第十四話:真っ赤な部屋と犬、死神
第十四話
玄関から通じる廊下は魔王と勇者の死闘が行われている。通りたいならば別の道から行かなくてはいけない。奥のほうに見える階段も当然、別の道から行かなくてはいけないということになる。
玄関右手の廊下を歩くと、徐々に奥に行くほど不思議なお札やら甲骨文字のようなものが刻まれている。
「うわぁ、わっかりやすいなぁ」
この廊下の奥に何があるのか大体、想像できた。
はたして、俺たちの行きついた先には『日和の部屋』と言わんばかりのお札が扉に一部の隙もなく張られているのだった。何を考えているのかは知らないし、知ろうとも思わないが、右手側には宇宙人のグレイ型の人形、反対側には日本人形が鎮座、扉の真ん中には藁人形が天地逆さまに張り付けられていたりする。
「あの、怖くて入れないんですけど」
「おお、まさしくこれは全宇宙人に向けての地球アピールっ」
一人、電波を受信してしまった天使様がそういえば、後ろにおられたなぁ。
白銀は意気揚々と扉を開けたのだった。
「ひっ」
俺の口から勝手に悲鳴が零れ落ちた。
部屋の中はこれまた恐ろしい………というよりも、めちゃくちゃだった。いや、藁人形があるとか、呪いの本が部屋に散らばっているなどではなく部屋は一面真っ赤。椅子も、ベッドも、机も本棚の本もすべて真っ赤なのだ。他の色が存在していることはなく、これほど掃除されている部屋も珍しい。
「蒼疾、電気をつけてみろ」
「はい」
黒金さんに言われて部屋の電気をつけるとこれまた真っ赤なのだ。熱血野郎の部屋でもここまで燃えている部屋はないだろうな。
「ああ、やはり深紅は辛苦とつながっていて美しい部屋です………」
うっとりと部屋や椅子、ベッドに次々と触っていく白銀。この部屋に唯一生える白色の服だったが、それらも今では赤いライトに照らされて真っ赤に染まっている。
「なんだか目がちかちかする部屋だな」
「ええ、こんなところに十分でもいたら吐き気をもよおしそうですよ」
「その前にさっさと解呪に関係する何かを見つけないといけないな」
早速本棚のほうへと歩を進めようとしたが、俺たちの前に白銀が立ちはだかる。
「なんだ、どうした」
「待ってください、この部屋は非常に神聖かつ、他人が土足で立ち入っていい場所ではありません」
「はぁ、お前何言ってるんだよ」
電波的なことを言っているために俺には理解ができない。
「天界ではオペレーターをやっていたため、あまり戦闘は得意ではありませんが………私の警告を無視してなお、この部屋を荒らそうというのならば許しません」
白銀の右手には光が集結されていく。それは見る者の心をすっきりとさせるような光だったが、黒金さんは不機嫌そうな表情へと変わっていった。
「ちっ、まさか電波天使がここでしゃしゃり出てくるとは思わなかったな」
黒金さんはいらいらとした調子で白銀のことをにらみつけるがまったく通用していないようだった。
「まったく、普段はぐうたらしているくせして変なところで出しゃばるから面倒な奴だ」
「そうですね」
「しかしまぁ、わたしがまいた種だ。眼が出る前に摘み取らせてもらおう」
長髪を風に遊ばせ、黒金さんは宙に浮く。右手をふるうとそこには短いが彼女にあった長さの剣が現れる。
「蒼疾、わたしが白銀を昇天させる前に結論を出すんだな。手加減なんてしないから十分なんて長い時間、お前にくれてやることはできないぞ」
「わかりました」
きっと、黒金さんは冗談なんて言わない人だろう。その目は死神が俺を襲ってきたときと同じように冷たく、獲物を狙う瞳だった。そして、もう一人の白銀のほうは目の焦点が合っていない。この謎空間でさらに悪い電波を受信してしまったようです。
「はいぃ、はははは、大宇宙さまばんざーいっ」
