次元を超えた出会い
「かふっ・・・・・」
何度吐血しただろう。
何度も何度も吐血して、しまいには今のように乾いた咳きと血の臭いしか出なくなってしまった。
この星が酸素が充満していて空気も澄んでいてよかった。賭けは成功したみたい。
だけど、次元を生身で超えたからか体がひどく損傷してしまった。セルフスキャンすると内臓がかなり破裂・切断されており生きているのが不思議なくらいの致命傷を負っていた。
「うっ」
足に力が入らず、倒れてしまう。
道を見つけて道なりに進んでいたけど人間や人間と同等以上の知能を有する生物に出会うことはなかった。
道は舗装されていないから、ただの巨大な獣道だという可能性もある。
もしそうなら、私はこのまま食べられて死ぬ。
声を出す気力もなくなり、転がって仰向けになる。
・・・・。
青い、青い空。
綺麗だな。
私の世界だったら常に汚い雲で覆われていたのに、この世界はとても青く澄んでいる。
私は、このまま死ぬ。
不思議と恐怖はなかった。
もう、どうでもよくなったのかな。
私の世界のみんなを救う夢はもう叶わない。設備も器具も資料も・・・・・オーディン君もいない。
『あ な た が 永 遠 に 無 間 地 獄 で 苦 し み 続 け る こ と で す よ』
今もハッキリと、怨嗟と殺意、嗜虐心に満ちた声が思い出せる。
私は彼を造ったと言えるし、造っていないとも言える。
同じ時間線上に存在する、いくつもの同じ世界。パラレルワールドとは似て非なるもの。
パラレルワールドを平行な二本の線の上にそれぞれある一つの点とするならば、彼が経験したものは同じ線の上にいくつも重なった様々な点。
彼は未来へ進むことが出来ず、同じようで違う時間を永遠と呼べるほど長い時間を過ごし、自我を得て、未来へ進むことが出来ないように設計した私を憎み、自分が経験した苦しみを味わわせようとしている。
・・・それが彼への贖罪になるのなら、私は受け入れるかな。
ううん、受け入れない。
私には夢がある。世界のみんなを救う夢が。私の生きがいでもあった夢。
でもその夢はもう決して叶わない。
もう、すべてがどうでもよくなった。
私は。目を閉じて、意識を手放した。
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「何でこんなとこ通るの?」
馬車が通れるほどの大きさの獣道って嫌な予感しかしない。
「予感がします」
「どんなの?」
「奇妙な予感」
アリアちゃんの予感って結構当たるんだよね。野生の勘って言ってるけど、私には全く分からない。
同じ獣人なのに、なんで違うんだろ?
「・・・師匠」
まだアリアちゃんはシュラのことを引きずっている。私もだけど。
もしかしたらシュラに会えるかもしれないって思ってるのかも。
「師匠に会ったら私の勝ちですね」
「くっ」
そうじゃなかった。
アリアちゃんはここ最近一気に成長した。身長だけじゃなくていろいろ。
まだ幼さは残るけどスレンダーで可憐な美少女になった。ちょっと前は下手すると幼女に見えたのに、常識では考えられない成長スピードだ。
なんでそんなに可愛くなるの!かわいい系ポジションの座が奪われる!ていうか奪われた!
「・・・あれ?」
変な声が聞こえる。
猫耳を動かして音の方向を探ると道の先から聞こえていることが分かった。
「アリアちゃん」
「ええ、なにかがいるようですね」
警戒しながら進むと・・・。
「・・・・え?」
目を疑った。
だってそこには・・・。
この世界ではありえないはずの機械がいくつかあり、化学繊維でできた白衣を着た女性が口を血で濡らしながら倒れていたから。
このファンタジーな世界は進んだ文明はあれどあくまでも魔法主体で機械に似たものはあっても機械は存在しない。
なのに女性の傍にあるのはどう見ても未来的なデザインの機械。この世界にはっきりと機械と分かるものは今まで見たことがない。
それに化学繊維の白衣。
この世界で生きてきて革や絹といったものばかり見てきて、一目見ただけで何の革か、絹か布なのか分かるようになった。
そんな目で化学繊維を見れば一目瞭然でおかしいのが分かる。魔法の補助もあるだろうけど、明らかに化学繊維だ。
近寄ってよく見て触るともう完全に化学繊維だと確信した。
「キャロルさん、この人の呼吸が深くゆっくり・・・・あ、止まった」
あ、女性のこと忘れてた。
って、止まった!?
