天使たち
目覚めると奇妙な感覚があった。
違和感のある顔に手を当てると穴のない顔を覆いつくす大きさの鳥を模したような模様の白い仮面がつけられているのが分かった。
背中には天使の翼のような形をした光の奔流があり、動かそうとすると光が純白の巨大な翼に変化した。試しに飛んでみると竜の時よりも力が強くなっており機動性も上がった。
服装は神聖さと神秘さを兼ね備えた動きやすい全身を包む白銀のローブに変わっており全体から薄く橙色のオーラが出ている。
私の知る熾天使は三対六枚の翼を持ち、一対は頭を、一対は体を隠しており、残る一対で飛翔するものだったが私は一対しかないので私の知る熾天使とは微妙に違うようだ。
それに手には月白色に淡く輝く大鎌が握られており、扱い方や技もいつの間にか頭の中にインストールされていた。これで魂を刈り取るらしい。
大鎌を手に人間や獣人、魔族たちの魂を刈り取る私・・・まるで白い死神だ。実際彼らからすれば私たち天使は死神なのだが。
雑学として覚えていた天使の階級の記憶が確かならば階級は上から、
上位 熾天使・智天使・座天使
中位 主天使・力天使・能天使
下位 権天使・大天使・天使
だったはず。
有名な天使と言えば四大天使ことミカエル・ガブリエル・ラファエル・ウリエルだが彼らは宗教や宗派によって熾天使だったり大天使だったりと階級が全然違うがこの世界ではどの階級なのだろう。
人間と関わることのできる階級である下位にいるならば嬉しいのだが・・・。
いや、一応熾天使と同じ階級の私がここにいるから階級は関係ないのだろうか?
とりあえず人間でいう隊長クラスの大天使を呼び出す。魔法の『召喚』とほぼ同じなのですぐに呼び出した。
「お呼びでございますか、熾天竜様」
跪き、恭しく頭を垂れながら出てきたのは騎士と天使を融合させたような姿のそのまんまな大天使だった。別に落胆したわけではなく格好いいと思っている。
彼の反応を見る限り私が熾天使の階級になったことを知っているようだ。
「悪魔と戦うために天使の軍隊が欲しい。頼めるか?」
今気づいたが、私の声も変わっていて二つの合成音声を組み合わせたような、不思議な声になっていた。仮面を外せば元に戻るだろうか?
「はっ、すぐに天使を招集します。悪魔と戦えることは我らにとって最高の名誉です。誠にありがとうございます」
肩書や名誉を重んじる騎士のようだ。彼らは名声や戦績が自分の将来や家族にまで影響するため、金よりも名誉を最高の報酬として受けとる。
一瞬消えたかと思うと彼の背後には大勢の白い天使たちがいて、全員が頭を垂れていた。
こんな扱いは私でもかなり緊張するが堂々とふるまう。
「勇敢な諸君、我らはこれから神々に背く大敵、悪魔どもの討伐を開始する!すでに人間たちによって一部の悪魔は討伐され、アスモデウスは人間たちが利用し、ベルフェゴールは討伐されたが、まだ大悪魔は残っている!だが諸君ならば必ずや悪魔に打ち勝つことができる!戦いはすでに始まっているのだ!我らの手で決着をつけるために、出陣!」
「ウオオオオオォォォォォォォォォォォ!!!!!」
そういえば部隊の確認とかしていなかった。
しかし今さら確認するのもあれなのでこのまま突撃する。
既にマモンの居場所は特定していたので迷う必要はない。
竜の時よりも圧倒的に速く飛び、すぐにマモンが見えるまでに近づいた。こちらに気づいたマモンの顔が驚愕に染まる。
一対百以上なのだからそう反応するのは当たり前だろう。
しかしすぐに冷静になり数えきれないほどの武器が魔法陣と共に出現し不規則な軌道を描きながら飛んできた。
「守護天使隊、前進し守護結界を展開せよ!」
大天使の彼が叫び、聖職者に似た服を着た天使たちが前に出て何かを歌い始めた。聞いていて非常に落ち着く歌だ。
歌い始めると同時に結界が出現し武器をすべて弾いた。
「突撃!天力隊は両翼へ移動し包囲、断罪隊はマモンの後方で支援!絶対に逃がすな!」
大天使が叫びながら指揮を執り、天使たちが動く。非常に統制が執れた無駄のない動きでマモンを包囲する。
断罪隊と呼ばれた重鎧に身を包んだ天使たちがマモンの逃げ道を塞ぎ、天力隊と呼ばれた魔術師風の天使たちが魔法を使いマモンの動きを封じ、攻撃し、残りの天使たちが縦横無尽に飛び回りながらマモンを攻撃していく。
