それぞれの動き
『軽い、脆い、弱い!これが現実だ、熾天竜よ!絶望を抱いて逝け!』
ルシファーに吹き飛ばされてからしばらくたったが、まともに攻撃できていない。
ルシファーが腕を振れば風圧で吹き飛ばされ、口からは黒い火球を吐いてきて当たると全身が燃える。
しかもルシファーは時間が経つごとに成長し強くなっていく。
初めは獣だったがしばらくすると白い翼が生え、またしばらくすると角が王冠のように生えた。
生半可な攻撃はすべて翼に阻まれ、角を利用した突撃は当たれば死ぬだろう。
せめて魔法が使えたらもう少しまともに戦えただろうが、今は防戦一方だ。
『死ねっ』
鋭い鈎爪が振り下ろされ、私の右の翼が抉られた。
『ぐっ・・・』
鎮痛の魔法で痛みは軽減しているが無理に動かすことはできない。
翼が無くなったので地面に叩きつけられる。
『仕留め損なったか・・・避けることだけは上手いようだな』
『避けてなどいない。貴様が外しただけだろう?負傷した竜すら一撃で仕留められないとはな』
自分よりはるかに腕の立つ相手が自分を一撃で仕留められないなら慢心があるはずだ。そこにつけ込むことができれば多少はましになるだろうが・・・。
『ほざけ!ならば仕留めてやろう!「ルイン」』
地面から鎖が飛び出し、私の体を拘束する。鎖の陰からゆっくりと黒く細長い何かがいくつも現れる。
「それ」は赤子の手にも鳥の嘴にも見え、私を見つめている。
何だと思った次の瞬間、それが一気に襲い掛かってきた。
「それ」は嬉々として私の体を引きちぎり、啄み、喰らっていく。
『がああああああああああ!!!』
異様な激痛に耐えられずもがくが鎖は暴れれば暴れるほど私の体に食い込み、ズタズタに引き裂いていく。
最終的にほぼ肉塊となった私の目の前でいくつもの「それ」がゆっくりと融合していき、黒い蛇になった。
黒い蛇は大きく口を開け、ゆっくりと迫ってきた。
『最期がよく分からん奴に喰われて終わるとはな』
呟いた瞬間、私の全身が黒い蛇に飲み込まれた。
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「あの、オルガ様」
消耗品が声をかけてくる。不快だ。
ついさっき何者かから自分の現在地を特定され、追跡者の特定と妨害工作、それに付近で起きた謎の大爆発の調査をしているところだ。
自分が造った対破砕砲多重結界M-08のおかげでこの施設自体は大した被害はないが、肝心の防衛結界が破壊されてしまった。
初めはアンジェラの仕業かと思ったが、時期や位置的にもあれほどの威力を発揮する攻撃手段を持っているはずがないとしてその可能性は除外した。
次の可能性は『異世界転移組』などと呼ばれている少年少女だが、それも違うと考えている。
彼らの肉体組織には何ら特異点はないが、魔力と呼ばれる一種のエネルギーが大きく作用していることが分かっている。常人の魔力変換効率を100とするならば、異世界転移組の彼らの魔力変換効率は800を超える。武器に例えるなら、素手と対物ライフルほどの差がある。
彼ら全員が力を合わせればあの大爆発は引き起こせるだろうが、そんなことをする理由がない。あの施設はまだ自分しか知らない最重要機密だ。漏れることなどあるはずがない。
だとすれば、Sランク冒険者とかいう精鋭部隊か?