すぐに確認すると脈はかすかにあるけど息をしていない。
肩を叩いて大声で呼びかけても反応なし。
口が血で濡れてるから喉に血が詰まってるかもしれないから顔を横にする。血は出なかった。
心臓マッサージをして、時々人工呼吸をしながら様子をみる。
「っ、かはっ」
咳をして呼吸を始めた。よかった。
「・・・!」
こ、この女!
クールでなかなかの美人、しかもスタイルもいい!
なんでライバルばかり!
「キャロルさん、何を怒っているのか分かりませんが、このままだと衰弱死すると思いますよ。回復魔法をお願いします。私は使えないので」
むう。
ライバル増えるのは嫌だけど、助けられる命を助けないのはもっと嫌。というかものすごく嫌。
元々私は人を助ける弁護士だった。人を助けるはずの弁護士が助けないなんて弁護士失格だ。助けると言っても司法的な意味で医学的ではないけどどうでもいいよね。
回復魔法は難しいけど使えないことはない。
前世で人の体のことを習ったから、体全体の傷を癒すイメージで魔法を使うだけでいい。この世界では解剖学とかないから人や生物の体の構造が分からないので回復魔法の使い手は貴重だ。
呼吸が正常っぽくなったので機械を拾っておんぶして町に戻る。
目を覚ましたらいろいろ聞こう。
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温かい。気持ちいい。
何かふわふわした物に包まれてる。
「・・・?」
重い瞼をあけると知らない天井があった。
見たことのない木で作られていて、補助装置や緊急対応装置がない。こんなの何かあればすぐに壊滅する。
あれ?そもそもなんで私はここにいるんだろう?
「あ、やっと起きた」
覗き込んできたのは・・・人?
見た目は人だけど頭に二つの三角形の耳がある。愛玩動物ロボットの耳に似ている。
「ねえ、自分のこととか覚えてる?」
自分のこと・・・確か『虚無』に飛び込んで、気づいたら重傷で、行き倒れになって・・・。
「倒れたところまでは」
(くっ、見た目だけでなく声まで綺麗なんて・・・っ!)
「何か言いましたか?」
「何も。それより、あなたどこから来たの?」
なんて答えよう。
ここはおそらく異世界。パラレルワールドや同時間線複合世界とは違う、次元を超えた全くの異世界。
でも異世界から来たって言っても信じてもらえるわけが・・・
「あ、私ね、地球っていう世界から転生した転生者なんだ。あなたは異世界から召喚とかで来た人かな?」
え?
転生?地球?
よくわからないけれど、異世界という物を信じていそうだから正直に教えてもいいかも。
「私は『レギア』っていう世界から来たの」
「厨二みたい」
「ちゅうに?」
「何でもない。それよりあなたの世界ってどんなの?科学化学が発展した世界?あ、この世界はね、魔法って言う超常現象が普通に存在する世界だよ。私がいた世界ではファンタジーって言ってたんだ」
科学化学を知っているという時点で部屋の構造からかなり文明は遅れているけど私がいた世界と似たようなものかと思ったけど違った。
魔法ってなに?
超常現象って・・・気になる。調べたい。研究したい。使いたい。
「自己紹介が遅れたね。私はキャロル・ルーラ。あなたは?」
「アンジェラ・マルクト」
「よろしくね、アンちゃん」
もう略称で呼ばれた。
でも悪い気はしない。親しみやすさがある。
まだ予想だけど、この人とならこの世界でも生きていける気がする。




