第四話:悪魔と屋上で
第四話
そろそろ朝のHRが始まる時間だが、まだ登校していない生徒は結構多い。俺のクラスはぎりぎりに入ってくる奴が多いからな。
「おはよ~」
「おはよっ」
高校生だから高校に行かなくてはいけない。俺の両親は貧乏なのだがなんとかこうして高校に行かせてくれている。俺が小さいころからよく夜逃げという行為をたしなんでいらした。一番好きなものはお金、それが俺の両親の座右の銘である。
天使、悪魔なんて置いておくとして、以前俺はばあちゃんに『家がほしい』といったことがあった。それが今、こうして叶っているのかもしれないなとそう思えている。
「神埼、神埼、返事をしろ」
「え、あ、はい」
「朝からぼーっとするな」
「すみません」
いつの間に出席を取り出していたのかは分からないが、先生に注意されるほどぼーっとしているとは重症だ。俺はひとつ、ため息をついた。学校の俺はクールな存在。騒いだり、おくしたりしないで常にポーカーフェイス、それを今日まで心掛けてきたのだ。
「蒼疾、蒼疾」
「ん、ってうわぁぁぁぁぁ」
下から声が聞こえてくると思ったら制服の胸ポケットから悪魔さんが………悪魔さんが手を振っているではないかっ。
「おい、神埼、うるさいぞ」
「す、すみませんっ」
俺は周りからの冷たい視線をクールだから、なんとか耐えきった。
――――――
「もう、学校にいるときは話しかけないって約束だったじゃないですか」
「おい、それは間違っているぞ」
「はぁ、どこが間違っていると言うんですか」
下から親指を突き付け、俺に言うのだった。
「ここは高等学校だ。お前の言う学校は曖昧すぎて対象外だぞ」
「検索機能のしょぼい機械ですかあんたはっ」
「いや、悪魔だ」
くっ、さらりとクールな顔で言われるとは思わなかった。俺よりもクールだ。そして、美しい。ああ、こんなお姉ちゃんがほしかった。
「大体、惚れた女を家に一人残そうとするなんて愛をわかってないな、お前は。まぁ、あんな下級天使よりもわたしを選んだことは利口だがな」
「まぁ、それはそうですよ」
だって、あなたならたぶん、事故が起こらない限りばれないでしょうし、とは口が裂けても言えなかった。てっきり手のひらサイズはレンジから出てくれば終わるかと思っていたのにそうではなかったとはな。
―――――――
「なななな、なんで身体が縛られているんですかっ。しかも、点滴されている状態ですしっ。私は病人ですかっ」
――――――――
家の天使さんは静かにしてくれているのだろうか。屋上でそのことを悪魔さんに尋ねると大きくうなずいてくれた。
「安心しろ、下級天使ごときがわたしの術を破ることなど出来ないだろう」
「はぁ、まぁ、確かにすごかったですからね」
たたみで眠っている天使さんを指パッチン一つで布団に縫い付け、栄養補給のために点滴までさせたのである。すごかった、この悪魔さんの腕前は。
「でも、意外ですよねぇ。悪魔さんが天使さんにやさしくするなんて。悪魔と天使なんて敵同士かと思いましたよ」
「ん、そりゃあ、仕方がない。契約が成り立っている以上、天使と悪魔といえど手を取り合わねばいけないからな。使役されている者同士がけんかをしてしまえば不利益をこうむるのは使役者だ。契約を作ったものも馬鹿ではない、けんか両成敗という結果になってしまうからな。だから、手を取り合うのだ」
「………」
悪魔が、悪魔が手を取り合うなんて絶対に言っちゃいけないと俺は思った。そして、けんか両成敗ってあれとけんかしたら悪魔さんは絶対に踏みつぶされて終わってしまうと俺は思う。
「まぁ、蒼疾の言いたいことはわかるが残念ながら悪魔同士のほうが仲が悪いだろう」
「え、だって同じ種族じゃないですか」
「ふっ、それはお前ら人間のほうが知っているだろう。たとえ、同種族であっても仲良くなることなど難しい」
「………」
そりゃそうだ。それなら歴史は平和的でこの世にパスポートなどというものは存在しなくていいだろう。馬鹿な俺はこの程度の考えしかできない。もっと頭がよければいい考えも浮かぶはずなんだけどな。
「悪魔はな、人間の苦しむ表情や困ったような表情が大好きだ。大人数が苦しんでいればそれだけ自分の幸せが増えるということになる。だが、他の悪魔もその人間の苦しむ表情は自分だけのものと思っているんだ。実際、それは違うんだがな。悪魔は一人占めしたいとみんな思っている」
「はぁ、なるほど」
ムードもへったくれもねぇ。すっごくいい表情をして俺に笑いかけてくれた。
