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第五話:白銀、黒金

第五話

 朝、目の前に女の子がいたら誰だって驚くだろう。そして、事故を装って近づき、あれこれとやるかもしれない。あ、ちなみにこれは彼女がいないやつの話だ。俺だって目の前に女の子が寝ていたら驚くだろうな。ただ、女の子が人体模型(♂)だったらなおさら驚くと思う。無表情、輝きのない瞳が、俺をしっかりととらえて放さないのだから。



「ぎゃああああああああああああああ」



 俺の悲鳴は広い広い、ばあちゃんの家にこだまする。断末魔の叫びを聞けば誰だって来てくれる。もちろん、俺にも走って駆けつけてくれる人、というより人以外の天使がいるわけだが。

「そ、蒼疾さんっ、どうしましたっ」

「てててて、天使さん、って、ええっ」

 天使さんは小脇に骸骨の模型を抱えていた。力なくだらけており、白さにも元気がない。カルシウム不足だろうか。何故、そんなものを持っているのかは聞くまい。

「な、なぁ、なんで俺の隣に人体模型が………」

 骸骨よりも人体模型。なまじっか人間の皮が半分剥げたような感じのリアル指向だから小学生たちには見せられない。

「ああ、それはわたしが置いたんだ」

 目をこすりながら悪魔さんがやってきた。そして、ふらふらと飛んだ後に俺の頭の上に乗る。

「え、なんでですか」

「そりゃあ、添い寝をしてやったほうがいいだろうと思ったのだがあいにく、この身体のままではお前に押しつぶされてしまうからな」

「ああ、なるほど、ありがとうございま………すとか言いませんよ」

 肝臓の部分がとれており、布団の中ではさらに他の内臓がとれていた。あまりに怖かったので半身残して内臓をつけてやることにした。

「そういえば蒼疾さん、そんなことよりなんでこっちの黒いのには敬語を使うのに私に対しては乱暴な物言いなんですか」

 ちんまい身体で胸を張る。そのわきには骸骨さんがいまだにぶらりと垂れ下がっており、朝から元気がないようだった。もし、骸骨と人体模型が動くというならば俺はこの家を手放すかもしれない。

「そりゃあ、悪魔さんはどう見ても年上だからな。俺、年上には敬語を使う主義なのよ」

 見た目は小さいのだが、胸はしっかりと出ており、顔も大人びた顔つきだ。

「わ、私だって五百歳は超えていますよっ」

「え、そうなのか」

「ええ、そうです」

 頭の上からつま先まで。若々しいオーラでさらに、ひまわり印の元気っ娘である。お肌のつや、張り、透明感ともにぴちぴちで身体は凹凸が少ない。

「だから、敬語を使ってくださいっ」

 胸を張られてそう言われた。ふむ、それならば仕方がないだろう。

「じゃあ、ベットのほうに戻りましょうね、おばあちゃん」

「だ、誰がおばあちゃんですかっ」

「だって、五百を超えるっておばあちゃんでしょう」

「そのやさしい目はやめてください。癇に障りますっ」

 先に言っておくが、俺はけっして遊んではいない。真面目である。

「おい、蒼疾。朝から馬鹿をやってないでわたしたちの名前を決めてくれ」

「はぁ、わかりました」

 昨日の夜、飯を食べたのちに名前をきちんと決めてほしいと言われた。あっちでは名前がちゃんとあったらしいのだがそれはあちらの世界での話であり、こっちはこっちで名前が必要だという。

