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第十三話:魔王城への道のり

第十三話

 より激しく木刀をぶんぶん唸らせる勇者。

「せいっ、せいっ」

 気のせいだろうか………剣に風がまとっているように見えて家の庭にある木に傷が………入っているように見えた。

「今、着地地点を作っていますから。ええ、感度良好、着陸にはいいお天気ですよ」

 そして、電波天使となってしまった白銀は家から醤油を持ってくるとそれで円を作っていた。

 そんな最中、黒金さんは静かに目を閉じて何かしら考えているようで俺はこの不思議な空間から早く逃げ出したかった。

 黒金さんはぽんと手を打った。

「よくよく考えてみればこの女の部屋に忍び込むのを忘れていたな」

「え、どういうことですか」

「女の部屋にもしかしたら解呪の方法があるかもしれないだろう」

「ああ、なるほどっ」

「どういった形式で行われたのかも知っておかねばならない。不本意ではあるが、あの魔王城に行かなくてはいけないだろう」

「はぁ、わかりました」

 きっと、世にも恐ろしい体験が俺を待ち構えているのだろうな。勝手に呪われた挙句に呪いを解く方法への道のりが魔王城への道のりと交わるとは想像もしなかった。

「蒼疾、お前はあっちの女を説得して来い。わたしは白銀の説得をするからな。仲間が多いに越したことがない」

「了解しました」

 知っているほうが説得しやすいかなと思ったのだが、地面に煮干しを埋め込んでいる時点でああ、もう、俺の知っている白銀ではないのだなとがっかりを覚えた。よって、魔王を倒すという使命感に燃えている勇者さんのほうがすばやく説得できるだろう。

「勇者様、あちらの妖精さんがいよいよ魔王城に行こうと言ってたぞ」

「なるほど、とうとうあたしの出番かぁ。よし、仕方ない、村人Aも仲間に加えてあげようじゃないか」

 木刀を腰に携えて黒金さんのほうへと走って行った。

「………村人Aって俺のことかよ」

 遊び人よりはマシ………じゃないかもな。いやいや、こういった脇役などもRPGを盛りたてるものなのだし、いい味を出しているのではないだろうか。

「おい、蒼疾」

「はっ、また危なく引き込まれるところだった」

「白銀を連れて行ってくれ」

 そういって指差す先には白銀が倒れていた。

「あの、説得………したんですよね」

「ああ、しっかりと拳で語ってきたから安心してくれ」

 もし、これからの人生で立て籠ったとしても、交渉人として絶対に黒金さんは選びたくないと俺は思ったのだった。

「じゃあ、行きましょうか」

 白銀を背負って俺は黒金さんへと振り返る。

「こら、村人A」

「なんだよ」

「勇者が前を歩くのが普通だよね。君みたいな脇役はあたしの後ろをついてくるものなの。けっして理不尽かつ、無意味な動きをしても仲間はそれに合わせなきゃいけないんだから」

 そういって日和は歩きだすのだった。まぁ、自分の家へと向かっているのだから勇者云々より、そっちのほうが確かに正しいだろうな。

「でも、木刀なんかであの魔王を倒せるんでしょうか」

 黒金さんのほうを見るとどうでもよさそうだった。

「倒せるかどうかはともかく、儀式が予想以上に成功してしまったため勇者としての力を取り戻している。何も装備してなくても魔王と対等に戦えるのはわたしが保障しよう」

 レベルMAXとなった勇者はどんなにへぼい武器でも魔王を倒したりできる。俺は以前やっていたRPGを思い出して震えていた。

「ともかく、あの女の目的が魔王を倒すことだったとしてもわたしたちには関係のないことだ。わたしたちがやることは女の部屋に忍び込んで呪いを解く方法を探すことだからな」

