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竜は静かに暮らしたい  作者: イエス・ノー
七章 天空世界
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ノーワンエスケープ

投げた大剣が途中で消滅した。


何の前触れもなく、もともと無かったかのように跡形もなく消滅した。あの大剣の持ち主が何かしたのだろうか。


考えていたら急激に全身の違和感を感じた。纏っていた魔力が突然霧散し、全身を倦怠感が襲う。

魔力妨害だろうか。使おうとしても一瞬で霧散してしまい、取り戻すこともできない。

一応魔力を限りなく薄く、一度に使う量をほぼ最小にすれば使えるが当然意味がない。濃縮して使うこともできるが一定量を超えると魔力が暴発する恐れがあるし、ぎりぎりまで濃縮したとしてもあまり意味はない。

今の私の状態は魔力のタンクに繋がれたパイプを非常に脆い小さく細いパイプにされたようなものだ。一度に出せる量は必然的に少なくなり、無理に出そうとすればパイプが壊れて魔力が暴発する。


正直暴発したところで私ならどうとでもできるが、魔力が実質使えない今の状況で暴発させればかなりのダメージを負てしまい、回復できないので困るのは目に見えている。

一応回復魔法には今の状況でも問題なく使える物もあるにはある。魔力を体内で消費するだけならば問題なく使えるからだ。

しかしその回復魔法というのは魔力で直接回復するわけではなく、自然治癒力を強化するだけだ。つまり異様な速度で細胞分裂が繰り返され、不自然な治り方をするから完治するまで想像を絶する激痛に悶え苦しむことになる。

一度だけ私も使ったことがあるが、傷口がボコボコと盛り上がって再生していく様子はとんでもないグロさだったし、治った後も変な瘤ができたので取り除くために自分で自分を傷つける羽目になった。


要するに回復魔法はいろいろな意味で使えないのだ。


「使える魔法は・・・体内で魔力を消費する物か・・・ん?『身体強化』の一部が使えなくなっているな」


どうやら問題なく使える魔法は『体内で魔力を消費し、効果が体内に現れるもの』のみのようだ。筋力の強化などはできるが。体を魔力で覆って外部からの衝撃を和らげたりする強化ができない。


少々厄介だ。


魔法による牽制ができないから、ほぼ肉弾戦になる。肉弾戦は人型よりも竜の方が強いだろう。


魔力を消費して竜へと変身する。


『・・・どうやら竜の姿は大して変わっていないようだな』


しいて言うならば少し体が大きくなった程度だろうか。


しかし前よりも大きな力が宿っているのを感じる。使いこなせるだろうか。


『まあ、今やることは悪魔の討伐と魔力妨害の原因究明と対応か』


魔力が使えないのは人間もそうだが悪魔も同じのようだ。


しかし人間は困惑しているのに対し悪魔たちは全員が怯えた表情を浮かべ、中には体が震えている者もいる。


原因はすぐに分かった。


奥の方からドレスのような鎧を着た、長い黒髪に深紅と月白色のオッドアイ、手には光を吸収するほど黒い漆黒の大剣を持っている女性らしき悪魔がゆっくりと歩いてくる。

その悪魔からは体を押さえつけるような威圧感が放たれており、近くの悪魔のほとんどは口から泡を吹いて倒れた。

人間に至ってはほとんどが倒れている。


「ッ、ルシファー!」


『ガブリエルか。いつの間に戻ってきたんだ。あと降りてくれないか』


いつの間にか私の上に乗っていたガブリエルが叫ぶ。


あの異様な威圧感を放つ悪魔がルシファーなのか?確かに見れば誰もが圧倒的な強者だと理解させられる雰囲気を纏っているが。


・・・そういえばルシファーの能力は敵味方関係なく弱体化させるという能力だったはず。見たところあいつは魔力妨害の影響を受けていないようだから、あいつがルシファーだろう。


「・・・ガブリエルか」


澄んだ美しい声だった。

声だけならば天使だと思う者もいるだろうが、正体を知っていてこの正真正銘の地獄で敵として出会えば何というか不気味に感じる。悪役と言えばおぞましい声というのが前世の常識だったからだろうか。


「己の力に溺れ、堕ちたか。裏切り者は滅するのみ」


『ミカエルか。何故お前も私の上に乗るんだ』


乗り心地はお世辞にも良いとは言えないんだが。


「君はもう、君じゃない・・・天界にいたころはとても気高く美しかったのにね」


『ウリエル。・・・もう何故私の上に乗るのかは聞かん』


「・・・」


『いたのか、ラファエル。全員いつの間にか私の上に乗っているというのは軽くホラーなんだが』


気が付いたらそこに居るというのはホラーでよくある展開だ。まさかこのまま私が殺されたりしないよな?