「真面目なものを頼みますよ」

 天使、悪魔ということも考えてカタカナとかがいいのかと思ったのだが日本だから和名がいいだろうと言われた。

「最近の日本の親はエキセントリックですからね。当て字とか無茶なことをしたりしますから。その点、蒼疾さんには期待していますよ」

 期待するだけの価値を俺に見出してくれたのだろう。安心してほしい、俺はしっかりと名前を付けている。

「そうだな、まだ時雨とか氷雨、零一に霧ノ助だったらセーフだろうけど」

 どう考えても異質の名前が俺の耳に届く。俺だったら認めないね。

「いや、それもアウトでしょうよ、悪魔さん。とりあえず、天使さんの名前は『白銀』、悪魔さんの名前は『黒金』ってことでお願いします」

 二人とも嫌そうな顔をして俺をじーっと見ていた。だが、俺は気にしない。名前というものはとても大切だ。俺も一生懸命考えたのだ。白と黒、それだけだったら悲しいじゃないか。だから、シロガネ、クロガネという名前にしたのである。

「じゃあ、これからよろしくお願いします。白銀、黒金さん」

「ネーミングセンスを問います。もし、天界で裁判があったら絶対に地獄落としですよ」

「もし、蒼疾がわたしの伴侶でなければ今頃全身の血を抜いてオレンジジュースを流してやるところだったぞ」

 うん、二人にこんなに喜んでもらえるなんて俺、感激だな。あれ、涙が出てきちゃうよ。

「じゃあ、俺、朝食作ってきます。目玉焼きとレタスでいいですよね」

「待ってください、名前のほうは譲歩してあげますが私、卵は駄目なんです」

「ええっ、そうなのですか、おばあちゃん」

「おば………敬語はもういいですからおばあちゃんって呼ばないでください」

「わかった」

 交渉成立ってこういう時に使う言葉なのだろう。

 人体模型を布団に残し、俺は台所へと向かう。俺の肩には黒金がのっており、白銀は後ろから歩いてきていた。

「あの、私も肩に乗りたいんですけど」

「いや、どう考えても乗れないだろ。黒金さんのほうは小さいから肩に乗って大丈夫だけどよ」

「うむ、ここはわたしの場所だ。さぁ、ゆけ、巨人よ」

「はい、黒金さん」

「小さくなったら肩に乗ってもいいんですね」

「ああ、いいぜ」

 その後、ご飯を食べ終えて俺たちは学校に行く準備を始めたのだった。もちろん、白銀を連れていくことはできない。転校生とかそれ以前に、白銀の存在を俺の両親にばれてしまってはまずい。黒金さんのほうは引き出しや机の下、本棚の奥など、いろいろと隠せる場所があるからなんとかなるだろう。

 ちゃっちゃと朝飯を準備している傍ら、白銀にそのことを注意しておくことにした。

「おい、白銀………」

「はい、なんですか」

 一生懸命丸くなろうとしていた。

「何、してるんだ」

「小さくなっているんですよ」

 そんなに肩に乗りたかったのだろうか。まぁ、そんなことはどうでもいい。

「もし、この家に誰かが来ても絶対に出るなよ」

「何でですか」

「よし、じゃあ俺の言うことをちゃんと聞いたらプリンを贈呈しよう」

「わかりました」

 ふっふっふ、ここまでこいつに対してプリンが効果的だったとはな。これから先面倒なことはできるだけ白銀を使って………

「おい、蒼疾」

「なんですか」

「わたしにはコーヒーゼリーは出ないのか」

「は」

「だから、コーヒーゼリーだ。わたしも人がここにきても絶対に来ないと約束しよう」

「は、はぁ、わかりました」

「よし、今日の晩御飯の時に頼むぞ」

 自ら買収しに来る人外の者がまだいるとは思わなかった。世界とは広いものである。

「じゃあ、俺と黒金さんは学校に行ってくるから」

「はい、何か用事があったら連絡してくださいね」

「ああ、わかってる」

 しっかりと電話の使い方は教えておいたのできちんと出てくれることだろう。

 そう、俺は家から出るときそう考えていた。まさか、家のほうの白銀が問題を起こすのではなく全く俺とは関係のない第三者が問題を起こすとは………さすがに、白銀も黒金さんもわからなかったに違いない。


ついに次回はみんなの大好きそうなジャンルの女性が登場。一体、この小説のヒロインは誰なのかっ。

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