「だから、今度お前の一番いい表情をわたしに見せてくれ」
「か、考えておきます」
恥辱と苦痛に悶える様……どちらが悪魔さんの喜びをより多く引き立てるのだろうか。うう、契約なんて本当、やすやすとするもんじゃねぇな。
「ふふ、そういった表情もまたすごく元気になるな」
「え」
気のせいだろうか、悪魔さんの身体が大きくなっているように見えた。
「お前はもっともっと、これから苦しんで生きていくのだろうな」
「あの、その言い方ものすごくとげがあるように聞こえます」
「お前の苦しんだ表情、ぜひともわたしに見せてくれないか」
「………お好きにどうぞ」
「いい返事だ」
ああ、すごくさわやかに言ってくれているが俺の心の中の闇はどんどんひどくなっていくばかりである。
「人の不幸は蜜の味って言いますけど、あれって本当なんですかね」
「ああ、そりゃあ悪魔の世界じゃ毎年つかわれている言葉だな、うん。お前の困った表情、なかなか魅力的だったぞ」
「悪魔って意地悪なんですね」
「まぁ、悪魔だからな」
なるほどな、それは仕方がない。俺はあっさりと納得してしまった。いや、悪魔にそう言われたら誰だって言い返せないだろう。
――――――――
買い物時、悪魔さんはこういった。
「肉が食べたい」
「はぁ、わかりました」
そういうわけで鶏肉を買って帰ったのだが天使さんにこう言われた。
「無理です、私はお肉を食べれません」
「え、そうなのか」
「ええ、あの、お言葉ですが蒼疾さんはニワトリや豚が包丁であんなことやこんなことをされているシーンを何十回も、ええ、それはもう、何十回も見せられたことはないんでしょうか」
「いや、あんなことってなんだよ」
「あんなことはあんなことですっ」
一生懸命説明しているが、俺の目には切腹をしている武士にしか見えなかった。
「ともかく、お肉は食べることができません」
「そうか、それなら仕方ないな」
ベジタリアンなら仕方がない。ニンジンとキャベツとかで野菜炒めを作ってやらないといけないな。
「蒼疾、わたしに任せておけ。包丁さばきを見せてやろう」
「あの、持てるんですか」
「安心しろ」
身長、MGスケールの悪魔さん(黒いドレスVer)に包丁を持たせるのはどうかと思う。しかし、彼女がやる気を出してくれているならば手伝わせるのがいいのではないだろうか。せっかく俺が呼び出したというのだから使役しても問題ないはずだ。
「じゃあ、お願いしますね」
「私も負けませんっ。天界でつらく厳しい修行に耐えた私の料理の腕前、見せてあげますから」
「ああ、頼む………」
――――――
「あ、間違えて包丁を蒼疾さんにさしてしまいましたっ」
「ぐふっ」
「あ、間違えて蒼疾さんが食材だと思ってしまいましたっ」
「がはっ」
「あ、間違えて蒼疾さんの顔に熱したフライパンを押しつけちゃいました」
「げほっ」
――――――
「天使さん、貴女は今日一人で家にいたのだからそんなに頑張らなくてもいいのですよ。ゆっくりとテレビでも見ていてくださいな」
俺は天使さんの頭に手を置いて笑いかける。
「え、いいのですか」
「ええ、たまにはその疲れた翼を伸ばしなさい。ねぇ、悪魔さん」
「ああ、わたしはそれで構わんぞ」
どんな種があるのかは知らないが包丁が宙に浮いていた。幻ではない、俺の視界には包丁が鶏肉をきれいに切っているのが見えるのだ。
「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいますね」
天使さんには全然不思議に見えなのかテレビのスイッチを押している。
「あ、蒼疾さんお茶を注いでください」
「ふてぶてしいな、おい」
まぁ、こんなもの俺の安全に比べれば安いものだ。
「えっと、悪魔さん」
「ん、なんだ」
「………」
口に鶏肉(生)を咥えていた。
「いえ、なんでもないです」
「そうか、それならいい」
つまみ食いってやつだろうか。俺の知っているつまみ食いはせいぜい、火を通したものだけだと思ったのだが考えが甘かったようだ。
その後、問題は特に起こらず、ご飯を食べ終えた。正直言うと、俺は特に何もしておらず悪魔さんがやってくれたのである。その後もまぁ、いろいろとハプニングがあったのだがここでは割愛させてもらう。
知っている人は知っていますがこの小説、打ち切っていたやつですね。当時の自分が何を思っていたのか知りませんが、続けることができるならば続けたほうが小説も喜ぶでしょう。休載にしてしまったあっちの小説もどうにかしないといけませんね。