「あ、そうでしたね」

 危うく俺も魔王を倒そうと考えているあの日和に引き込まれるところだった。

「ちなみに言っておくが、お前の能力では魔王にかなうどころか消し炭にされてしまうぞ」

 わかっていることなのだが、なんだか心にぐさっと来るような言葉だった。

「あぁ、蒼疾さん、あそこにプリン異星人のライバルであるペレッペ星人が………」

 気絶しながらも意味のわからないことを口走る白銀。今、彼女は幸せなのだろうか。



―――――――



 魔王城へと向かう道中、おかしな輩は一切おらず………というかどう見ても俺たちのほうがおかしな連中に見えていたことだろう。腰に木刀を携えた女、そしてその後ろには見た目コスプレをした少女を背負っている男がいるのだから。

 おばさん達がひそひそと話すのを見ながら『ああ、ここらにはもう来ること出来ないだろうな』と俺は考えていた。

「さて、ついた。ここに来るまで実に長い長いみちのりだった」

「そうだろうな、周りのおばさんのかわいそうなものを見る目、そして痛いやつらを見る目が正直俺の心を粉々にしてくれたぞ………って、うわぁ、よくもまぁ、こんな違和感バリバリの城が出来たもんだよな」

 なんと言ったらいいのだろう。近づいて気がついたのだが一階部分は和風の日本家屋で二階以降が中世のお城風味だった。しかも、いちばん上のとんがりはアラビアンっぽいもっこりで、近くにはまるでう○このようなとぐろ状態の屋根もある。

 あのおばさんを初めて見たとき普通の人だと思ったのは大いに間違いだった、俺はそう思えて仕方がない。やはり、ゲームの中の魔王たちが普通にいいデザイン指向を持っているだけであって(たとえ、トイレやら魔王の部屋がなかろうと)あんな格好いい城が出来上がるのだろう。しかし、実際はめちゃくちゃなものが出来上がるのだ。

「蒼疾、魔王は勇者であるあの女に任せることにしよう」

「わかりました」

「家の中に入ったらすぐにわかれて魔王を探そうというのだぞ」

 黒金さんからのアドバイスをもらい、玄関を開けて俺は勇者の背中に話しかける。

「なぁ、魔王をてっとり早く見つけるために二手に分かれよう………」

 ぜ、そう言おうとして俺は目の前を凝視した。

「よよよよよ、くくくくく、来たな、勇者、そして仲間たちよ」

 そこにはマッサージチェアのひじ掛けに頬杖をついているあのおばさんがいたのだった。しかも、小刻みに震えている為に顔の肉が震えている。

「そ、そんな、あたしのお母さんが魔王だったなんて」

 がっくりと膝をつく日和。そして、魔王は笑いながら言うのだった。

「ちなみに名前は佐藤MAOです」

「どうでもいい………」

 俺のつぶやきなどMAOさんには聞こえていないようで彼女は立ち上がった。

「さて、愚かな勇者とその仲間たちよ………私の仲間になるというのならば私の経営している会社の株券を半分やろう。」

 うわぁ、なんだかリアルで怪しい匂いぷんぷんの申し出だった。

「わかった、お母さん。愚かなる勇者の仲間よ、お前らは付いてくるな」

「勇者様が早速的側に寝返ったっ」

「はっは、勇者よ、残念ながらその会社の株券はすでに紙切れ同然だ」

「何っ」

「おい、蒼疾」

「なんですか」

「馬鹿をやっていないで部屋を探すぞ」

「あ、すみません」

 馬鹿をやっている母と娘を無視して俺と黒金さん、そして気絶している白銀は日和の部屋を探すことにしたのだった。


ああ、なぜかわからないけど魔王城へとやってきてしまった。しかし、やってきたのなら普通の魔王城も面白くないだろう。結果、ひどく安定感のないカオスな城が出来上がったというわけなのですよ。面白い、面白くないは関係ありません。作者の気合が続く限りこの小説も続きます。もしかしたら、途中で失速、消息を絶って黒歴史となる可能性もありますけどね。

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