天力隊が使う物は魔法と言ったがよく観察すると魔法のようで魔法ではない何かであることが分かった。属性は光に見えるが全くの未知の属性だった。無属性ではない。
考えているとマモンが満身創痍になっていた。
「断罪隊!」
一際神聖な重鎧に身を包んだ天使が大剣を構え、マモンに近づいていく。マモンは逃げようとするが天力隊の謎の力により逃げられない。
「冥府で悔やみ続けるがいい」
「・・・・・ふぅ、参りました。相変わらず天使は強いですねぇ。まあ、天竜と炎竜は始末できたので良しとしますか」
・・・・・・・ギルドラド。
間に合わなかったようだ。魔法で確認したがマモンの言葉は真実だった。
守れなかった。
絶対に倒すと意気込んでいたが、倒せなかったようだ。
ギルシュや風竜、地竜にどう伝えたものか。
戦場で誰かが死ぬのは当たり前。だが、親しかった者が死ぬのは初めてで、言いようのない虚無感を覚えた。
・・・・・私がキャロルたちを殺した時、私はどうなるのだろう?正気を保っていられるだろうか。
・・・。
「熾天竜様、マモンの断罪はどうなされますか?」
いつの間にか来ていた大天使が聞いてきたので熾天使っぽく答える。
「貴殿らの功績だ。首は貴殿らが落とすがいい。神々も功績として認めてくれるだろう」
「承知致しました」
私がキャロルたちと戦うことになった時、今のように直接の戦いや止めは彼らに任せるのだろうか。
・・・・・・・。
・・・・・いや、私がやるべきだろう。
戦いたくない、殺したくないと何度も頭をよぎるが、逃げるわけにはいかない。
彼らの相手を他の天使には任せない。私が決着をつける。
熾天竜として、世界の崩壊を防ぐ使命を受けた者として、すべて逃げるわけにはいかない。
神の言ったことはすべて真実だと何故か理解しているので騙されている、というわけでもないし、そう思い込まされている形跡もない。
もしかすると非常に巧妙に偽装されているのかもしれないがそれはないと信じたい。
「マモンの断罪を執行する」
見ると重鎧の天使が大剣を振り下ろしてマモンの首を切断しているところだった。
『うんうん、これなら大丈夫そうだね』
頭の中に突如響いた少年の声。あの神だ。念話を使っているようなので私も念話で答える。
『彼らの功績は正しく評価してくれ』
『言われなくてもするって。ああ、僕がこうやって君に話しかけている理由だけど、君に伝え忘れたことがあったからこうして伝えることにしたんだ』
『伝え忘れたこと?』
『うん。上位の天使は下界にいる間は仮面や身を包むローブとかをつけておかないといけないんだ。機密保護とかいろいろあってね。あとこれからは余程のことがない限りこうやって連絡を取ることはないよ。連絡とるのはけっこう力使うからね。視るのも同じでたまに君の様子を視るぐらいだよ。言いたいのはこれだけ。君から連絡を取ることはできないから注意してね。じゃあばいばい』
切られた。自由な神だ。
「熾天竜様、我らは一度神界へ帰還します。我らは長時間下界にいると堕天する恐れがあるのです」
大天使が天使軍団の前で跪き報告する。私も熾天使っぽく答える。階級はかなり下とはいえ、「お前」呼ばわりするのは気が引けるためだ。
「分かった。貴殿らの働き、誠に大義であった。神にも貴殿らの功績を評価するよう伝えておいたぞ」
「おお、そこまでしていただけるとは。本当にありがとうございます。それでは失礼します」
天使たちが翼で身を包み消える。消えるときに天使の翼の羽が大量に舞い、非常に幻想的で美しかった。
私もマモンとの戦闘や神に呼び出されたことによる謎の疲労により帰りたいのだがさっき言われたようにこの格好のままでなければならないのでシュタットやオートたちは私が誰か分からないだろうし、ギルシュたちを探してギルドラドの死を伝えないといけない。
ギルシュたちはマモンの拠点にいるはずだ。
天使についての説明や解釈は宗教や宗派によって様々なものがあり、階位の付け方や各天使の階級にも違いがありますが、この作品ではおそらく最も知られているであろうキリスト教の学説「天上位階論」による分類で書きます。
一応言っておくと作者は無信仰者です。




