第十二話:電波天使と電波な勇者
第十二話
「あの、これは一体何の真似なんでしょう」
日曜日は基本的に高校は休みだ。そういうわけで、呪いの期日も明後日に控えた今日、黒金さんは儀式を決行したのである。儀式執行者の黒金さんはチェーンソー女を連れてくるため、今ここにはいない。
「いや、黒金さんがやれって言ったんだ」
家の広い庭に白銀を置いてそう言ってみた。まぁ、嘘は付いていない。
「そんな嘘ばっかり。もしかして私を縄で縛って遊ぼうって魂胆じゃないんですか」
「違うぞ、お前にはこれからこの電波女の電波を引き継いでもらうからな」
黒金さんが連れてきたのはあの電波女。こちらもこれまた身動きできないようにぎちぎちに鎖で縛られており、おまけに口にはしっかりとガムテープが施されていた。足と手にはそれぞれ蠢くような触手のようなもので縛られており、絶対に触りたくなかった。
「これまた偉く化粧させて連れてきましたね」
「ああ、イベントはしっかりと化粧させてやらないといけないだろうからな。白銀、お前もわたしが化粧をしてやったほうがよかったか」
「い、いえ、こっちの縄で十分です。蒼疾さん、ありがとうございます」
隣に乱暴に転がされたチェーンソー女を見ながら白銀はそういうのだった。
「蒼疾、お前に危害が及ぶとわたしとしては心苦しい。悪いことは言わないからこの場所が見えないところに避難しているといい」
「わかりました」
「あ、ちょ、ちょっとっ。私も連れて行ってくださいっ」
「それは無理な注文だな、白銀。なぜならお前はここでわたしの儀式の材料となるのだから」
うわ、悪魔だ。俺はそうつぶやこうと思ったのだが命が惜しかったのでさっさと家の反対側へと逃げ出したのであった。
―――――――
「よし、蒼疾戻ってきていいぞ」
そんな声が聞こえてくる間、俺はずっとアリの巣を探して遊んでいた。意外とこれが楽しいなと思いだしたころに呼ばれたので少しだけ悲しかったがアリの巣に棒を突っ込んでやった。きっと、アリたちの歴史にも新たな一ページが刻まれたことだろう。
「えっと、結果はどうなりましたか」
「喜べ、想像以上に良くなったぞ」
黒金さんが指差す先には黒金、そしてチェーンソー女が立っていた。片方は木刀をぶんぶん素振りしており、もう一人は何やら鉄の棒を青空へと向けている。
「まぁ、見た目は変わってますね」
「ああ、効果てきめんだ」
話していると俺のことに気がついたようで俺の前へとやってくる。
「そういえばまだ自己紹介がまだだったわね。って、なんで逃げようとしているの」
「い、いや、これは条件反射というやつだな」
「まぁ、いいわ。神崎君、あたしの名前は佐藤日和っていうの。ひよりって呼んでね。将来の夢は勇者で、今のあたしなら他人の家に勝手に押し入ってタンスを勝手に開けたりつぼの中をのぞいて薬草を借りることぐらい造作もないことだわ。これからよろしくね」
「あ、ああ。よろしくな」
俺は黒金さんを手招きする。
「どうだ、普通になっただろう」
「いや、まぁ、確かにそうですけど残念ながら俺の普通と黒金さんの普通が違うものだということは理解ができました」
やっぱり、人間と悪魔じゃ意思の疎通が不通なんですね、黒金さん。
魔王を倒すためにはレベルアップしなきゃと言い出した日和を無視して今度は白銀のほうへと視線を移す。
「ああ、ああ、素晴らしいぐらいに感じます。これが、これが大宇宙の意思………わかってます、私はしっかりと世界を守っています」
誰と話しているのか知らないが、頭にひと房のアホ毛が出来ていた。その髪の毛を押さえつけると振り払われる。
「ちょっと、蒼疾さんっ。今コンタクトをしている途中なんですから邪魔をしないでくださいっ。プリン異星人と意思疎通がとれないじゃないですか」
脳内に勝手に作りだされたプリン異星人とやらはどんな姿をしているのだろうか。ちょっとばかり想像してみたがまるでガキが考えるようなことしか浮かんでこないのだろうな。
