表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

見覚えのないアプリ

作者: 耀輝 成

 僕のスマホに見覚えのない謎のアプリがインストールされていた。それは黒一色のアイコンで写真編集アプリと記載されている。


 そのアプリは何故か削除することが出来ず、不思議なことにアプリストアで検索してみても同一のものが見つからないのである。


 自分のスマホが何かウイルスにでも感染したのかと一瞬は心配になった僕だったが、実際に使用してみたところ、かなり高性能なものだったので、何か異変が起こるまでは使うことにした。


 気になる性能の話をすると、編集したい画像に映っている何かをタップ選択し、削除ボタンを押すと、それが画像の中から消えるという単純なものだ。


 一見、そんな高性能な代物には見えないが、従来のアプリだと、タップ選択の際に要らないところまで選択範囲に入っていたりするのだが、このアプリはそういうことが一切無く、自分が思った通りの範囲を綺麗に選択してくれるのだ。


 そしてすごいのはここからで、削除した際に普通は画像に切り取り穴が生じてしまうものだが、その穴を自動的に補正し、埋めてくれるのだ。


 それは自分を含めて誰に見せても、最初からそういう画像だったのだと思い込み、編集したことには気づかないほどの出来だと思う。


 しばらくの間、ネットから拾った適当な風景写真を編集し、使用方法の確認をしていた僕だったが、そろそろ出掛けなければいけない時間になったので、軽く身支度をしてから外に出た。


 ✣ ✣ ✣ ✣ ✣


 山の間から差し込む橙色の光に照らされた街は、分厚いコートを来た仕事帰りの人々で賑わっていた。


 そんな街を人々を掻き分け、駅前のショッピングモールへ向けて歩いていると、スマホに友人からメッセージが届いた。それは高卒就職した高校時代の友人からで「暇だから一緒に飲みに行きたいのだけど今どこにいるのか」という旨のメッセージだった。


 僕はカメラアプリを起動し、近くの目立つ建物を撮影した。そして「ここらへん」というメッセージと共に友人に送信した。するとすぐに「そこは遠いから現地集合にしよう」と返信がきた。


 そして「わかった、どこにする?」と返信しようとしたその時、誰かに強く手を掴まれた。あまりに突然のことに僕は小さく声を出して驚いてしまう。


「おい、今こいつのこと撮ったろ?」


 そんなドスの効いた声がする方向に目を向けると、そこには自分と同年代くらいのカップルがいた。一瞬は混乱した僕だったが、さっき写真を撮った時のことだろうと理解し、とりあえず弁解しようとする。


「すいません、写真を撮ったのは確かですが、決してあなたの彼女さんを撮ったわけではありません」


「あ? 嘘つけお前、とりあえずスマホ渡せ」


 スマホを渡したらそのまま奪われるんじゃ、と思った僕だったが、勘違いさせてしまうような行動をした自分にも非があるので、素直に渡すことにした。


「どうぞ、ご確認ください」


「お前、嘘ついてたら覚えとけよ?」


 そう言って、僕の手からスマホを乱暴に取り去った彼氏は、彼女と一緒に画面を見始めた。ほんの十数秒後には険しかった顔が徐々に申し訳なさそうな顔になっていき、勘違いだったと理解したのか、彼氏の方が頭を下げながらスマホを返してきた。


「本当にすいません、完全に早とちりでした。こいつ前に盗撮被害にあってて、そういうことに少し神経質になってまして……」


「本当にごめんなさい。……だから言ったじゃん、絶対違うって、気のせいだって」


「マジでごめんって、だってよ――」


 小声で喧嘩を始めるカップル。そう言って謝られたら、こっちとしては何も言い返すことは出来ない。


「いえいえ、誤解が解けたなら良かったです。少しは写っちゃってると思うので、一応消しときますね」


「そんなもうお気になさらず!」


「いえいえ、すぐ終わりますから」


 過去にそんな出来事があったのなら、少しでも映っていたりしたら不安になってしまうだろう。


 そんな時こそあのアプリだ。そう思い、俺はさっき撮った写真の編集を開始した。写真の右の方に少し映っていたので、そこを選択して削除ボタンを押す。


「よし、これで大丈夫ですよ」


 そう言って顔を上げた僕だったが、そこにカップルの姿は無かった。あまりに一瞬のことに呆気に取られた僕だったが、気まずくなって離れていったのだろうと思い、特に気にしないことにした。


 ✣ ✣ ✣ ✣ ✣

 

 それから歩くこと十数分、僕はショッピングモールに到着した。先日起こった地震のせいで、自分の部屋のテレビが壊れてしまったため、新しいものを購入しなくてはならなかった。


 そして家電製品コーナーへ向かった僕の目に入るのは様々な種類の見本のテレビの数々。その全てに同じニュースが流れていた。驚くべきはその内容だ。


『臨時ニュースです。フランスの首都、パリの象徴であるエッフェル塔が突然消滅しました。にわかには信じられない出来事です。現場の中継に繋ぎます――』


 周囲はかなり騒然としていたが、あまりに現実味がなさすぎるニュースに、僕自身は不思議なこともあるもんだなぁ、くらいの感想しか出てこず、そういえばさっきネットでエッフェル塔見たなぁ、とか思いながら特に気にせず購入するテレビを選び始めた。


 その時、色々あって友人にメッセージの返信をしていなかったことを思い出し、スマホを取り出す。すると友人からは数通のメッセージが届いていた。


 そのほとんどは「既読ついたぞ!」とか「おーい、返信まだかー?」とかのものだったが最後だけ「もう近くまで来てやったぞ、今ここらへん」というメッセージと共に自撮り写真が送られてきていた。


 僕はどこか分からんわ、と思いながら例のアプリでその写真から友人を消し、あとに残った風景で場所の特定をしようとする。しかし上からの構図で撮られていたため、ほとんど地面しか写っていなかった。


 そして仕返しに自撮り写真を撮った僕だったが、こんなものを送ったらネタにされるだけだと思い直し、普通に何か周囲のものを撮ることにした。


 しかし流石にテレビに群がる人が多すぎるため、また自分を撮っただろ、とか言ってくる人が出てくると面倒臭いので、スマホを操作し、さっきの自撮り写真の編集を開始した。自分でも気づかないうちに僕はもうすっかりこのアプリにハマってしまっていた。


 そして写真に大きく映る自分をタップし、僕は意気揚々と削除ボタンを押したのだった――。


――ガコッ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 恐ろしさに気づきもせず消える羽目になった主人公。 [気になる点] アプリの機能は、合成画像や修正加えたような画像、でっち上げられた画像にも効くのかどうか。 [一言] 画面のスクリーンショッ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