわけか使えなかった。

まあ牢獄等で転移を防止する方法なんていくらでもあるから、何らかの方法で防止したのだろう。しかし空間を破壊することまでは予想されていないだろう。やったところで空間の崩壊に巻き込まれるだけだからな。


・・・そういえばこの空間がどこにあるのか考えていなかったな。てっきりルシファーのいる次元と同じ次元と考えていたが、私がいる場所はまったくちがう異次元の可能性がある。そうなるとこの真っ黒な空間を破壊したところで元の次元に戻ることはできなくなる。

私としたことが、その可能性を考えていなかった。

しかしもう発動してしまったので止めることはできない。


魔法が発動し、空間がガラスのように細かく砕け散った。

真っ暗だった空間に光が入り、濃い血の臭いが漂う、どうやらもとの次元に戻れたようだ。


こちらに背を向けているルシファーへ禁術を発動する。


『パーシュ・パタ』


発動すると同時に私を囲むように白・紫・赤の古びた石碑が出現し、ルシファーの頭上に筋肉がむき出しになったような不気味な右手、右脇腹に極太の毒々しい色の串、右肩辺りに白く輝く剣の刃が魔法陣から出現する。


そしてそれらは嬉々としてルシファーの肉体を切り裂き引き千切り貫いていく。


『なんだ!?』


不意打ちでまともに当たったのに大して痛くないようだ。ルシファーが異常なのか、『ノーワンエスケープ』の強化が異常なのか。おそらく両方だろう。


・・・ん?


『ノーワンエスケープ』は確か己の命を犠牲に超広範囲のすべての生物を消滅させる禁術だったはずだ。

・・・まずいな。


ルシファーが追い詰められたらそれを使う可能性が高い。使用時の詠唱が長いとはいえルシファーなら攻撃されようとも詠唱を続けるだろう。もし発動されてしまえば間違いなく私も死ぬ。

防ぐには発動される前に殺すしかない。しかし禁術をもってしても大してダメージを与えられていないため、詠唱されたらもう終わりに近い。


『熾天竜め!まだ生きていたか!』


気づかれたようだ。


『どうやって「ルイン」から逃れたかは知らぬが、何をしようが貴様の負けだ!傷は癒したようだが、禁術の使用により魔力は枯渇しているだろう!』


そうなのだ。禁術を使ったときにほぼすべての魔力を失ってしまった。私の魔力量はかなり多いはずなのだが。

魔法はもう使えない。ルシファーの言う通り、この状態では私の負けは確定しているようなものだ。しかし・・・


『仮に負けが決まっていようとも、最後まで抗うさ』


自分で言っておいて何だが小っ恥ずかしい台詞だ。少年漫画の主人公だろうか。


ルシファーは私の禁術『パーシュ・パタ』の対処のせいであまり私に攻撃できていない。攻めるなら今しかない。


高く飛び上がり、かなりの高さに到達したところで翼を折りたたみ、高速回転しながら落ちる。

それなりの速さと竜の体重、遠心力を乗せた尾がルシファーに直撃する。顔面を狙ったがよけられてしまった。それでも肩に当たったのでそれなりのダメージにはなったようだ。


しかし倒れる気配はないし疲労した様子もない。化け物め。


私は疲労が溜まり始めたので長引くと負けてしまう。しかし禁術を使う魔力や時間が無い。

何かないだろうか・・・。


・・・そうだ、『破魂』がある。


集中し、ルシファーの魂の位置を見極める。


・・・見つけた。隠されているが、どす黒く邪気に満ちた魂がある。

問題はどうやって当てるかだ。少しでもずれたら意味がなくなるし、一度失敗すると同じ相手にはもう使えない。

まっすぐ突っ込んで当てる?いや、確実に弾かれる。油断しているときに一気に攻めるしかない。ならば・・・。


『捕まえたぞ、熾天竜!』


あえて捕まって油断を誘う。

ルシファーは右手で私を握り、顔の前に持ってきている。嬲るつもりなのか、圧死するほどの力は加えられていない。


『貴様はこれからじわじわと嬲ってやる・・・』


『それは怖いな』


『その余裕をすぐに絶望へ変えてやる』


『そうか。これでも私は精神は強い方だと自負しているが。他人からの圧力か何かでそう簡単に折れては私がかつて行っていた仕事に耐えられなかったからな』


官僚時代、しょっちゅう賄賂や圧力が来たがそれらはほとんど受け取ったりしなかった。一部の時期に受け取ったことがあるが、それほど危険なことをやらされたわけでないので軽く注意されるだけにとどまったが。

