決戦直前
シュタットたちと話し合ったが、客観的に私たち天使の実力は人間と比べ物にならないほどだと言うので、雑魚もとい人間の騎士は掃除を担当することになった。
・・・なんか天使になってから口が悪くなった気がする。
アスモデウスも来てもらうことにした。一応大悪魔なので戦力にはなる。
「頼りにしてもらえてうれしいわぁ、ご主人様ぁ。もしかして惚れ」
「余計なことをすれば容赦なく魂を狩るからな?」
「はい」
決戦だと言うのに緊張感がない事を心配するべきかいつも通りのことを喜ぶべきか。変に緊張してガチガチにでもなられたりしてはそれはそれで困るが。
「準備はいいな?」
背後の人間の騎士や召喚した天使軍、竜に確認する。
天使軍は天使と四大天使(ミカエル・ガブリエル・ラファエル・ウリエル)を召喚した。
ミカエルは悪魔と戦ってもらう。
ガブリエルは私が知る中では戦いには向いていなかったので召喚するつもりはなかったのだが無理矢理召喚に割り込んできた。
ラファエルはオートと共に回復担当。
ウリエルは最高指揮官を担当してもらう。
「ようやく悪魔との戦いに終止符を打てるのだな」
「四大天使の一人なのによばないってどういうこと?アタシだけ楽しいことを仲間外れにするなんてずるい!」
「・・・」
「人間と協力ですか。連携というのは同等か近い実力がないと無理なんですがねぇ・・・」
ミカエルは前世のスパルタ軍のような格好で手に槍を持っている。
ガブリエルは幼女で子供っぽい。
ラファエルは聖母のような慈愛に満ちた微笑みを浮かべている。
ウリエルは眼鏡らしきものをかけた優等生のような見た目だ。
ウリエルは人間と協力することに不満なようだ。
「すまんのぉ、人間はこれが限界なんじゃ」
「へえ、こんな貧弱な舞台のくせに七美徳とかアタシたちの真似をしたの?あはは、馬鹿みたい」
「愚かですね。天使でもない人間が我々の模倣をするなどおこがましい」
「よさぬか。我らと人間を比べるな。比べるべくもないのは我らが最もよく知っているだろう」
「・・・」
ひどいな。
心なしか人間の騎士たちの額に青筋が浮かんでいる気がする。しかし四大天使のいうことは事実なので反論できないようだ。
しかし決戦前に喧嘩して不協和音を招くのはやめてもらおうか。
「私から見れば人間もお前たち四大天使も同じようなものだ」
「ん?」
「精神が子供だ」
「言うねぇ」
「事実だ」
「へぇ?」
ガブリエルが挑発的な笑みを浮かべ、他の四大天使も臨戦態勢になり威圧感を放つ。相手がやる気なら私もやってやろう。
威圧に殺気を乗せて大鎌を構える。
「・・・」
「・・・」
沈黙。
心なしか周りの空気も殺伐としたものになっている気がする。
しばらくの間互いににらみ合っていたが、不意にガブリエルが笑った。
「あはは、参った参った!上司が急に竜を熾天使と同じ階級にしたって聞いて、はあ?って思ったけど、納得の強さだね!」
「元が竜ということもあるでしょうが、かなりの実力がなければこれほどの威圧はできなかったでしょうね」
「認めよう。其方は強者である」
どうやら試されていたようだ。
確かにいきなり知らない奴が熾天使になってそいつに従えなんて言われたら反発するだろう。何年も務めてきた会社にいきなり知らない奴が社長になってそいつに従えと言われるようなものだ。
威圧しただけで認めてくれたのは人間とは少々違う考えを持つ天使だからか。人間だとこうも簡単にはいかなかっただろう。
彼らは人間たちに非礼を詫び、騎士たちも謝罪を受け入れた。
「やれやれ、どうなることかと思ったわい。一般人なら気絶するほどの威圧と殺気じゃったぞ」
「そんなにか」
「まあ、これほどなら問題あるまい。さて、そろそろ行くぞ」
シュタットと私が合図を出し悪魔の世界へ突撃した。
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アンジェラ視点
「魔力ってなに!?原子配置は?質量は?融点とか沸点はあるの!?魔法とやらで生み出された水は本物なの!?」
「お、落ち着いてよアンジェラちゃん!そんなこと聞かれても分からないよ!私理系じゃなくて文系だし!」
「あ、ごめん。科学者としての血が騒いじゃった」
この世界に来てしばらく経つけれど、これほどわくわくしたことは今までになかった。
私の常識が通じない、全く未知の力が当たり前に存在する世界。この世界では魔法というものは魔力または魔素というものを使って行使するみたい。私には使えない。
でも魔力とは何なのか、ちゃんと存在する物質なのか、物理法則に従っているのか、またこの世界の空気の成分は何なのか、調べたいことが多すぎて大変だ。だけど研究して未知の事柄を解明するのは天才科学者である私にかかれば簡単。研究に必要な道具がないならば作ればいい。
私はただの研究バカではない。応用が効くように幅広い学問を修めている。
でもこの世界は古典力学すらない。なので物体はなぜ下へ向かうのか、そんな簡単なことすら知らない。キャロルさんを除いて。
でもキャロルさんは理系じゃないから専門的な話はできないんだよね。まあ、それでもそれなりに高度な物理や数学を修めているから私の知らない公式を教えてもらえたりしてかなり楽しくさせてもらってる。
「私は数学者じゃないんだからそんなこと言われても分かんないよ」
とは言っていてもなかなか頭がいいので遠慮なく質問攻めしている。
話を戻すけど、この世界に古典力学や量子力学がないならこの世界の物理や力学も私のいた世界と同じと仮定して研究することにした。
すると次のことが分かった。
魔力とは非常に奇妙な性質を持つ原子のようなもの。次からは魔力原子と呼ぶ。
誰かが魔法を使うとき、魔力原子は周囲にある様々な原子を吸収して性質を変える。炎であれば酸素、爆発であれば水素、風であれば性質は変わらず大量の原子の粒子が指定した方向に飛ぶ。
そして魔法の効果が切れたとき、魔力原子は吸収した原子を放出して元の状態に戻る。イオン化と同じようなものかと思ったけど電子の放出は確認されなかったし、魔力原子はそもそもイオン化しないみたい。
魔力原子は安定しているのか不安定なのかよくわからない。何にでもなれるし、組み合わせ次第ではとんでもないものが造れるかもしれない。
だけどこの魔力原子によって起こる現象はすべて偽りであり、時には物理法則を無視した動きをする。
例えば、魔法で水を出して飲んでも喉の渇きはなくならない。本物の水に限りなく近い別の何かとして扱われるみたいだ。
でも魔力は何なのかは大体分かった。もっとサンプルが欲しいからちょうど近くで寝ているキャロルさんに協力してもらおう。
苦労して造り上げた心理抽出機の管をキャロルさんに取り付けて抽出開始。取り出すのは魔力。
「んんっ・・・」
魔力を吸い取られることに違和感があるのか身じろぎする。抽出した魔力はどろどろした奇妙な液体だった。
これを使ってもっと研究しよう。
・・・。
・・・・・彼に終止符を打つために。
勝手に創り、勝手に消す。
我ながらひどいとは思う。
だけど、彼は私の手で止める。
それが私にできる贖罪だから。




