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第二十二話:魔王式

第二十二話

「おい、近藤」

「なんでしょう、出来れば近藤さんと呼んでいただけると嬉しいのですが」

 執事服は掃除のために汚れており、掃除に適さない黒のドレスをまとった小さな女性、黒金も汚れていた。場所は地下室、一階と二階の掃除は終わり、残るはここだけとなった。ハイペースで掃除を続けていたのだが一切の疲れを感じないのはやはり人間ではないからか。

「お前、魔王になるための条件は魔力だけじゃないだろう」

「ええ、当然そうですよ」

「え、そうなんですか」

 真っ白だった服はすでに埃やこれまで溜まっていた汚れで黄色と茶色を混ぜたような汚い色へと変貌していた。だが、そんなこと関係ないとばかりに天使、白銀は一生懸命掃除をしている。

「魔力は当然ながら、一個の命を大切にし、すべての命を時として裁かなければいけません。大小、さまざまな魔界がありますが魔王ならばどのような相手も裁かなくてはなりませんからね。少々、若様にはそこが欠けているところかなとは思っています」

 困ったものだと言わんばかりにはたきを置いて雑巾でこすり始める。

「無理に魔王にする必要なんてないだろう。完全に覚醒なんてしていないのだから魔力を消滅させて人として生活させたほうがいいのではないのか」

 魔王にさせるのが仕事だと言わんばかりの女性が近藤睦月、その人なのだが周りを見渡してため息をついた。

「それがなかなかどうして、うまくはいかないのですよ。わたくしもいろいろと探していたものです」

 ため息一つ、窓ガラスについたのちに今度は肩を落とした。白銀は首をかしげ、黒金も首をかしげるのだった。

「何故だ。魔力の放出を人外のものにし続ければいいのだろう。それならば魔界へと旅立って魔界の住人すべてに………」

「そんなことしたら世界が一つ、消滅してしまいますよ」

 重い言葉を口にしている割にはどうでも好さそうに雑巾を汚れたバケツの中へと静かにつける。

「残念ながら、シンシア様、若様のおばあさまの呪いによって若様の魔力を受けたものは破裂してしまいます」

「え、なんでですか。そんなにいっぱいもらわなくて調節してもらえれば私もすっごく強い天使になれるんじゃないんですかねぇ」

 ぼーっとした調子で答えているのだが、しっかりと掃除をしている。ごきぶり退治の罠も設置完了したところだった。

「これがまた、普通の呪いならよかったのですがシンシア様の呪いは面倒なのですよ。そうですね、白銀様を例にあげてみましょう」

「おお、嬉しいですね」

 これから仮想の中とはいえ、破裂させられることも知らずに汚れた天使は嬉しそうにはしゃぐのだった。

「放棄するため、魔力を他人に譲渡しようとすると発動するのです。そして、魔力を注いだ瞬間に白銀様は破裂します」

 パンと口にすると白銀は詰め寄るのだった。

「な、なんでですかっ」

「つまり、『白銀の限界量=白銀の限界量+1』といった計算式だとわかりやすいですかね」

「なんだかおかしくないですか。その式が正しいのなら私の限界量に+1されて魔力をたくさん保有するってことになるんじゃないですかね」

 小首をかしげる白銀に黒金はうなずく。

「一応はな。だけど、わたしたちの身体は数値じゃない。魔力をもらうということは一瞬限界を超えることじゃなくてずっと続くことだ。ごまかす瞬間が長ければ長いほど身体は耐えることなんて出来やしない。修行とは己の力を鍛えるためにあるが、それと同時にその力をためることが出来る器も作らなくてはいけない。無理に力をもらっても受け入れる器がないから器ごと壊れてしまうというわけさ」

「う、うーん、わかるようなわからないような………」

 頭を抱える白銀に睦月はため息をついたのだった。

「わかる、わからないはともかく、呪いによって魔力を放棄するということが出来ないことに変わりません」

「その呪いを解けばいいんだろう」

「ええ、確かに呪いをどうにかすればいいのかもしれませんがこれがまたシンシア様が滅茶苦茶な解呪方法なのですよ」

「どんな方法なんですか」

「若様の命との引き換えです」

「堂々巡りだな」

 お手上げだと黒金ははたきを放り出した。

「所詮この世は都合よく廻ってはくれないか」

「いえ、恐ろしいほど都合よく廻ってはいますよ………死んでしまったシンシア様の思惑通り」

「どうにかしないと蒼疾さんはいずれ魔王になってしまうんですねぇ」

 白銀はふんぞり返っている召喚主のことを考えたのだが、どうにも似合わなかった。

「他の方法を模索してはどうだ」

「下手に動くとそれこそ、シンシア様の意思に呪われますよ。『神』に直接魔力を消してもらうことにも呪いが掛かっています。まぁ、しっかりとこれにも解く方法がありますが魔王になってのさばったほうがまだましですね」



「えっと、なんで魔王になるのがいけないんですかねぇ」



 白銀は気になってふと尋ねたのだった。

「別に魔王になれば好き勝手ふるまえると思うんですけど」

「まぁ、確かにそうですけどね」

「そうだな、確かに好き勝手にふるまうことが出来るなぁ」

 ため息を二人ともついており、そんな二人を白銀は不思議そうに見つめるのだった。

「あの、それなら別にいいんじゃ………」

「確実にわたしらは捨てられるぞ、白銀」

「え」

 驚愕したまま白銀は動かなくなった。そして、近くでは近藤がため息をつく。

「わたしは血を吸って消え去るまで一緒なのですがきっと冷めた生活が待っているんでしょうね。ぶっきらぼうな愛情なんて一切なく、事務的、何のいべんともない生活、ちょっとした冗談で確実に謀反と疑われて命を散らすでしょうね………白銀様、魔王になると変な話ではありますが人が変わってしまいます」