「我が神にふさわしいのだ。力こそすべて。千年二千年の時が過ぎようと、力ですべてを手に入れるという世の構図は変わらぬ。天使と悪魔の力があればすべてを手に入れられよう。我はすべてを超越した存在だ。我は不老不死。貴様らが何をしようとすべて無駄だ」


『愚かだな』


思わずつぶやいた。

天使とルシファーがこちらを見る。


『不老不死を素晴らしいものだと勘違いしているようだが、不老不死ほど恐ろしいものはない。永遠に生き続けるということはすべてを手に入れるのではなく、ただ失い続けることだ。手に入れたものは何であろうと時間と共に消えていく。命は限りあるからこそ価値がある』


定められた時間の中で生きるからこそ人は輝く。


もし永遠の時を生きられたとしても、いずれそれはただの呪いへと成り下がる。永遠の時に耐えられる存在など居ない。


「なんだ貴様は」


『熾天使のような存在だ』


「熾天使だと?」


「そういえば貴様は元は熾天使だったな。なぜ熾天使であることを捨て、悪魔に成り下がった?」


「さっきも言った。力こそすべてだ」


『こいつに話は通じないぞ』


何を聞いても力こそすべてと答えられる無限ループが起きてしまう。


私としてはそろそろ元の世界に帰りたいのでさっさと戦争を終わらせたいのだが、ルシファーを倒すのには苦戦しそうだ。

そういえばもとに世界に戻ったら私は世界のリセットの手伝いをするために殺戮をしなければならなかったな。今考えれば本当に世界が滅ぶのかも怪しい。もし滅ばないのなら、殺戮をする必要なんてないかもしれない。


どちらにせよ、今は目の前のルシファーをどうにかしなければ。


「おい、そこの竜」


「あ、呼んだ?」


アヴィスが私の額に乗る。目の前が見えないからどいてほしい。というか、まだ帰らなかったのか。さっきの大地を破壊するような攻撃はたぶんアヴィスの奴だ。今のところ仲間がアヴィスに邪魔されるということは起きていないが、なんとなくアヴィスは信用できない。


「ひどいなぁ。確かにボクは邪竜だけど楽しませてくれる相手がいる間は変なことしないって。あ、心を読んだのはボクの能力だよ」


楽しませてくれる相手がいる間は・・・か。これは気を付けた方が良さそうだ。


「誰だ貴様。我が呼んだのはそこの白い竜だ」


『私か?』


「そうだ。・・・我、《傲慢》のルシファーは貴様、熾天竜に一騎打ちを申し込む!」


一騎打ちだと?


