第2章 酷評
「こんなのは小説じゃない。いや、そもそも文章が日本語じゃない。言葉の使い方は間違ってるし、主語と述語は対応してないし、修飾語の係方もおかしい。全然ダメだ」
部長の三島龍之介に作品を酷評され、あたしは涙目になって睨んだ。目が合うと三島先輩は視線を逸らせた。
「と、とにかく、こんなんじゃ同人誌には載せられない。書き直せ」
「わかりました」
表面上は素直に返事しておいたが、あたしの腹の中は煮えくりかえっていた。突っ返された原稿を受け取ると、エリカを誘ってマックへ行き、愚痴をこぼした。
「ああもう、本当に憎たらしい。三島先輩は何であたしの作品ばっかりあんなに厳しく批評すんのよ。そりゃ自分でも下手だとは思うけどさ。でも仕方ないでしょ、これまで小説なんて書いたことなかったんだから」
「三島先輩は高校生の小説コンテストで優勝したほどの人だからね」
「でもエリカはいつも褒められてるじゃない」
「シオリもそのうち褒められるような作品が書けるようになるよ」
エリカはもともと文学少女で、小説もたくさん読んでるし、小学生の頃から詩とか童話とか小説とかを書いていたのだから、あたしとは比べものにならない。
文芸部の同人誌に載せる作品を出すように言われて、あたしは生まれて初めて小説なんてものをなんとか書き上げて提出した。他の先輩たちは「まあ、初めて書いたんだから、こんなもんなんじゃない」という感じだったが、部長の三島先輩はさんざんこき下ろしたのだ。
その晩は家に帰っても悔しくて眠れなかったので、突き返された原稿を封筒から取り出し、読み返してみた。するとどのページにも赤字でびっしりと修正やコメントが書いてある。あたしはそれを見ながら、徹夜して原稿を書き直した。
翌日の昼休みに部室へ行くと、三島先輩が一人でノートパソコンに向かい、原稿を書いていた。
「三島先輩、原稿書き直しました。読んでください」
三島先輩は作業していた手を休め、原稿を受け取ると、真剣な表情をして読み始めた。ときどき首をひねったりニヤリと笑ったりしていたが、最後に大きくうなずいた。
「なんとか読める程度にはなったが、まだまだプロットが甘い。次はもう少しましな作品を書いてくれ」
そう言うと、先輩はまた自分のノートパソコンに向かって原稿を書き始めた。
「ありがとうございました」
あたしは一応お礼を言って部室を出たが、悔しくてたまらなかった。これでも精一杯がんばったんだから、もうちょっと褒めてくれたっていいじゃないの。本当に憎たらしい先輩だ。