種、芽吹く
少年が目を覚ますとAM6:30。
スマホのアラームはAM6:00にしていたはずだ。
ベッドの上には充電切れのスマホがある。
「僕昨日の夜、何してたっけ。」
今から登校してもHRには全然余裕であったが、いつもの癖で少し急いで朝ご飯を食べて、その間充電していたスマホの電源を入れLINEを開くと、クラスメートで少年の好きな子の相原香子からLINEが来ていた。
「寝ちゃったね笑笑疲れてたのかな?お疲れ様!おやすみ!」
その文の上には1:37:10と言う数字と電話のマークがある。
(そうか、昨日は勉強のことを聞かれて通話してそのまま寝てしまったのか。やってしまった...)
少年は頭の中でなんと返事をすればいいか考えつつ、香子からの文を何度も読み返しては少し頬を赤らめていたのだった。
登下校に電車を使うこの少年は、電車の中でも香子に対する返事のことを考えてた。今LINEで返信するべきか、学校で言うべきか、それとも両方か。
LINEで言うのは1番いいように思えたが、なんせ好きな子との電話で寝落ちてしまったのだ。変なことは言えまい。しかもLINEは文として形が残るから尚更だ。
学校で言うにも彼女は友達が多い。昨日のことを公にばらす様な事をすれば絶対彼女に嫌われてしまうし、LINEを既読無視したように思われたら尚更嫌だ。
かと言って両方にするのはくどすぎるし、両方何も無しは人として有り得ない。
結局少年はLINEで言うことにした。
学校に着くといつもの景色。
僕の好きな香子さんは友達が沢山いて、朝から仲の良い友達とお話してるなあ。僕もあそこに混ざれたら、なんて、クラスで空気な僕じゃ無理に決まってる。
そう思ってたその時、香子さんは僕に
「おはよう」
と言ってにっこり微笑みかけてくれた。僕は少し驚いておはようと返した。願ってもなかった。香子さんから挨拶されるなんて。しかも昨日寝落ちてしまった僕に。心臓は隣に座ってる子に聞こえそうなくらいバクバク鳴っている。香子さんの友達が香子さんに
「なになに?瀧川くんと仲いいの?」
「もしかして2人って付き合ってるの?」
そんな会話がこっちにも聞こえてきて顔が熱くなるのを感じそっちに目を向けられなかった。香子さんは全然そんなんじゃないよ〜と友達のことを流している。
僕は嬉しさと恥ずかしさで頭の中がいっぱいだった。
だが、次の瞬間香子さんに祥汰が話しかける声が聞こえた。
「よう、相原!昨日聖となんかしたのか?」
「ちがっ、何もしてないよ!」
「ふーん、何もしてないのにそんな焦ってんの?」
「もう!何もしてないって言ってるじゃん!」
「ハハッ!相変わらず面白いな。」
そう言って祥汰は立ち去って行った。
彼は僕の幼馴染の大石祥汰。良い奴なんだけど香子さんに対しては少し意地悪みたいだ。香子さんと馴れ馴れしく話してて少し腹が立つけど嫉妬してるように思われたら癪だからいつも何も言えないままだ。
香子さんは祥汰が好きなのかな?いつも祥汰と話してる時少し顔を赤くしてる。じゃあ僕には興味なし?あの笑顔は愛嬌笑いかな?なんて、くだらないこと考えてどうするんだ全く。僕には高嶺の花な香子さんと昨日電話できただけで奇跡のようなものなのに。
そうこう考えてるうちに朝のHRが始まった。
先生の話は長くて嫌いだ。眠くなる。
だけど、今日はクラスを賑わせるニュースがあった。
転校生だ、転校生がこのクラスに来たのだ。
「転校生の、森嶋蓮琉くんだ。挨拶よろしくね。」
「もりしまはるです!この髪の毛は地毛です(笑)
皆と沢山お話して早く仲良くなりたいです!よろしくお願いします!」
クラス中に拍手が響きわたり、どこの席につくかと女の子達の中でヒソヒソ話してる様子が目に入った。
なんせ蓮琉くんはイケメンで茶髪でノリも良さそうだ。何か悔しいなあ。
「じゃあ、瀧川の隣な!」
「えっ!?僕?」
「そこが空いてるからな、仲良くするんだぞお互い。」
女子達がいいなーと言ってこっちを見るのが分かるとなにか複雑な気分だった。でも、香子さんは僕の方を見てなかった。
「よろしくね!名前はなんて言うの?」
「あ、たきかわきよしです。よろしくね。」
「よろしくね、滝川!」
「うん、よろしくね森嶋」
転校生が僕の隣になったのはなにかの縁なんだろうか。ただ、僕は香子さんには手を出さないでくれと願うだけだ。