いろいろ危険な目に遭ったおかげで私は他人からの攻撃で折れることはかなり少ない。


『何を言っている』


『要するに貴様に勝機な無いということだ』


尻尾の先にひそかに溜めていた変質させた魔力を解放する。


『なんだその禍々しい魔力は!?』


『ほう、貴様のような化け物でも禍々しいという感覚はあるようだな』


言い終わると同時に尻尾をルシファーの喉へ突き刺す。長い尻尾で助かった。

尻尾から硬いものが割れる感触が伝わり、魂が砕けたのが確認できた。


『ガアアアアアア!!?』


魂を直接破壊されるという肉体的な痛みとも精神的な痛みとも違う凄まじい激痛がルシファーを襲っているはずだ。普通の痛みや恐怖を感じただけでは絶対に出すことのできない悍ましい叫びをあげている。

痛みにのたうち回り、ルシファーが暴れるたびに地面が抉れ、悍ましい叫びをあげるたびに大気が震える。


『・・・まだ生きているのか!?』


魂を粉々に破壊されてもなお生きているとは、ありえない生命力だ。


『アアアアアアアア・・・・「ノーワンエスケープ」ゥゥゥゥゥ』


ルシファーの内部から荒れ狂う魔力が感じられ、どんどん濃密になっていく。まさか無理矢理発動させる気か。

さすがにもう私に打てる手はない。ここまでか、と思った瞬間。


「・・・デストロイ・ターゲット」


流暢な英語の発音の呟きが聞こえ、糸のように細い線がルシファーへと飛んで行った。その線がのたうちルシファーの脇腹に直撃した瞬間、ルシファーは一瞬で細かい塵になり消えてしまった。おそらく自分が殺されたことにすら気づいていなかっただろう。

こんなことができるのは限られている。大天使かアヴィスだ。

答えはすぐに分かった。


「いやはや、すごい技を使うんだねぇ。ボクも見てたけど、あれは初めて見たな。禁忌系でもなさそうだし。一体どんな技を使ったんだい?」


パチパチと妙に腹が立つ仕草で拍手をしながら近づいてくるアヴィス。こいつまだ帰っていなかったのか。


『お前に教えるわけがないだろう。さっきのは誰にも教えるつもりはないし、お前に教えたら絶対に碌でもないことに使うだろうからな』


「ひどいねぇ。まあ確かに悪用するつもりだったけどさ」


やっぱりか。


「それよりもさ、聞きたいことがあるんだ。どうして君は人間と仲良くしようとするんだい?」


口調は変わらず軽めだったが、言葉からはからかうともりや馬鹿にするつもりは一切感じられず、困惑だけが含まれていた。


人間と仲良くする理由と言われても、私が人間だったからなんだが。


「ボクたち竜は神話の時代から世界の支配者だったんだ。それなのに最近でてきた非力な人間に従わなければいけないのはなぜだい?ボクたちのような上位の竜はみんながその気になれば人間なんて一瞬で滅ぼすことができるのに、なぜ君はそれをしない?人間なんて薄汚く、環境を破壊し、他の生物を絶滅させた害悪でしかない。そんな害悪になぜ従う?」


環境を破壊すると聞いて、中には「竜が天変地異を起こすのも環境破壊じゃないか」と反論する人間もいるがそうではない。

竜は確かに引っ越しなどでその力を使い一部の地域を造り変えることもあるが、そんなことをするのは数百年に一度か外敵から攻められて本気を出した時ぐらいしかない。そのため引っ越しの時は環境が変わるがしばらくするとかつて竜が住んでいた、つまり引っ越し前まで住んでいた場所は元通りになるので全体的に見ればプラマイゼロで環境が大きく破壊されてしまうことにはならない。


ところが竜からすれば人間は森林を破壊し再生させることもせず、自分たちの縄張りを侵害し獲物を狩りまくる害悪でしかない。しかも獲物を絶滅させることもある。


だからほとんどの竜は人間を敵視している。敵視していないのは私か大人しい性格の草食竜ぐらいしかいない。それでも人間を滅ぼさないのは人間が数の暴力で仕返ししてくるからだ。互いに損しかない。

