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竜は静かに暮らしたい  作者: イエス・ノー
七章 天空世界
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決戦へ向けて

「ちょうどいい機会だ、お前を浄化しよう」


「いやああああああああああ!!!!」


「逃げても無駄だ。『スパイラルショット』」


「ひゃああああああああ!!!!」


寄生虫もといアスモデウスがしつこいので大鎌の性能を試すついでに魂を刈り取ってみようと思い、襲撃した。


熾天竜になった私を見てアスモデウスは目を見開いてフリーズし、しばらくするとものすごい勢いで逃げだした。


今使った技は大鎌をブーメランのように回転させながら投げる技で魔力が渦を巻いており綺麗にみえる。しかし技の内容は相手の急所を狙って即死、そうでなくても身体の切断というえげつない技である。


アスモデウスは紙一重で避けるが戻ってきた大鎌を避けられず脇腹に小さな傷を受けた。


「っ!?」


アスモデウスは驚いて自分の胸を抑える。なぜ無関係なはずの胸に痛みを感じたのか不思議なようだ。


「お前の魂が損傷したから胸が痛くなるんだ」


この大鎌の恐ろしい所は鎌の刃で傷をつければどこであろうと傷に応じたダメージを魂に与えられる点だ。

魂にダメージを与えてしまっては『破魂』で魂を破壊するのと同じではないのかと思うが微妙に違う。

魂は肉体の他に精神、魂魄壁という物で護られている。『破魂』は魂魄壁もろとも魂を破壊するが、大鎌による攻撃は魂魄壁のみを破壊し本体である魂は無傷で入手することが出来る。

また、鎌での魂の入手はしばらくの間は自由にできるので死んでも困らないアスモデウスを実験体にすることにした。


だが魂魄壁は丈夫なので相手が死んでも魂魄壁が残っていれば死後も攻撃しないと魂を回収できなということがある。

『魂狩り』という技で急所を狙えば一発で確実に入手できるのだが発動までの待機時間が長い上に急所以外だと何故か攻撃が当たらないという、不意打ち専用のような技のためあまり意味はない。


「安心しろ、魂を回収してもすぐに肉体に戻すさ。成功するかは分からんがな」


「安心できないわよぉ!」


「天使が悪魔を滅ぼすのは当たり前のことだ。『災禍の撃滅』」


光の魔力を刃に宿し逆袈裟斬り。


「うっ!」


急所に当たった。


アスモデウスが倒れ、体から魂が浮かび上がった。


『縛魂』


消滅しないように魂を縛り付ける。

アスモデウスの魂は・・・・なんと言うべきか。


「・・・さんざん食い荒らしたようだな」


魂を見れば穢れやどんな人生を送ってきたかを知ることが出来る。アスモデウスの魂はもう真っ黒で謎の粘液で覆われていた。

天使としての生理的な不快感と拒絶感を感じるが我慢して視るとアスモデウスの過去は色欲を体現したものだった。


これ以上視るのはよくない。忘れよう。


『・・・!』


魂が抗議するように震えるが真っ黒な謎の生理的な不快感を与えるものが動くと余計に気持ち悪く感じる。さっさと魂を元に戻そう。


「あ、そうだ」


魔法で鼠の体を造る。


そこに魂を入れて固定し捕縛を解くと鼠が動き出した。


「チチチッ!」


可愛らしい声で鳴きながら私を見上げるアスモデウス。


尻尾を持って持ち上げる。


「チュッ」


・・・・何か声に艶が混じっていないか?


アスモデウスに更に禁断の扉を開けさせないためにも元に戻すことにした。


「ご主人様ぁ・・・・・もっとぉ」


元に戻るなり目がハートになりながら迫ってくるアスモデウス。どうやらまた扉を開いてしまったようだ。


『冥王の鎌』


足を斬って動けなくする。斬った場所と付近の運動能力を奪う技なのでしばらくは動けなくなるはずだ。


「あんっ!無理矢理地面をなめさせるご主人様・・・素敵」


もうだめだ。精神衛生がどんどん悪くなる。


「そのまま寝てろ」


テぺスはそろそろ泣き止んだだろうか?


-------------------------


「・・・すごいな」


テぺスの足元どころか広場全体が水で覆われている。泣きすぎではないだろうか。


『あんま見んといてぇやぁ。竜の乙女の涙は見て見ぬふりするもんやで』


『・・・誰』


知らない声があったので見ると地竜のモルフェルが起きていた。眠そうな目で私を見ている。


「人間に味方する者だ」


『変な声』


「私もそう思う」


モルフェルはギルドラドたちが死んだことは知っているのだろうか?