私としては一対一の真剣勝負になるから集中できるという良い点と魔法がほぼ使えないため全力で戦えないという不利な点がある。

しかし正式に一騎打ちを申し込まれては私も受けざるを得ない。


ルシファーの目的は何だろうか。外野に邪魔されたくないのか、一人でも私を討伐できると思っているのか。おそらく後者だろう。肩書が《傲慢》だし。


しかし一騎打ちの返答など私は知らない。適当に答えておくか。


『熾天竜シュラ、ルシファーとの一騎打ち、受けて立つ!』


「ねえ、返答ってこれでいいの?」


「僕は知りません」


「ううむ・・・良いとは思うが、どうであろうか」


「ボクは良いと思うよ」


「・・・」


なんだその微妙な反応は。私が間違えたみたいではないか。実際間違えているのかもしれないが。


あと戦うからいい加減にどいてくれ。

そう伝えようとしたが伝える前に全員どいてくれた。


「ふっ・・・何分耐えられるかな?」


『私はしぶとさが売りでな、そう簡単には倒れんぞ』


「ほう」


ルシファーが笑い、手に持った大剣を大上段に構える。どこかで見たことあるな。ああ、前世の剣道だ。


「まずは」


ルシファーの大剣を握る手に力が入る。


「小手調べだ」


大剣が魔力を纏い巨大化し、音を置き去りにする速さで振り下ろされる。


これも似たようなものを見たことがある気が・・・ああ、アスモデウスの『裂身爪』だったか。


『思考加速』『身体強化』『韋駄天』


魔法を使い能力を上げる。主に速度を重視したのにもかかわらず目で追うのが難しいほどの速さで大剣が迫ってくる。

まともに当たれば私ですら両断される。しかしもう回避は間に合わず、正面から防ぐのも無意味だろう。


だったら弾く。


翼の先の超硬質な棘を短剣に見立て、大剣の刃に当て、弾く。


『なんて馬鹿力だ・・・!』


下手に弾いていたら勢いを殺せず翼が真っ二つになっていただろう。


攻撃はこれで終わりではない。次が来る。


ルシファーは弾かれた瞬間、大剣を指の力だけで軽く持ち、弾かれた時の大剣の勢いに引っ張られないようにしていた。弾かれるのは予想していたのだろう。


「初太刀を凌ぐか」


やはりと言うべきか、初太刀よりも重く鋭い一撃が来た。これは強すぎて弾くのは難しい。

回避は・・・何とかできる程度だろうか。


仕方がない、負傷覚悟で行くか。


斬り下ろしの刹那を見切り、斜め前へ進み避ける。しかし完全には避け切れず、左足を深く斬られてしまった。


「なっ!?」


振り切り硬直しているうちにルシファーの左脇へ喰らいつく。


竜の最も強い武器は鋭い爪でもすさまじい力でもなく、牙だ。爪や力は獲物を追い詰めるために使って仕留めるときに牙を使う。


脇は神経が集中しており、止血も難しいので急所として刃物で刺すときによく狙われる。今回は牙で肩ごと噛み砕いた後引き裂いた。


「ぐがぁあああああああ!?」


噴水のように血が吹き出し、辺りにむせかえるほどの血の臭いが充満する。ルシファーの足元にはすぐに血の池ができ、ルシファーが倒れた。


今のでそれなりにダメージを負ってくれていたら嬉しいのだが・・・。


「や、やったのかな!?」


『何故それを言う』


それはやっていないフラグだというのは私でも知っている。


予想通りルシファーはすぐにゆらゆらと立ち上がり、ぐちゃぐちゃになった肩から肉が盛り上がるようにして腕や手が再生された。非常にグロい再生方法だ。


「まさか我に一撃を与えるとはな、少々見縊っていた。これなら本気で楽しめそうだ。せいぜい足掻くがいい、白き竜よ。『ノーワンエスケープ(誰も死から逃れられぬ)』」


今のは・・・。


ルシファーが禁術を唱えた瞬間、ルシファーの姿が変化した。獣と悪魔が融合したような、不気味でおぞましい巨大な怪物に変化した。


禁術の一つ、『ノーワンエスケープ(誰も死から逃れられぬ)』。

術者を中心とした術者以外の一定範囲の生物すべてに効果を及ぼす、名前の通り殺戮専用の魔法だ。

禁術に指定されている理由にはいくつかあるが、真実は分かっていない。というのも、禁術のほとんどは人間ではなく神が指定する物のため、神に指定されたものは使い方はもちろん効果もよく分からないことがほとんどだ。

ごく一部の禁術は謎が解明し人間でも使えるが、神からの許可を得ていない者が使えば当然大きな代償を必要とする。それらの人間が使える禁術の代償は十数人の魔術師の命。ただし魔術師なら誰でも良いというわけではなく、宮廷魔術師の中でもエリートに属するような、世界最強に近い魔術師の命が必要になる。


そんな禁術を使うということはルシファーは禁術の使い方を知り、神からの許可を得たということになる。私は『魔導を極めし者』の中に禁術も含まれていたので許可は貰ったものと解釈している。


いや、もしかすると許可を無理矢理奪ったのだろうか?それとも代償を抑える方法を知っている?まあどちらでもいい。


「うええ、気持ち悪!」


「心だけでなく姿まで醜くなったな。堕ちたな、ルシファーよ」


「うわぁ、あれは僕でも引きます」


「・・・(不快感を隠さず顔を歪めている)」


ガブリエルたちが何やら言っているが無視する。緊張感がないので聞くと私も緊張感をなくしてしまう。


『黙れ、神の走狗が!我とてこの姿は嫌だ!代償のせいでこんなことになってしまうのだ!』


嫌なようだ。やはり代償があるらしいが、仮にもノーワンエスケープ(誰も死から逃れられぬ)という禁術の中でも危険な部類に入るのにこの程度の代償で済むのは不可解だ。やはり代償を抑える何かがあるのだろうか?

もしあったとしたら調べてみたいものだ。神からの許可はあるとはいえ、いろいろあって私は禁術を使ったことはないが、代償を抑える何かは保険として持っておきたい。いや、そもそも禁術を使わなくても最悪次元魔法でどうにかなるか?


『戦闘中に考え事とはな!』


『うおっ』


まともにパンチを喰らった。一瞬感覚が失われ、気が付いた時にはかなり遠いところまで飛ばされていた。

ここまで離れても魔法が使えないとは。今の一撃で結構ダメージを負ったのだが、回復できない。できると言えばできるけどやりたくないし時間がない。


激痛を我慢しながら空を飛び、ルシファーと対峙した。

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