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第八話:命の重さと必殺技

第八話

「じゃあ、学校に行きましょうか、黒金さん」

「そうだな」

 いつものように俺の胸ポケットから顔を出してほほ笑むことなくクールな表情でそうおっしゃる。ああ、なんて見ていて心安らぐのだろうか。

「じゃ、行ってくるからな白銀」

 俺は玄関を後にしようとして、白銀は俺を捕まえる。

「あの、蒼疾さん」

「なんだよ。遅刻しちまうだろ」

 もしかして、出かけのキスなんてしてくれるのだろうかと桃色妄想暴走登校を想像するのだが、現実は厳しいものだった。

「これは一体、何ですか」

 そう言って指差しているものはチェーンソー。謎電波女が残して行った負の遺産である。触れたら呪いが襲いかかって毒電波を受信してしまうかもしれない。もしかしたら、地方掌握のために置いて行ったチェーンソー型アンテナなのかもしれないな。

「おいおい、これはな、チェーンソーと言って木とか鉄とか様々なものをぶった切るんだよ」

「へぇ、そうなんですかぁ………って、そうじゃなくてっ。私が言いたいのはなんでこんなところにチェーンソーが突き刺さっているんですかっ」

 チェーンソーはいまだに元気に呻っており、床を傷つけまくっている。

「これ、止めないといけないんじゃないんですか」

「俺、このチェーンソー止めれねぇもん」

 チェーンソーの操作方法を知っている高校二年生ってなかなかいないって思うんだ。うん、手足のように稼働させるなんてそれこそ、小さいころから扱ってないと出来ない。

「というわけで、無視」

「それで結局、私が止めておけばいいんですよね」

「そうだな、頑張ってくれ」

 親指をぐっとたてて俺と黒金さんは学校へと旅立ったのであった。

「いや、やっぱり待ってください」

「おい、そんなにひきとめるなよ。お前、絶対RPGで王様のお願いをいいえって連打しまくるタイプだろ」

「違いますよ、止め方がわからないんで教えてください。チェーンソーってどうやって止めるんですか」

「いや、さっきも知らないって言っただろ。黒金さん、わかりますか」

「ああ、まかせてくれ」

 さすが黒金さん。この人に止められないものなんてないんだろうな、きっと。

「こうやって剣を突き刺せば止まるぞ。えい」

 どこから出現させた剣を放り投げ、チェーンソーに突き刺す。機械のきしむ音が廊下中に響き渡り、絶命した。

「ほらな、止まったぞ」

「あの、それって壊したっていうんじゃないんですか」

 白銀がそういうが、黒金さんは涼しい顔である。

「それならお前が止めればよかっただろう。お前が止められないと蒼疾に駄々をこねた、そしてわたしを蒼疾が頼ったからわたしは行動に移したまでだ」

 まぁ、そうである。たった一本の剣が刺さっただけだというのに部品などが粉々に砕け散っている為、どれほど黒金さんは力を持っているのだろうかとついつい、垣間見てしまった。

