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成長と性徴

「母さん、ごちそうさま」

「秀美、最近食器とか持ってくるようになって成長したわね」


 タライに食器を入れると母さんはニコニコと微笑み、俺の頭をなでた。成長というわけじゃない、必要だからやっている。金子だって誰に言われたわけでもなく家のことをやっている。同い年なのにそれを誇らしげも、義務感もなく当然のように動いている金子と比べて、自分が情けないからだ。


「なんか買ってあげようか?」

「別にいらないって。野球やらせてもらっているし、それで十分だって。いたっ」


 手を払いのけた時、胸の中から刺すような痛みが襲った。最近体育の時間や、野球をするとき顕著に痛みが襲ってくる。乳首が腫れ始めているのもあって恥ずかしくなり、下にシャツを何枚か重ね着していた。重ね着すると痛みがマシになるから、学校に行くときや野球の時はそうしてきた。秋口に入ってきたので服が蒸れて暑いなんてことはなかった。

 けど家では動くことがないから、脱いでしまっていた。


「秀美、どうしたの?」

「最近、胸のあたりがチクチクして痛い」

「ちょっと触ってみていい?」


 母さんが洗い物をするゴム手袋を外して、服の上から胸を親指で触った。ちょっとくすぐったい。ぐりっと胸の中にしこりのようなものが当たり、母さんの眉が眉間に寄った。


「たぶん成長痛だと思うけど。明日、小児科の先生に診てもらいましょう。何か悪い物があったら大変だし」




 翌日の学校の帰りに学校の門前で待っていた母さんと一緒に近くの小児科に赴いた。診察を待っていた人が少なかったこともあり、すぐに先生の所に通された。

 診察する先生は、内田先生みたいな眼鏡をかけた細めの女の先生だった。症状やどんな時に胸が痛むかと事細かに聞かれて、その時の対策としてシャツを重ね着していたことも伝えると、先生はバインダーにペンを走らせた。


「まだ初潮とかは来ていないのよね」

「あ、はい」

「なら成長痛ですね。胸のあたりにお皿のような平べったいしこりがありましたから。そろそろ胸も大きく膨らんできます。身長も平均的な小学五年生と比べても大きいですし、時期が来てもいい頃合いかと」


 成長。先生が丁寧にその原因を教えると、俺はつばを飲み込んだ。五年生になって急激に身長が大きくなって、周りと比べても大きくてうれしいと思っていたけど、女としての性徴だったのか。

 前世の記憶の意識から、男として生活していたのが、女の特徴が表れてくる事実に悶々と渦巻いた。

 本当に俺、女になっていくんだな。……胸だけでも抑えられないかな。


「あの……大きくならない方法とかありますか。なんか恥ずかしくて」

「んー。そういうのは自然と決まってくるからねぇ」

「心配しなくても大丈夫よ。みんな最初は恥ずかしいと感じるけど、じきに慣れてくるから」


 おずおずと質問すると、母さんが軽く肩をつかんだ。その後、先生は処方箋も必要ないので初潮の前触れが現れたら母さんに教えるようにと告げられた。


「お母さん、秀美さんの下着はカップがついている下着を着ていますか?」

「いえ、この子がキャミソールとかが苦手で。いつも無地のシャツばかりで」

「胸の成長が目立つようになりますから、購入することを検討しないといけません」


 それを言われ、俺は反射的に胸を触った。先生の診断の通り、胸の中に薄い楕円上のものが指の腹に当たった。これが女の子の元。いつの間にか埋め込まれたそれが膨らみ始めて、二枚の上着の下でふにっと柔らかい感触をつくる。男だと手放しに喜んでいたのが、自然と自分のものになっていく。

 それが当たり前。

 みんな慣れてくる。

 でも。俺は……

 



 診察室から出て料金の精算の間、母さんは大したことじゃなくてよかったねと支えた。よくなかったとは言えない。だって、男の見た目のまま生まれ変わってその意識で今まで生きてきたのに、急に変化するのに何が大したことじゃないのか。

 でも、俺は男なんだと主張することもできない。だってこっちでは当然のように女として生まれ、今までの女としての人生を歩んでいた。母さんのお小言は俺を女として見ているうえで言っている。もしそれを言った時のショックが大きいのは目に見える。


 病院の自動ドアが開くと、古河が中を左右に覗き込み、まるで何かを警戒するかのように病院内を見渡していた。そして待合室に俺しかいないのを確認すると、安堵した表情を見せた。


「あずみんだ。よかった」

「古河、俺じゃなかったら何かまずかったのか?」

「こら秀美、女の子同士でも聞いちゃだめ」


 母さんが叱責する。母さんの口ぶりからして、俺のと同じ女の体としての悩みだと遅れて気付いた。授業として学んだのだが、まだ女同士の悩みに関しては疎い部分が出てしまった。叱っていた母さんは一転、古河に視線を向けて愛想笑いをする。


「こんにちは、いつも秀美がお世話になって。古河さん可愛らしいお洋服ね」

「ありがとうございます。今日のは自分で買ったお洋服を着ていたので。結構気に入っているんです」


 くるんと一回転して、紺色の小さいリボンのついたワンピースを見せつける。確かに古河の服はどれも可愛らしいものばかりだ。古河の身長が百四十ぐらいと低く全体的に丸っぽい少女体型だから女の子らしい服がかなり似合う。


「ねえ秀美、古河さんと一緒にお洋服買いに行かないの? お金も出してあげるのに」

「俺あんまりファッションとか興味ないし。ジーンズとかだけで十分だし」

「もったいないよ。あずみん、身長も大きいから絶対似合う服あるよ。今週の週末一緒に行こうよ。わたしがチョイスしてあげるから」


 すると、診察室から古河の名前が呼ばれて、そのまま古河が診察室の奥へと消えてしまった。


「いいお友達がいてよかったわね」


 母さんは喜んでいるようだが、女として調教されていく感じだ。

 俺、このままでいいのかな……変えるべきなのかな……

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