おそらく知っているはずだ。いくら巨大な竜とはいえ竜が二頭いてもまだスペースがあるこの広間を水で覆いつくすなど一頭では無理だ。


『・・・ねえ、これからどうしよう』


モルフェルの問いは自分自身に向けられていた。やはり知っていたのだろう。

家族のほとんどを失い、悪魔と戦う力もない、今まで人間と関わってこなかったので人間とどう接すればいいのかすら分からない。


『もう今までみたいには無理やろ。ここまで迷惑かけといて何もせんと帰えんのはあかんわ。共存しかないんちゃう?』


『でもどう接すればいいの?』


「簡単じゃよ。人間について学べばいい」


『・・・誰』


「シュタットだ。ここの長のようなものだ」


「うむ。妾はお主らと近しい存在じゃ。人間のことも竜のことも理解できる。じゃから妾の言う通りに人間について学べばいい」


「だそうだ」


「何を言っておるんじゃ?お主も学ぶに決まっておろう」


「なに?」


「お主も一応竜じゃろうが」


確かに一応竜だが私が学ぶ必要性はあるのだろうか。前世は人間だったぞ。


・・・しかし、シュタットが人間についてどのような講義をするのかは気になる。


-------------------------


結論から言うと、シュタットの講義は非常に分かりにくかった。


純粋な竜の感覚では分からないことを「何で分からないんじゃ?」と心底不思議そうに首を傾げたりして、全く講義が進まなかった。


そのため私が人間について講義をすることになり、テぺスたちは頭がよかったので一時間ほどで人間についておおよそ理解することが出来た。


「竜に負けた・・・・じゃと?長い間人間として過ごしてきた妾が・・・?」


ショックを受けた顔で膝から崩れ落ちているが無視しても構わないだろう。テぺスたちに人間のことを理解してもらえれば良いのだから。


「おばば様、悪魔たちに不穏な動きが」


広場を出ようとするとオートが報告してきた。

不穏な動き・・・まあ、大体予想はつくが。


「悪魔が協力関係になって襲って来ようとしているのか?」


図星だったようでオートは目を見開いて私を見た。


「なぜそれを」


「なぜも何も、七体の大悪魔のうち三体が短期間でいなくなったのだから、いくら仲が悪かろうと悪魔の全滅だけは防ぐために一時的な協力関係になることは簡単に予想できる」


レヴィアタンとマモンの会話で悪魔同士は仲が悪いだろうとは思った。個人同士の仲が悪いだけかもしれなかったが、どうやら悪魔全体が仲が悪いようだ。


「あと残った大悪魔は《憤怒》《嫉妬》《暴食》そして《傲慢》か。それぞれの能力は分かっているか?」


基本的に七大罪の名前を冠した能力なのでこれもだいたい予想がつくが念のため聞いておく。


「傲慢以外は名前の通りです。《憤怒》は激情に身を任せて正真正銘のベルセルクとなりすぐに対処しないと手が付けられなくなります。《嫉妬》は嫉妬した相手の能力を模倣します。《暴食》はすべての物を食らいつくす能力です。それと《傲慢》ですが、これは少々特殊なのです」


「特殊?」


「はい。傲慢の原点は己が他者のすべてを上回っており、対等な存在がいないのでうぬぼれることです。ですので《傲慢》は敵味方問わず認識する者すべての能力を大幅に低下させるものです。他にも、《傲慢》の悪魔ルシファーは堕天使ですので他者を堕落させ洗脳する能力を持っています。天使にとっての天敵です」


正確にはほとんどの大悪魔が元高位の天使だったんだがな・・・。


そういえばアスモデウスは元智天使だったらしい。熾天使の一つ下の階級である智天使があんな色欲にまみれた存在になるとは・・・。


・・・私も堕天使になる可能性があるな。


《傲慢》の悪魔ルシファーは熾天使であったため『己は神に成り代われる』と信じて反逆を起こした。私も一応熾天使階級であり『魔導を極めし者』により魔法はすべて使えるので私とルシファーは大して差がないと言えるだろう。神に成り代わろうとは微塵も思わないが。


「厄介な悪魔どもが残ったのぉ。妾がアレを使うしかないか・・・?」


「おばば様、アレはあまりに危険です」


「しかし使わねば戦いはかなり厳しいものとなるじゃろう」


「アレとは何だ?」


「おおすまぬ、説明がまだじゃったな。アレとは妾の体に封印された不老不死の存在『灰塵竜アヴィス』という竜に妾の主導権を渡すことじゃ。妾の意識はなくなりアヴィスが表へ出て妾の潜在能力の最大限に引き出して戦ってくれるのじゃ」


それだけ聞くとかなりよさそうに聞こえるな。


「じゃが奴は邪竜故に一切の情けはないし死体を弄ぶことも平気で行う。それに奴は満足しない限り決して主導権を返さん。下手をすれば妾の意識が消滅する恐れもある」


「怖いな」


その灰塵竜とやらは非常に強いが殺戮に満足しない限り消えることはないのか。


そいつが満足せずに暴れまわるのだけは勘弁してほしいな。

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