「白銀、お前に残念な知らせだが蒼疾と勇者は出会ってしまった」

「え、本当ですか」

「ああ、本当だ」

 二人の間に嫌な感じの空気が流れる。

「蒼疾さん」

「なんだ」

「あの、私天界に帰ります。帰してください」

 詰め寄られるが俺はどうやって帰してやればいいのか分からなかった。

「白銀、お前、契約を途中で終わらせるとどうなるか知っているのか」

「え、知りませんよ」

「はぁ、これだから勉強嫌いは困るんだ。というか、常識だろう」

「え、えぇ、そ、そうでしたっけ。ちょっとド忘れしちゃいました、えへ」

「白銀、可愛くいっても黒金さんには通用しないだろ」

「契約を途中で破棄した場合、最悪消滅だぞ」

「え」

 絶対にこれは素で知らなかった顔だろうな。

「まぁ、そのことを考えたうえで勇者から逃げたいというのなら蒼疾に頼むといい。わたしの伴侶は心優しい男だからきっと許してくれるだろう」

「あの、蒼疾さん」

 白銀は何かを決心したかのように俺のほうへと顔を向ける。

「これから毎日プリンを買ってください。私の命が燃え尽きるその日まで」

「いや、無理に燃やさなくていいからな」

 天使が不燃物なのか可燃物なのか知らないが、やっぱり、白銀も消滅するのはいやらしい。



――――――――



 学校へと向かう道。俺は一人ながら黒金さんという手のひらサイズの女性と話していた。

「あの勇者からは魔王の匂いがしたぞ」

「魔王の匂いってなんですか」

「きっと、生まれ変わった魔王がこの人間界のどこかにいるのだろうな。しかも、勇者のすぐ近くに。気をつけておいたほうがいいぞ」

 その魔王がどういった人なのか知らないが、気をつけようがないのではないかと考える。だって、流されるようにしてここまでやってきたのだからこれから無理して逆流してもいいことはないんじゃないのか、そう思えて仕方がない。

「それと、お前に命について教えておこうと思う」

「命ですか」

「ああ、悪魔の下っ端どもは軽々しく命を粗末に扱い、勝手に取り込むがそれはとても無茶な行為だ。人間の魂とそこらに蠢くアリの魂の重さはどちらも同じ、しかし、誰もそれを認めないだろうし、生きている間は問題がない。ただ、問題なのは肉体が朽ちた後、魂だけとなった場合だ。それまで自分が殺してきた魂たちに追いかけまわされる。恨みつらみ、さまざまな怨恨によって力を得た魂ほど強力だからな。生前悪魔だった者たちでさえ、人間一人の魂とは同等だ。上級悪魔はそれを知っている。殺さず人の苦しむ表情を楽しむが、人の魂を食らうことはほとんどない」

「じゃあ、偉い悪魔が人の魂を食べるときはどんな時ですか」

 黒金さんは俺を見てはじめて笑った。

「それはな、最後まで信頼して死んでいったものの魂だ。恨みつらみなど抱かずに信頼という嘘くさく、この世で最ももろい言葉で結ばれたものの魂を食らい、強くなるのだ」

「………そうなんですか」

「そうだ」

 それ以降、チェーンソーのうなる音が聞こえてくるまで俺と黒金さんは無言だった。



 曲がり角を曲がると、そこには頭に鉄の棒をつけた一人の少女がいた。



「あれ、また君か」

「またあんたか………」

「運命を感じるね」

「俺は絶望を感じる」

 お互いに軽いジャブをぶつける。ちなみに俺が生意気な口をきけるのは黒金さんがいるからである。

「ま、昨日は悪かったと思ってるよ」

 悪びれもせずに自分の髪の枝毛を気にしながらそういう。

「嘘つけ、それならあのチェーンソーをどうにかしてくれ」

「それは駄目だよ。あたしのあれはマーキングだからさ」

 なるほど、チェーンソーはマーキングだったのか。しかし、あれと壊れた扉がマーキングだというのならば俺の家を乗っ取る気満々という発言と取っていいのだろうか。

「女、人間のくせにあまり粋がるなよ。あまりわたしの蒼疾をいじめると少しばかり痛い目を見ることになるぞ」

 俺の胸ポケットから黒金さんが顔を出してそういう。ああ、かっこいい………。

「ふん、よくいうねぇ。それなら試してみるといいんじゃないかな」

「いいだろう、手加減はしてやるからあがいて見せよ、愚かなる人間よっ」

 胸ポケットから魔王みたいな台詞を吐いた黒金さん。俺が気がついた時には既に相手の背後にいた。それに気がついた電波女はチェーンソーを後ろに振り回したが、黒金さんはこれまたおらず、やつの鳩尾前に腕組みをして立って、いや、浮いていた。

「しまっ………」

「必殺っ」

 さすが黒金さん。しっかりと必殺技も持っていらっしゃるんですね。

「黒金パンチっ」

「名前ださっ」

 晴天の五月、アスファルトにひざを屈する一人の女子生徒が目撃されたそうだ。


私が申し上げることは特にありません。いずれ、黒金の他の必殺技を垣間見ることもあるでしょう。次回、魔王降臨予定です。感想、メッセージなど欲しています。

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