表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
杜若と莇  作者: 肇
10/10

摘まれた花

「な、何言ってんの!いまここでしてって言ってるの?」

「これはゲームだよ?ほらほら、早くしないと、制限時間が来て終わっちゃうよ?いいの?私が撮った写真の中には聖くんが見られたら恥ずかしいようなのも残ってるんだよ?それ公開しちゃおっかな〜」

「え、どんな写真なのそれ!」

「例えば、授業中に寝ちゃってた時の顔とか」

「待って!寝顔だけはダメ!」

「えー、1番上手く撮れてお気に入りの写真だから皆に見て欲しいのになあ。」

まずい、寝顔公開だけはきついぞ。でもここでキスするなんて。誰かが来たらなんて言えばいい?ああ、もう何も考えずしてしまえば終わるのか?とりあえず、香子さんの近くに寄らないと、このまま離れてても何も始まらないし。

「分かったよ、その代わりそこから動かないでね。」

「お、ついに本気出したの?聖くん頑張ってるね。本当は照れてるんじゃないの?」

「やめてよそうやって揺さぶるの!もう僕は覚悟を決めたんだから。」

「覚悟?好きだった人に対してキスするのにそんな覚悟なんて必要なの?聖くんにとってむしろこれは嬉しい事じゃないの?」

「香子さん、これは僕の望んだキスじゃない。僕は君と、普通な恋愛をして、普通にキスをして普通に学校祭や体育祭、日々の学校生活を楽しみたかった。でも、もうそうはいかないようだね。じゃ、目をつぶって。」

「う、うん。わかった。」

そう言って香子さんは目をつぶった。今だ!今逃げてしまえば僕の勝ちだ!そう思っていた。バレないように静かに歩いてるつもりだった。でも、いつまでもしてこないことを変に思った香子さんは目を開けて僕が逃げようとしてるのを見て言った。

「逃げる気なの?今すぐ送っちゃうよ?友達に。」

「もういい、そんなものはくれてやる。僕はそんな写真1枚のために自分の一生の思い出を捨てたりはしない。さよなら。」

香子さんに背を向けて出口へ歩き出した。これでいいんだ。これでいい。そう心に言い聞かせていた。

「がっかりだよ聖くん。聖くんの男らしいところ見られると思ったのに。」

僕は少し思いとどまりその場に立ち止まった。それから何を思ったんだろう、振り返って香子さんに向かって走っていった。

「あああもう!」

「え、ちょ、聖くん!」

バン!と音がして香子さんは屋上のフェンスに打ち付けられ僕は壁ドンをしていた。

「き、聖くん…。」

「これで僕の勝ちだ。」

僕は弱い男だ。ただの写真のために自分の初めてを捧げ、1度裏切られたと思ってた人間をまた好きになったかのように思ってキスをしてしまった。

「これで本当に、僕の勝ちだよね。」

「…うん。もう聖くんからは私離れる。もう何も思い残すことは無いわ。」

「そう、ならよかった。」

とりあえず安心して後ろを振り返り帰ろうとしたその時、ガシャガシャとフェンスを登る音が聞こえて僕は思わず振り返った。

視線の先にはフェンスの反対側で立っている香子さんの姿があった。

「バイバイ、聖くん。もう私、思い残すこと無いから聖くんから離れるよこうして。」

「な、なんで!なんでそんなことするの?やめてよ!僕悲しいよ!」

「それでもまだ悲しんでくれるの?ありがとう、嬉しいな。でも、もう聖くんが私に興味が無いなら私もう、生きてたくない。あと、今こうやって飛び降りたら、聖くん私のことずっと覚えててくれるよね?」

「何言ってるんだよ、そんな事しなくても忘れない!絶対に忘れないから!だから、ダメ!飛び降りたらダメ!」

「聖くん、私にとって聖くんは何よりも大切なものなの。家族より、自分の命よりも大切。だからそんな聖くんが私の前から消えちゃうなら、私が消えた方がいい。」

笑顔で言ってるように見えるが、彼女の目は涙でいっぱいだった。誰も死を恐れない人はいない。でも、死の恐怖を凌駕するほどに香子さんは僕が好きだったのか。じゃあ尚更止めなきゃダメだ!そう思って僕はひたすら止めようとしたが、香子さんは向こうから戻ってこようとしない。

「じゃ、もうそろそろ行くね。バイバイ聖くん。私のこと、忘れないでね。」

「待って!まだ言ってないことが!」

「えっ?」



いつもと変わらない朝。いつもと変わらない学校。起きた時にはベットで寝ていた。どうやら昨日電話しながら寝落ちしてしまったらしい。LINEを見てササッと返信し、支度をして家を出た。


いつも通り学校に行き、通学路には何も無い。でも、教室に入っても彼女のおはようは聞こえてこない。彼女はもうここにはいない。


でも、僕は聞けるんだ、あの子の声。あの子が僕のこと隠し撮りしてたの、あの時はすっごく非難したけど、実は僕もしていたんだ。いつもあの子が言ってくれたあの言葉を、僕は永遠に残していた。

「おはよう聖くん。」


END

杜若と莇、一通り書いてみるとどんどん当初の思ってたものとは内容が変わっていく気がして書いてて自分で不安になってました(笑)

でも、ここまで書いてみて何とか終わらせることが出来て良かったです。

次作も何かこういう学園モノを作れたら楽しいかなとは思います。なにか希望があれば是非とも教えてください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