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第二十話:魔王の世話役

第二十話

「人間の中にまれに、周りの人間と比べて非常に能力の高いものが生まれるように、吸血鬼の中にもたまにそういったものが生まれることがあります」

 そんな感じで睦月は話を始めるのだった。

「ま、わたくしの場合それは逆でして本当に残念なことに人よりちょっと身体能力の高い吸血鬼という最悪な形です。その気になれば人間など人差し指で好きなように出来るのが吸血鬼なんですけどね、いわば落ちこぼれです」

「落ちこぼれ………」

 なんだか、白銀が嬉しそうに睦月のことを見ていた。何故だろう、こいつはもしかして自分と同じとでも思っていたのだろうか。

「努力で超えられる壁ではありませんでしたし、人の血を欲する吸血鬼としてはこれまた実に不便なもので一族はわたくしを捨てました」

「捨てた………」

 俺はつい、口に漏らしていた。結構きつい言葉だったのだが睦月自身は何とも思っていないのか冷めているわけでもなく、ただ淡々と言葉を口から吐き出す。

「ええ、そうです。あの時はごたごたがあっていましてね。ま、捨てられたといっても捨て駒扱いです。一人がやられている間にその他は逃げ延びるという一種の戦略です。結果から言うならばわたくしは世間を騒がしていた猟奇事件の犯人として吸血鬼を討伐しに来た輩にさしだされたようなものです………たぶん、あのままだったら確実に血祭りにされていたでしょうね。実際、危ないところまでリンチを受けましたから」

 恐怖がよみがえったのかぶるりと震えていた。外の雨はやんでいるようで、音が聞こえない。黒金さんはどうでもよさそうな顔で、白銀は口を押さえながら彼女の話を聞いている。

「血も飲んでいない状態でしたから最悪でしたよ。動けず滅多打ち………生命力は結構ありましたから数十分はしのいでいましたがそれ以降は段々と目の前が暗くなって行きましたよ。ああ、ここで死ぬんだなと実感、というよりもこの世の摂理として死を受けとろうとしていたのかもしれません」

 懐かしげに、そしてどこか遠くを見る目をしていた。

「気が付いたらわたくしに対する暴行は止まっていました。不思議に思って顔を上げますとそこには一人の老婆と一人の子供が………」

「ともかく、蒼疾がお前の命を救った、そうなんだろう」

 黒金さんはため息をついてそう言った。どうでもいい、お前の話は聞きたくもないというオーラが体からにじみ出ていた。

「ええ、まぁ、そんなところです」

 そして、睦月のほうは話の腰を折られたというのに別段気にしている様子でもない。

「え、ええっ。今いい所なのにっ。黒金さん、あなたって人は………たぶん、KYってやつですよっ」

 しかし、これまた意外なことにその折れた話の腰を戻そうとしている奴が一人いて、黒金さんに対して意見をしている。まったく、恐れ多い奴だな、白銀よ。

「要点だけ話せ、無駄に長い話を聞いてやるほどわたしは暇じゃない」

 ともすれば、意外と白銀のことを考えて譲歩してくれたようだった。この悪魔さんは本当に悪魔なのかと時たま考えさせられる。

「そうですね、若様はわたくしを見て泣かれたのです。それで周りから通報が入って警察がやってきてわたくしは保護される身となった。そして、若様のおばあさまに引き取られたのちに隙を盗んでつい、泊まっておられた若様を襲ってしまったのですよ」

「ふん、所詮はそんなものか。どうせ、お前のような女は蒼疾の寝込みを襲ったのだろう」

「恥ずかしながら」

 本当に恥ずかしがって俺のほうを見ては何度も頭を下げていた。

「あ、あの、血なんておいしいんですか」

「ええ、それはもうっ、最高でしたよ」

 すごくいい笑みで恐ろしい事を口にしている。おい、白銀………俺のことをじっと見ていても絶対に血を飲ませたりはしないぞっ。

「こんなにうまい血があるのかっ………わたくしは感動で胸がいっぱいでした。しかし、若様の魔力がわたくしの身体に流れ込んだことに気がついたとき、急に体が苦しみ始めたのです」

「え、どんなふうにですかっ」

 テーブルの真ん中にまで身体を乗り出して話を聞いている。そんなに食いつくところなのだろうかと思いつつ、俺はちゃんと席に座るよう白銀に注意するのだった。

「内臓が自分のものではないように感じるのですよ。暴れ、身体が段々と苦しくなっていき血が体中から噴き出したのです」

「蒼疾自身にかけられた誰かの呪いか」

「ええ、シンシア様がその呪いをかけていたんですよ。蒼疾様の布団を血で汚しながらのたうちまわっていたわたくしですが、気がつけば近くにシンシア様がいたのです。てっきり、馬鹿な吸血鬼の末路を見に来ただけかと思ったのですが違いました。わたくしにシンシア様が契約を持ちかけてきたのです」

 ぴくりと黒金さんの眉が動いた。何か思い当たる節でもあるのだろうか。

「すべてを若様に捧げるのならば命は助かる、シンシア様はそう言ったのです。ですからわたくしは………」

「白銀、もういいだろう」

 どうでもよさげに黒金さんはそういうのだった。

「睦月といったな、これからよろしく頼む」

「ええ、よろしくお願いします」

 珍しい事に黒金さんはそういったのだった。俺と黒金は理解が出来ないため、二人して見合ったがやはりわからないものはわからなかった。

「皆様に言っておきますが若様の魔力はいったん、消滅していたはずなのです。それがまた、天使や悪魔を召喚したことによってなのかはわかりませんが徐々に力を取り戻してきています。絶対に人外の者たちに知られないように気を付けてください」

 睦月はそういったのだが、黒金さんと白銀は黙りこんでお互いの顔を見ていた。

「あれ、二人ともどうかしたのか」

「まぁ、なんだ。誰しも失敗というやつはあるからな」

「そ、そうですよね。今後は気をつけますのでよろしくお願いします、近藤さん」

「なぁ、そんなことより俺の魔力がどうのこうのってどういう意味だよ」

「ですから、若様は魔王になる権利が、いや、魔王になる義務があるお方だということです」

「はぁ、魔王ねぇ」

 魔王といえば俺の頭に入ってくるのは小太りのおばさんである。見た目がああいった一般人のために魔王よりもチェーンソーを振り回す狂人のほうが怖いのだが。

「人外の者に知られてしまった場合、若様は幾度となく面倒事に巻き込まれてしまうでしょう」

「襲撃されたりするのか」

「それも面倒事の一つですね」

 まぁ、それならいつもされているし。なれてはないが、覚悟はできるかもしれない。

「他に面倒事ってどういったことなんですか」

 手を挙げて白銀が質問する。

「他の面倒事は蒼疾の魔力管理。つまるところは世界を構築して魔力をある程度消費しなくてはいけない」

 答えたのは黒金さんで白銀はうんうんとうなずいていた。

「もし、世界を構築しなかったらどうなるんですか。もしかして、蒼疾さんは風船のように膨れて破裂するとかですかね」

 何さらりと怖いことを答えてくれてるんだよっ。そう思ったがもしかして本当かもしれないと思って黒金さんのほうを見る。

「蒼疾から放たれた魔力は世界を良くない方向へと誘導するからな。神に目をつけられてひとさしで、そこまでだ」

 ただただ、端的にそう語る黒金さんの表情はどこか冷たいものがあった。


気が付いてみれば二十話目。ああ、続けようと思えば続くんだな、そう考える今日この頃です。

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