疑念
「なにしてんの」
シュラの住処へ行くとハルちゃんが正座して何か唱えていた。
「・・・・残したる未練も恩讐も今は現世に残りて去り行くばかり。されど我はその恩讐を汲みて解放する者なり。汝の未練を我が一身に引き受けよう」
厨二病?
「あれはエルフ族に伝わる死者への供養ですね」
要するに前世のお経か。
・・・リリアちゃんが教えてくれたけど、弔いってハルちゃんの中ではもうシュラは死んだってこと?
シュラは死んでない。きっとどこかで生きてる。そう信じてる。
「死を畏れるなかれ。死は万物の終焉であり始まりである。現世のすべては夢幻であり囚われることはない。いずれ万物は無に帰し新たな生を受け物語を紡いでゆく・・・」
「ちょっとまった」
「っ!だ、誰・・・ひゃあああああっ!キャロルさん!?それにリリア女王様!」
「今の私はプライベートなのでリリアで構いませんよ」
たぶん聞いてないと思うよ。ハルちゃんが見てはいけないものを見てしまったかのような表情で座ったまま気絶してるし。
それにしてもお経?みたいなのは何言ってるか分からなかった。
死んだらそこで人生試合終了でしょ。私は一回死んだのに転生して生きてるけど前世と今世は別だから。
・・・。
シュラは本当に死んだのかな。
本来なら前世でお別れだったのに今世でも一緒にいられること自体があり得ないことだった。ぜんぶ夢と言われたら信じてしまうかもしれない。
死んだっていうのは認めたくない。でも認めようとする自分がいる。
前世はもう歳だったから割り切れたけど今世は違う。竜の年齢は分からないけど肉体的には私と同じくらいの年齢だったはず。
大好きな人が若いのに死んだ。
それを一度認めてしまうと私はもう立ち直れないと思う。
「キャロルさん・・・?」
「・・・・ごめん、考え事してた」
「耳が倒れてますよ。・・・竜様のことですよね?」
バレてた・・・いや、考えるまでもないか。ここで私が落ち込む理由はシュラ以外なにもない。
「死んでないよね?」
問いというよりは私自身に言い聞かせるように言った。
「・・・分かりません」
・・・シュラ、帰って来たら絶対に許さないから。
どれだけ私が寂しい思いをしているか思い知らせてあげる。
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『今悪寒が』
『マモンの拠点に近いからじゃねえのか』
それもある気がするが今の悪寒は私を亡き者にしようとする感情による怖気だったような。
そういえばこの世界に来てしばらく経ったが私のいるべき世界ではそどうなっているのだろう。時の流れが違うかもしれないし帰った時にパラレルワールドへ着いた、という事もあるだろうから事前に備えておいた方がいいかもしれない。
時元空間魔法も進化したとはいえ強化された能力を行使するには莫大な魔力としばらくの時間がかかるし異世界から異世界へ行くということもできないので結局使い勝手が悪くなっただけであった。
例えば『次元屈折』をクラーケンの時に一度使ったが進化したせいで『極小規模次元破壊』になったが次元を破壊すると何が起こるか分からないので使えない。ちなみに『次元屈折』は進化により能力は消滅した。
進化か退化と言われれば退化である。
閑話休題。
悪魔を蹴散らしながら飛んでようやくマモンがいるという砦に着いた。
見た目は堅牢な砦そのものだ。何らかの魔術的な仕掛けが施されていて外部から破壊されると作動するようだ。
正面には全身重鎧の門番が二人いる。
『マモンはどこだ?ボコボコにしてやんよ!』
『その前に門番と砦のことを気にしようよ、兄さん。まあ壊せばいいだけなんだけどね』
『待て、下手に壊すと・・・』
注意する前にギルシュの手に中で青い水が流れている氷の槍が現れた。
そのまま振りかぶってリリース前に一瞬動きがゆっくりになったかと思うと槍が月白色に光輝きはじめた。
そしてリリースと同時に目にも止まらぬ速さで槍が地面を抉り抉った痕に沿うように氷塊が出現し、衝撃波を発生させながらまっすぐ飛んでいき砦の入り口を大きく粉砕した。
衝撃波が発生したことから音速は優に超えている。野球ボールを投げたら時速何百キロになるだろうか。
驚いて一瞬呆気にとられたがすぐに魔術的仕掛けが作動していないか確認する。
・・・どうやら損傷が激しすぎて作動できなくなったようだ。入り口付近に起動装置のようなものがあったのも良かった。
しかし砦の真ん中あたりまで破壊してしまったのですぐに騒ぎを聞きつけた警備の悪魔が来るだろう。
『余計な手間が省けたことを喜ぶべきか、敵にバレたことを危惧するべきか・・・』
『へっ、敵がわざわざ出向いてきてくれるんだ。どうせ戦うんだからいいだろ?』
『時間がないからこうしたんだ。雑魚処理は兄さんにお願いするよ』
『え?今の技・・・「氷結渦流滅槍」だっけ?もう一回やればいいだろ』
『無理。硬直が大きいし肩の負担が大きいし疲れる。かなり前にやりすぎて肩の骨が折れた』
必殺技のような物か?