「で、でもっ、魔界を納めていた魔王様はしっかりしたいい人だったじゃないですかっ」

「まぁ、確かに魔王は素晴らしい魔王だった。それはわたしも認めるが魔王はあくまで前の魔王が逃げたから魔王になっただけにすぎない。新しく世界を創って魔王となるものはそうだな、絶対に以前の自分を知るものを近くに置いたりしないだろうな。せっかく自分の好き勝手にできるのに口出ししそうな相手は絶対に捨てるぞ」

 さびしそうに黒金はそう言った。

「そ、蒼疾さんに限ってそんなことはありませんよっ」

「これだから天使は甘いんだ。蒼疾の意思を尊重する前に魔王にならせようとしているのはシンシアとかいう蒼疾の祖母だ。捨てなければ蒼疾の身に危険が及ぶか、わたしたちが消滅するか………たぶん、どちらかだ」

「そ、そんな………」

 がっくりと膝をついた白銀、そして他の二人はため息をついた。



「ただいま~」



 そんな時、一階から声が聞こえてきたのだった。

「あ、蒼疾さんですっ」

 ぱっと顔が明るくなって急いで階段を駆け上がる。当然、白銀の後ろに黒金、そして近藤が続く。

 廊下を歩いてきた蒼疾に飛びつき、涙ながらに白銀は訴えるのだった。

「そ、蒼疾さん、捨てないで下さいっ」

「はっ、捨てるってなんだよ」

「蒼疾、お帰り」

 どことなく白銀をうらやましそうに見た後に黒金はため息をつきながらそういう。

「ああ、ただ今帰りました。黒金さん、あんな危険物をそこらの道に捨てるのは危ないですよ」

「悪かった、次からは気をつけよう」

「お帰りなさいませ、若様」

「ただ今、で、三人とも汚れてるけど掃除は終わったのかよ」

「ええ、まぁ。あの、ひとつお話があるのですが、よろしいでしょうか」

 何かを決意したように、近藤は口を開く。



――――――――



「ははぁ、なるほどねぇ」

 一応、というか蒼疾に地下室で話したことを話すことにしたのだった。祖母のことを結果的に悪いように思わされるのでどうかと思ったのだが、あまり気にしていないようでもある。

「やっぱ、この家をもらうなんて権利放棄しちまえばよかったかなぁ」

「そうすればきっと、夢枕に立ってますよ」

「そうだろうな」

 一瞬だけなごんだがそれもほんの一瞬。再び暗い雰囲気は続く。

「まぁ、魔王なんてなかなかつけない職業だとは思うぜ。ちょうど高校卒業したら進路はどうしようかなって考えていたところだし」

「蒼疾さんっ、それってかなり適当に決めてますよねっ」

「あ、ああ、悪い悪い。お前らが俺を魔王にしたくないのならしなきゃいいだろ」

「蒼疾、それが出来ないから苦労しているんだ」

「そうですよ」

 困ったものだと白銀、黒金、睦月は考えるが蒼疾はどうでもよさそうにいうのだった。

「睦月が横流し出来るんだったら俺の代わりにすればいいんじゃないのか」

「あ」

 今更気がついたと言わんばかりに蒼疾のほうを見る。

「さすが若様。やはり、魔王になるための頭脳を持っていますね」

「ほめても何も出ないぞ」

「でも………蒼疾、お前は本当に魔王にならなくていいんだな」

「え、なんでですか」

 蒼疾は首をかしげ、黒金のほうを見る。

「だって、好き勝手出来るんですよっ。女性に囲まれてうはうは、お金に埋もれてにゃはははは、とかハーレム築けるのに」

「おいおい、俺は今だってハーレムだろ。白銀に黒金さん、そして新たに睦月ときたもんだ。せいぜい、相手できるのは数人ぐらいだろ」

 魔王の生活よりはちっぽけな幸せを彼は冗談をいうような感じで主張するのだった。

「家だってこんなに大きいのがあるし、金はまぁ、その気になればなんとかなるだろ。こここそ俺の魔界だね」

「さすが若様」

 ほめられて調子に乗っている蒼疾を見ながら白銀はため息をつく。

「井の中の蛙って言葉、黒金さんは知っていますか」

「ああ、知っている。だけどな、身の丈に合った幸せって大切だろう。蒼疾にハーレムは必要ないな」

「そ、そうですよねぇ」

「わたし一人で十分だ」

 それだけ言って黒金は蒼疾の頭の上へと乗るのだった。

「なななな、なんですかそれはっ」

「おい、白銀、お前のためにプリン買ってきてやったぞ」

「若様、白銀様に対してはかなり甘やかしていませんか」

「そうだぞ」

「いやぁ、さすが蒼疾さんはわかっていますね。ありがたく頂戴いたしますよ」

 梅雨時の晴れはなんでこんなに美しいのだろうか、白銀は蒼疾へとほほ笑みかけるのだった。


サブでこちらを書いていたつもりが気がつけば入れ代わっていますね。まさか、勝手に打ち切っていた小説が復活するとは思いもしませんでしたよ。ああ、以前から雨月の小説を読んでいてあの作品を続けてくれと言ってくださればもしかしたら復活するかもしれません。評価、感想、アドバイス、ダメ出しなどよろしくお願いします。

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