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第十八話:蔵の中の忘れ”者”

第十八話

 あれから急いで黒金さんたちを追ったのだが、古びてきしむ廊下に姿はなかった。外は土砂降り、外に出たはずなんてないと思いつつも、主だった部屋は探した。どこに行ったのだろうかと考えていると蔵のほうから音が聞こえてきたのでそこにいるのだろう、そう思って俺は蔵の前までやってきた。

 雨は躊躇なく俺を濡らし、汚す。暗くなると近寄りがたい雰囲気を出すために近所の子どもは夜、絶対にこの家に近寄ることはない。最近、よく小学生をここらで見るが彼らの目的は白銀と遊ぶことであって、この蔵ではない。

「………」

 昔はお化け屋敷、今では黒金さん、白銀を召喚するきっかけとなった古い蔵。音などしないし、開けられた形跡もない。しかし、一応確認はしておいたほうがいいだろう。

 鉄製の重い引き戸を引いて、中に入って電気をつける。当然、この蔵の中にいても外界の雨音は聞こえてくるが、どこかとおい事のようにしか聞こえない。

 いつもと違って薄暗く、じめじめとしていて夜の森を一人で歩くそれと同じ感覚を俺に味あわせる。唇をなめ、喉の調子を確認して俺は息を吸った。

「く、黒金さーん、白銀―っ」

 叫んでみたが、反応はない。やはりここじゃなかったと思いながら出ようとすると隅のほうから何か音が聞こえてきた。

「ん」

音のしてきたほう、最初はどこからははっきりとはわからない。だが、時間をたつごとに正確な位置がわかって行き、それに伴って近づいていくと、棺桶の上に本棚が倒れているという奇怪な光景だった。

これまでこんなところに棺桶があっただろうかと誰かに問われるならば俺は答えを濁す。なぜなら、この蔵に入ったのはこれで確か四回目。一回目は二階のほうへとすぐに行ったし、二回目は白銀と話しながら入った。三回目は黒金さんが入っただけで俺は入り口付近にいたから音には気が付けなかったはずだ。

 棺桶のほうをもう一度しっかり確認する。それはとても高価そうとは言えない代物で、まるで子供が作ったかのような不細工なものだった。安い黒の絵の具で色をつけたような染料のためなのかわからないが、色ムラが激しい。不細工な造形品はガタガタと震えているのだ。一生懸命出ようとしているようだが、倒れている本棚はびくともしない。

「…………」

 黒金さんたちのお友達だろうかと思いつつも、一応、本棚をどけることにした。あの二人がいてくれれば簡単にどかすことができ、さらには万全を期して子のパンドラの箱の中身とご対面することが出来るだろうが今は二人ともその姿をくらましている。人間って非力なんだなと改めて思わされたのだが、なんとかどかすことには成功した。

 しかし、今度は棺桶のほうが動かなくなった。どうしたものだろうかと思って棺桶に近づくと声がしてくる。

『あの、もしかして若様ですか』

「は」

 若様………それが形になって入ってくる前、俺の脳みそは誤変換を起こして『若奥様ですか』と捉えていた。

『おお、やはりわたくしを助けてくださったのは若様なのですね』

 棺桶のふたが徐々にスライドされていく。そして、俺より身長の高い女性が俺の前へと執事服姿で現れた。

「正確に言うとはじめましてではありませんが、改めて自己紹介をさせていただきます。わたくしの名前は近藤睦月、魔王の素質を持った神埼蒼疾様の執事でございます」

 慇懃に礼をした近藤睦月という女性を俺は凝視して首をかしげた。

「へ、魔王………」

「ええ、そうですよ」

 にこりとほほ笑む近藤と名乗った執事服の女性。静かに棺桶の外に出てもう一度俺のほうへ頭を下げた。

「これから一生、お供させていただきますのでどうぞ、わたくしの名前を心にとどめておいてください」



――――――――



「おかしいとは前々から思っていたんだ」

 黒金はため息をつきながら白銀のほうを見る。場所は屋根裏部屋、黒金が発見して自分の部屋として使っていた場所だった。きっと、この家の以前の持ち主である蒼疾の祖母が作ったのだろう。

「お前は確かに低級天使だが、今の実力は上級天使並み。召喚した蒼疾の魔力を吸ってそこまで強くなれた。だから、死神を倒すことが出来たと言っていい」

 基本的に死神は天使を狩ることはできず、その逆も同じことだ。しかし、死神の暴挙を抑えるの天使の仕事のため、天使の魔力が死神のそれより高ければ必然的に従わせることが可能になる。

「そ、そうですよねぇ。よくよく考えてみればこんな可愛い私が死神を抑えることなんてできませんよねぇ」

 可愛いという言葉を無視して黒金は話を続ける。

「蔵の中の本はすべてではないが魔界や天界に関係する本、そして蒼疾の祖母とやらが書き記した鍵付きの書物………あれは蒼疾しか読めないやつだな。たぶん、天使を使役する本、悪魔を使役する本などは蒼疾を守るためにあったんだろう」

 何の変哲もない鍵付きのガラス戸。黒金は壊そうとしたのだがそれらは壊れるどころか震えることさえなかった。ガラスに付着した埃も一切落ちていないところをみるとかなり堅固な壁だった。

「じゃあ、やっぱり私たちは蒼疾さんを守らないといけないんですか」

「そうだろうなぁ。しかしまぁ、変な話だが………この私にラヴ・アーチャーを効かせるのだから素晴らしい魔力だな。大体、相手より魔力が強くないとラヴ・アーチャーは効かないからな」

「わ、私って魔王のお嫁さんになれるんでしょうか………」

 白銀がそういうと黒金が不機嫌そうに睨みつける。

「ふん、お前みたいな天使が魔王の嫁なんかになれるわけがないだろう。白銀、大体蒼疾が魔王になるとは限らない」

「そ、そうですよね」

 そんな話をしていた二人だったが、何かを感じ取ったのか家の蔵のほうへと視線を向ける。

「………まさか、まだあの蔵の中には厄介な奴がいたのか」

 蔵に入ったときに一切の気配感じられなかった………いや、他の存在と干渉することなくもしかしたら異世界に隔離されていたのかもしれない。そう考えながら黒金はため息をつくのだった。

「吸血………鬼か」

「あ、あの、私………吸血鬼って初めて見ます」

 白銀、黒金は急いで蔵のほうへと走って向かうのだった。


さてさて、これから一体どうなるものか。漠然と頭の中では考えていますが実際にそれを他人と共用するために文字にするものなのですがこれまた難しい行為です。言い換えれば自分の妄想を現実にするって感じですから。自分の思いを他人に伝える、それも似たようなものです。後はどうやってうまく表現するか………自分の力を試してみたいのなら漫画を小説にして読み直してみることです………とは誰かが言っていたこと、誰が言ってくれたのかは今では思い出すことすらできませんね。

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