「あの・・・オルガ様」
消耗品がうるさいのでさっさと要件をすませる。
「常温核融合炉のコントロールパネルと放射能汚染防止システム及び放射能検出装置に深刻なエラーが発生したそうだな。コントロールパネルは整備アンドロイド、放射能関連は核心重作業アンドロイドを向かわせろ。それと核融合炉内部のジェネレータに特殊重作業アンドロイドも向かわせてオーバーホール作業をさせろ」
「よろしいのですか?」
「一時的に一つ使えなくなったところで大してこまらない・・・まだ何かあるようだな」
「は、はい。あの・・・・最重要機密ルームに生体反応があります。知性も確認できており、脅威度は測定可能な下限のうち最高ランクのAです」
「・・・防衛はどうなっている」
「あ、あの・・・それは」
「もういい」
背を向けたまま消耗品の眉間を撃ち抜く。声を上げる間もなく絶命し、噴水のように血を吹きながら倒れた。
「所詮は消耗品か。与えられた仕事すらまともにできない」
死体を粒子化処理ポッドへ転送し、付着した血はミクロに分解する。本当にこれらの設備を造った人間はどこまで怠惰なのかと思う。日々の小さなことでさえ機械に任せるのだから。それを使っている自分が言うのも何だが。
自分の創られた世界では機械に頼りすぎて機械が無ければ生きていけないほどにまで人類は衰退していた。アンジェラのように健全な身体を持つ者は数えるほどしかいなかった。
『わたしみたいに健全な身体と心を持つ人がやらないと世界は変わらないの!ねえねえ、どう思う?わたしの研究所の名前、「Silver bullet」にしたの!』
『「Silver bullet」・・・直訳すると「銀の弾丸」。とある国で人狼や悪魔を撃退できるとされたことから「物事の解決」を意味する。なるほど、考えましたね』
『すごいでしょ、えっへん!』
『胸を張る、という仕草ですがあなたのように胸がない、俗に言うぺったんこな人は胸を張るといえるのでしょうか』
『ひ、ひどい!女の子にそんなこと言うの!?しかも君は一応男だよね!?デリカシーがなさすぎるよ!』
今いるアンジェラと出会ったばかりの時の会話を思い出す。この時から復讐心があったが、何故だか彼女といるとどこか心地よくも感じていた。今までの彼女とは似ても似つかない、変わった彼女だった。
この彼女なら、自分の運命も変わっていただろうか。
・・・考えても無駄だ。復讐をやめるつもりは一切ない。
「ネズミを駆除しますか」
勝手に自分の施設に侵入するようなネズミは駆除しなければ。
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・・・。
喰うならさっさと喰ってほしいものだ。
喰われてからしばらくたったが、消化される気配もなければ死ぬ気配もない。
今私がいるのは何もない、光のない真っ暗な空間で上も下も分からない場所だ。さっきのよく分からん黒い蛇に喰われたらこうなった。
『しかし禁術を使うとはな。私も一つ使ってみようか』
いつまでたっても死ぬ気配がないので暢気なことを考える。目には目を歯には歯をのような感覚で私も禁術を使って対抗してみようと考えている。
どうやらここはいくらか魔法は使えるようで、少しずつ回復魔法をかけて傷を癒している。完治にはしばらくかかるだろう。完治するまで何もしないというのもあれなので、ここからの脱出方法を考えよう。
このよく分からん空間は次元魔法で破壊してみようと考えている。時間はあるし、誰かを巻き込む心配もないので心配なく次元魔法を使える。
どれを使おうか。以前使った『次元屈折』は除外。屈折させただけで脱出できるとは思わない。
『視界亀裂』はどうだろう。視界の空間全体に亀裂を入れて全てを切り刻む魔法だ。しかしこれも一瞬切り刻むだけですぐに空間が復元されてしまうので破壊は無理だ。
『空間破砕』なら可能性は高いが仮に空間を破壊したところで脱出できる保証はないので最悪空間全体が壊れて自爆して死ぬということにもなりかねない。しかしやらないことにはどうしようもないし他の魔法も同じような物なのでこれしかない。
禁術は・・・ろくなものがない。
他の禁術もそうだが『ノーワンエスケープ』に『ノーワンエスケープ』を重ね掛けするのは不可能になっている。万が一禁術を行使する者が複数いた時に同じ禁術を重ね掛けするととんでもないこと、最悪世界が崩壊するので使えない。
代償も大きいので、万が一に備えて魔力消費が少ない物を選んだ方が良い。
そうなると・・・あれしかないか。