もはや、白銀であって白銀でない。ああ、俺の知っている白銀は遠い宇宙に連れさらわれてしまったようだ。洗脳プレイというやつなんだろうか。
本棚へと向かう途中、誰かに肩を叩かれる。日和、そしてその母親ではないだろう。まだ廊下のほうから声が聞こえてくる。
「ここで何してるのかしら」
「って、死神っ」
白いワンピース、青白い肌、そして首にぶら下がっている危険なにおいがプンプンする茶色いロープ………鎌を持つと狂暴な化け物へと変身する魅惑の女性がそこにいたのだ。
「鎌は持ってませんよね」
「ええ、あの天使に取り上げられたままだからずっと死のうと頑張っていたのよ」
さわやかに笑われてしまったが死ぬなんて物騒なことを言われたためにどきっとした。
「あの、死ぬとか軽々しく口に出さないで下さいよ」
「あら、確かにそうねぇ。物騒ね。じゃあ、逝こうと思ったんだけどなかなか逝けなくてね。一旦、家に帰ってきたの」
そういってにこっと笑う。
「え、ここ貴女の家だったんですか」
「ん~、まぁ、下宿先なんだけどね。魔王様が許可してくださったのよ」
まぁ、魔王と死神ってなんとなくつながってそうだしなぁ。
「ところでここって日和ちゃんの部屋でしょう。なんで勝手に入っているのかしら」
「実は、藁人形の呪いを解く為にここにいるんですよ」
「へぇ、そうなんだ」
かなり他人事みたいに軽くつぶやかれた。どうでもいい、そんなことより一緒に屋上から飛ばないかと目が俺を誘っている。
「あ、そういえばこれ忘れ物」
「え」
死神から手渡された禍々しいオーラを纏う藁人形。前より湿っており、右腕などが欠損していた。
「あの、なんでわざわざ俺に渡してくれたんですか」
「死神ってね、何かその人に関係するものがあればその人物にたどりつくことが出来るのよ。忘れ物は届けてあげなきゃ」
「へぇ、なんだか犬みたいです………ね」
言った後にしまったと思った。俺の人生、終わってもうたと誰かが俺の耳元で囁いた気がした。
「うふ、お姉さんを捕まえて犬みたいだなんて意外と特殊なプレイを毎日妄想しているのね」
「え、ええっ」
首元のロープを俺に無理やり持たせて死神はこういった。
「わんっ」
「………」
「なぁんてね、ま、もしも私が鎌を持っている状態でさっきみたいなことを言ったらどうなるか………わかるわよね」
「今後、そういった発言がないように努力します」
「よろしい、じゃあ私は自分の部屋に行くから」
くっ、危なかった………容姿だけ見ると俺のストライクゾーンにどんぴしゃだからな……本当、怖いお姉さんだ。
「蒼疾、鼻の下が伸びているぞ」
「え」
気がつけば俺の隣には白銀をさっさとノックアウトした黒金さんが立っていた。白銀は動こうともせずに悶絶しており、違う意味で天国を見ているのかもしれない。
「わたしでは不満か」
「い、いえ、そういうわけじゃありませんよ。すっごく魅力的です、はい」
「ふん、そうか」
怒っているようだ、もう、すっごく怖い。黒いオーラがにじみ出ているし、白銀は助けに来てくれる以前にやられている。
「あ、あの、これ藁人形です」
「そんなものはわかっているっ」
そういって自分と同じぐらいの藁人形を憎々しげに宙に浮かべ、剣で突き刺す。すると、五寸釘もろとも霧消し、俺は真っ赤な部屋の天井をぼけっとみていた。
「帰るぞ」
「え、あ、はい」
白銀を担ぎ、俺は真っ赤な部屋を後にして、家に帰るのだった。
まぁ、サルベージして気が付いてみれば十四話目。最初、この小説をお気に入り登録してくれた方の名前はさっぱりわかりませんがここでお礼を申し上げておこうと思います。ありがとうございます。え~では、これからも気が付いたら更新していたというまるで影のような小説になれるように一層努力していきますのでああ、これ以上おかしな小説はついていけないなと思った時は遠慮なく読むのをやめていってくださいね。