まあ雑魚処理はギルドラドに任せて処理しきれなかったものは私が担当しよう。
『空間精査』で砦全体をスキャンしながら進む。魔術の妨害によりなかなか進まない。
『おらおら、ギルドラ様のお通りじゃあ!ふははは、熊を狩る程度の手応えしかねえぞ!』
熊を狩る程度、というのは人間で例えると稲を刈るほどの手ごたえしかない、または非常に安易なことを指す。
竜からすれば熊なんて上から急降下して強靭な足で押さえつけるか突進して殺せばいいだけなので非常に簡単なのだが人間からすれば熊はかなり凶悪な生物であるため通用しない。
『兄さんはその熊を狩る程度の手応えしかない相手に捕まったんだね』
『うぐっ・・・・で、でも、ギルシュだってやられてただろうが!』
『確かにやられたけど兄さんのように暴走してないし姉さんや妹のように洗脳されたりもしてないよ』
『ん?洗脳?知ってるのか?』
風竜と地竜は洗脳されている?アスモデウスは洗脳していないと言っていたが。
『あっ、え、えっと・・・悪魔から聞いたんだ』
『・・・』
『まじかよ、洗脳されてるのか・・・簡単に解けるといいんだがな』
・・・・・怪しい。
アスモデウスのようにスパイなのか?私たちがマモンと戦っている間に後ろから刺される可能性を考えておこう。
ギルドラドは妹たちのほうを気にしていてギルシュ言い淀んでいたことに気づいていないようだ。
・・・。
一つ怪しいと思えばいくらでも怪しく思えてくる。
なぜずっと悪魔の世界にいたのか。怪我をしている様子もないのに左腕に包帯のような物を巻いているのはなぜか。そしてどこでギルドラドが暴走し他の家族は洗脳されたという事を知ったのか。
キリがない。
私が目を合わせると一瞬目を逸らしたことから疑心がほぼ確信に変わる。ギルシュは何かを隠している。
しかし聞いても答えなさそうだ。
ギルシュのことは警戒しておいて何かきっかけがあれば問いただそう。
『おい、階段が見つからねえぞ』
意識をギルシュから砦へと移す。
ギルドラドが言う通りこの砦は階段や吹き抜けがない。侵入対策だろうが『空間精査』のおかげで砦の内部はほとんど分かっている。
『階段は隠し壁の先にある。ついてこい』
薄暗い砦の内部を進み隠し扉がある場所へとたどり着く。
『ここか?隙間とか空気の流れは感じねえぞ』
『切れ目が存在しないからな』
『は?でも隙間がないと動かないから意味がないじゃねえか。どういうことだ?』
『こういうことだ』
壁の一部に魔力の弾を当てて壊す。
すると壁が崩れて階段が現れた。
『?』
『見ろ』
壊された壁を見ると辺りに散らばった岩が徐々に穴へと動いている。
一番近かった岩が元の位置へ戻ると隙間が一瞬淡く光り、隙間が消えてピッタリとくっついていた。
壊された後自動的に修復する魔法仕掛けのようだ。
『なんだこれ?面倒な仕掛けだな』
『扉みたいに隙間があると風の流れで分かるからじゃないかな?だから面倒だけどいつもは壁にして利用するときだけ壊してるんでしょ』
意味が分からないと言いたげだったギルドラドにギルシュが説明する。
階段を進んだ後は謎解きや様々な仕掛けが施されたフロアだ。
気を付けて進まなければ。