「あのアホ毛、切ろうかな。まぁ、あれはあれでかわいらしいから残しておいてやるか」
「そうか、それならわたしが代わりに切ろう」
そういってどこからか剣を取り出して一閃。
「ああああっ。私のアンテナがっ」
「それ、アンテナだったんだ」
「ちょっと、黒金さんっ、何をするんですかっ」
「白銀、お前が蒼疾から可愛いと言ってもらえると簡単に思うな」
まぁ、これまたとてもおとめチックな考えですねぇ。さて、そんなことよりこれは遊びでしているわけではないのだから黒金さんにも不通に戻ってもらわねばなるまい。最近、不可思議現象に出会っている為にどうも一般人としての考え方から俺も相当ずれていってしまっているようだな。
「ああっ、それは勇者が手にするエクスカリヴァーっ。貴女はもしかして歴代の勇者なのではありませんか」
「む、なんだ、寄るな、女」
「いえ、きっとこの方はあたしを魔王城へといざなってくれる妖精さんに違いないっ。それに、白魔導士と遊び人もパーティーにいることだし、これならあの魔王城へ行くことができるっ」
白魔導士はまぁ、白銀として遊び人って俺のことかよっ。俺、遊び人に見えるだろうか。
「せめて賢者にしてくれ」
「蒼疾、女に引き込まれつつあるぞ」
「…………あの、ところで黒金さん」
「なんだ」
地面にひざをついて泣いている白銀の頭から降りてこちらへとやってくる。
「これからどうするんですか」
「そうだな、手段としては二つある。女に藁人形を探してもらってわたしが消し去るか、女に呪いを解いてもらうかの二つだな。まぁ、考えればもっと出てきそうなものだが呪いが施行されたところで蒼疾がカエルになるぐらいだ」
「ああ、なぁんだ、その程度なんですか。よかったよかった」
「そうだな、お前がカエルになった場合はしっかり材料にしてやるから安心してくれ」
「それなら安心ですね、あはははは………って全然安心じゃありませんし、大事ですよっ」
「そうかぁ、お前ならいい材料になれるとわたしは思うんだけど………な」
そんなに恥ずかしそうに言われたところで俺の考えは変わらない。
「手っ取り早い方法はそこの日和とかいった電波勇者に助けてもらいます。おーい、えっと、佐藤日和さーん」
「………」
無反応。何故だろうと考えた末に俺は手を打った。
「おーい、勇者様―っ」
「何、今あたしを呼んだかな」
目をキラキラさせながら寄ってきた。うわ、この人、電波がなくなろうと痛い人には変わりないな。
「勇者様、先日俺を呪ったよな」
「まぁ、確かに呪ったような……それがどうかしたの」
「そりゃするさ。お願いだから呪いを解いてくれ」
「あ、それは無理。自称死神って人に譲渡しちゃったから」
「………」
あれ、もしかしてやっぱり手渡された人形がそうだったのだろうか。
「まぁ、どの道あれの解き方なんて今のあたしじゃできない。他の人の命を犠牲にしてまで君を助けるなんて………」
そういってよよよと泣き崩れていた。くっ、まさかかけた本人が泣き崩れるとは思わなかったな。
「ま、ともかくもう一度人形を探したほうがよさそうだな。安心しろ、人形さえ見つけることが出来れば………ん、なんだあの城は」
黒金さんの視線の先にはまがまがしい紫色のオーラをまとった城が見えていた。俺の家は結構山のほうにあるために庭から町のほうが見えるのだ。とある家だけがかなりの存在感を持っており、西洋の城が脳内へと無理やり入ってくる感覚を覚える。
「あれはあたしの家っ。なんで、なんであたしの家が魔王の城になっているの」
「…………」
あ、ああ。あんたの家ということはあのおばさんがいるということだな。
ああ、進みたくてもなかなか進めない。勝手に適当に書いて話を短くするのも手ですが、だらだらと続けるのも好きなものでもう、なかなか、ね、進みませんがな。まぁ、別に無理して進む必要なんてないのはわかっていますとも。編集者もいなければ文句を言われることもありませんからね。