なら数体の竜で一緒に攻めれば良いということになるがそれも難しい。竜は個人主義で家族以外の竜なんて敵としか見ていない。だから竜は人間を滅ぼせずにいる。


閑話休題。


『私が従う理由は人間が好きであることと人間の文化が好きだからだ』


尤も、元の世界に戻ったらその人間を狩りつくすのだが。


「くだらない。害悪が創ったものはすべて害悪でしかない」


『確かに害悪でしかない物もあるが、良い物も探せばかなりあるぞ?人間だからと言って一括りにするのは違う』


「・・・なるほど、君なら同じ竜として分かってくれると思ってたけど、所詮は神の眷属か。残念だよ」


『何をするつもりだ』


「決まってるさ、人間を滅ぼして竜が生物の頂点に立ち、これまでのように豊かな世界にするのさ」


アヴィスの周りに邪気が集まり始める。魔力とは違う、嫌悪感を抱かせる何かだ。


まさかアヴィスまで敵にまわるとは。もう私は限界だ。大天使たちでも戦えるかどうかの強さだ。


今度こそここまでかと思った瞬間。


「さようなら、おばば様」


「ッ!?ガ八ッ・・・・!?」


オートが短剣でアヴィスの喉を背後から貫いた。同時に邪気は何もなかったように消えた。


「な・・・」


アヴィスはまさか殺されるとは思っていなかったのだろう。体はオートの尊敬するシュタットのもので、自分を殺せばシュタットも死ぬことになるからだ。


オートは俯いて、涙を流しながら短剣を引き抜き今度は心臓を貫いた。


「ごふっ・・・」


どうも短剣には特殊な魔術がかけられているようでアヴィスは抵抗すらできず、両膝をついた。


「・・・」


喉を貫かれているため喋ることはできないが、口の動きで「馬鹿な・・・」と呟いたことだけは理解できた。


「・・・」


オート立ったまま俯いて何も喋らない。当然だろう。敬愛する人物を己の手で殺したようなものだからだ。


しばらくの間沈黙が続き、沈黙を破ったのはミカエルだった。


「これで任務は終わりか?ならば我らは去る」


「お疲れ様~」


「そういえばまだ悪魔が残っていたような・・・?まあいいでしょう」


「・・・」


ミカエルが消え去ると他の大天使も次々に配下を連れて消えていった。悪魔が残っている・・・?


「ご主人ざまぁ~!!!」


涙声のせいでざまぁと言われた気持ちになった。既視感があるな。


「うわぁぁぁぁぁぁぁん!!ご主人様~!」


『まだ悪魔がいたのか。殲滅しよう』


「え、ちょっと、冗談ですよね!?」


慌てているのはアスモデウス。生きてたのか。


『何をしていたんだ』


「良かった、冗談だった・・・じゃなくて、仕事をしてのよぉ。死んだ悪魔を操ってこっそり戦ってたわぁ。悪魔が死ぬたびに仲間になるから楽だったわよぉ」


えげつないな。


「やっと終わったわねぇ。あ、殺さないでほしいわぁ。一応仲間なんだもの」


仲間か。

確かに一緒に戦ってくれていたのなら仲間だが、人間は悪魔であるアスモデウスをどうするのだろうか。


「・・・その悪魔は一応味方ですから殺しません。ですが、騎士団関係者以外に会うことは厳禁、あなたが本当に敵でないということが分かるまで監禁します」


『だそうだ』


立ち直ったオートがアスモデウスの処分を告げる。まだ完全に吹っ切れていないようだが、立場上悲しんでばかりはいられないのだろう。


「嫌よぉ!ご主人様と一緒がいい!」


そう言って地面に倒れてジタバタと暴れるアスモデウス。子供か。


しかし私と一緒が良いと言われてもな・・・。


どうしたものかと考えていると、周りが動かなくなっているのに気付いた、声をかけても反応が無ない。アスモデウスも中々すごい体勢で固まっている。


『いやぁ、ちょっと様子見に来たら大変なことになっていたみたいだね』


子供っぽい神の声だ。


『何の用だ』


『様子見だよ。あと報告か。えっとね、リセットの手続きは順調だよ。まだかなり時間はかかるけどね。君には前も言ったように元の世界のすべての生物の魂を刈り取ってほしい。管理はこっちでするから。ちょうど悪魔の件も片付いたみたいだね。一部始終を見ていたらしくてその世界の神が感謝してたよ』


『そうか』


見ていたなら手助けぐらいはしてほしかったな。


『それでね、特別にシュタットっていう人を生き返らせることにしたらしいんだ。やったね!あ、アヴィスとかいう竜は消すって。じゃ、問題も片付いたから君を元の世界へ転送するよ。頑張ってね!・・・・・・やばっ、転送先の座標設定間違えた』


不穏な呟きが聞こえたが聞く前に止まっていた時が動き出し、神とのつながりが絶たれた。


私の足元に光り輝く魔法陣が出現し、私を包み込む。


「なんですかそれは!?」


『元の世界に戻ることになった。世話になったな』


「ご主人様ぁ!いかないでぇ!」


「うう・・・」


オートが驚き、アスモデウスが泣きながら私に抱き着き、いつの間にか傷が消えたシュタットが目を覚ます。


「おばば様!?い、生きていたのですか!?」


「・・・オートか・・・?悪魔は、アヴィスは・・・」


「もうすべて終わりました。おばば様・・・良かったぁ・・・」


「・・・泣くでない・・・竜も、世話になったな・・・」


シュタットが私の方を見た時にはすでに転送が始まっていたが、一瞬だけ私を見た目には感謝の念が込められていた。

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