第二十五話:魔法の勉強
第二十五話
「お帰り」
目を覚ました俺の近くに静かに立っていたのはサージさん。
「戻って………来れたのか」
「ええ、まぁね」
彼女が指差す先には白銀、黒金さん、そして睦月が倒れていた。睦月の口からは黒金さんが半分出ており、喰われている途中だったようだ。
「さて、魔界ももう作っちゃったし今度は私のほうを手伝ってくれますかねぇ」
「まぁ、助けてもらいましたし構いません。そういえばあっちの世界で俺の祖母がどうっていってましたね」
鎌をどこへやったのかは知らないが、先ほどまであった鎌は消えていた。当然、目には違うやばい色が浮かんでいる。
「あ~、仕事なんて放っておいて死海にダイブしたいなぁ」
「それって死違いだと………まぁ、いいです」
「あなたのおばあさんねぇ、これがまた、厄介なことに連れて行こうとする死神を消滅させてるのよ」
困ったものだわぁと全然困ってなさそうに言っている。
「何せ魔力は魔王クラスの化け物、束にかかって刈りに行ってもなかなか、ねぇ。それで私が呼ばれたのよ」
私ってこう見えて死神の中じゃ結構やばいほうなのよと言っているがまぁ、見た目からすでにやばい事は知っている。
「というわけで、手伝ってくれるわよね。ああ、安心していいけど地獄に連れていくわけじゃないわ、天国に連れていくんだからあのおばあさん、死神全部を消滅させる気みたいだからね」
これまたさらりと恐ろしい事を言われた気がした。
「んじゃ、こっちの用意が出来たら呼びに来るからそれまでにそこで伸びてる連中に伝えておいてね」
ばいばいとそれだけ言ってサージさんは消えてしまったのだった。
―――――――
「なるほど、あれは全部夢じゃなかったのか」
「あれが若様が作り出した魔界だったのですねぇ」
「魔界って言うよりもこの世界を映しただけだったみたいでしたねぇ」
三者三様、感想を述べた後に俺は死神であるサージさんの頼みを三人に話した。
「………シンシア様は………手ごわいですよ」
「面白そうだな」
「あ、私はちゃんと隠れてますから蒼疾さん、頑張ってください」
そして、俺は自分の身を守るために黒金さんから魔法を教わることにしたのだった。
「魔法はな、信じていればちゃんと答えてくれるんだ。しかし、呪文を間違ったり自分の実力以上のものを使おうとすると失敗するから気をつけるようにっ」
頭には『鬼教官』と書かれた鉢巻きがしっかりと巻かれていたのだった。
「あの、黒金さん」
「何だ白銀」
「なんで私まで教えられているんでしょうか」
「お前、魔法使えないだろ」
「ええ、まぁ」
「今回の相手は強大だと聞く。身を守れなかったら大変だからしっかりと受けてもらおうと思っているのだ。さ、始めるぞ」
ぱちんと指を鳴らすと俺と白銀の前に人形が現れた。ちなみに、睦月は自宅待機となるので魔法は教えてもらわなくてもいいようだった。
「正直、蒼疾に教えることは必要ないだろうが基礎だけ教えておく………『燃えろっ』と叫べば燃えるからな。さ、今から実際に火をつけてみろ」
「はいっ」
俺は声たかだかに返事をしたのだが、白銀は微妙な顔をしていた。
「あの、今ので終わりですか」
「ああ、そうだ。呪文は『燃えろっ』で構わないぞ。まぁ、もう少し高度な魔法を使おうと思うのならそれなりに長い呪文を覚えないといけないけどな」
「ま、まぁ、基礎ですからそうですよね。もうちょっとかっこいい呪文かと思っていたのですが………」
白銀は人形のほうに歩み寄っていくと両手をあげて叫んだ。
「萌えろっ」
俺は初めて魔法を見たのかもしれない。それまで真っ白だった人形の顔がお目目ぱっちり、大きなお兄ちゃん達に受けそうな面に変貌したのである。どっちかというと抱き枕か。
「………燃えませんね」
「そうだな。違う意味で萌えるんだろうけど」
黒金さんはじっとその人形を見ていたがため息をついた。
「白銀、そうじゃないだろう」
「え、あ、はいっ。すみません」
「こうだ、萌えろっ」
これまた呪文を黒金さんが唱えると突如として何もなかった空間に抱き枕が登場。しかも、それには黒金さんの絵がプリントされていた。
「どうだ蒼疾、こっちのほうが萌えるだろう」
何故だろう、かなり自信満々だった。
「燃えろっ」
白銀が突如として呪文を唱えた。すると、黒金さんの抱き枕が突如として萌え………ではなく、燃え始める。
「あ、白銀何をするんだっ」
「すみません、もっと萌える奴を出そうかと思ったんですけど」
「いや、しっかり燃えているから気にするな」
こんなことでばあちゃんに勝てるのだろうか。
たまには暴れたい。ああ、根性入れて、素振りをして、あの面具と銅をつけた人形に襲いかかりたい………そしてストレス発散を………