夜会へ
はぁ、憂鬱だ。
何でパーティー何てでなきゃいけないんだ・・・。
こんなことをするよりも、家に引きこもって魔法道具の研究がしたい。
うぅぅ・・・どうやって彼女はあの事を知ったのだろうか・・・。
あれは私が17歳の時、ある仮装舞踏会での事だ。
友人にどうしてもと頼まれ、嫌々参加した仮装舞踏会で、誰かもわからない男と寝てしまった・・・。
あの舞踏会での記憶は、なぜかひどくぼやけており、舞踏会へ参加し、男たちがわらわらと私へと集まると、それが気に食わなかった貴族令嬢に囲まれ、水をかけられたことまでは覚えているのだが・・・その後の記憶がどうしても思い出せないでいた。
そして舞踏会の翌日、ふかふかのベットの上で気が付くと、衣類を一切身にまとっていない私の隣に、知らない男が寝ていた・・・。
あまりの衝撃に顔を真っ青にしながら慌てて逃げ帰ってきたが・・・
私が男と寝ていた事実は消えない。
これが母に知られてしまえば、家を追い出されるだろうな・・・いや、勘当か・・・。
なぜこの事を彼女が知っているのか皆目見当はつかないが・・・知られてしまったからには、大人しく従っておいて正解だろう・・・。
私は深いため息をつき、憂鬱な表情を浮かべていると、意気揚々としたメイドが私のドレスアップをするために部屋へとやってきた。
「久しぶりに腕がなるわ!」
メイドは真っ赤なドレスを手に取り、私へとあわせる。
「やっぱり、お嬢様には赤が似合いますわ!!」
うっとりとした瞳で私を見つめるメイドの姿に呆れた顔を見せると、メイドは気合を入れるように袖をたくし上げ、私の顔に化粧を施していった。
「お嬢様は何もしなくても美しいのですから、薄化粧にしておかないと」
数時間部屋でドレスアップを行う中、私自身はダレダレだった。
はぁ・・・早く終わらないかな。
部屋に引きこもるのは大賛成なんだけど・・・これはな・・・。
うぅ・・・コルセットが苦しい・・・。
苦悶の表情を浮かべ、淡々とメイドの指示に大人しく従っていると・・・ようやく着替えが終了した。
「完璧ですわ!!!」
鏡にはいつものボサボサ頭に真っ黒なローブを羽織った私ではなく、綺麗に着飾った令嬢がそこにいた。
いつもローブの中に適当に縛っていた黒く長い髪をアップにまとめ、胸には宝石が散りばめられたネックレスがつけられていた。
胸元は大きく開き、体のラインの出る真っ赤なドレスを身に着けていた。
顔には薄化粧がされており、唇にはピンク色の口紅が塗られている。
私は鏡を一瞥すると、昔一度使ったシンプルなベネチアマスクを取り出した。
「お嬢様、美しすぎますわ!!これならどんな男性もお嬢様の虜になりますわ!!!」
感嘆の声を上げるメイドを軽くスルーすると、私は招待状を握りしめ、彼女と合流する為、そそくさと部屋を後にした。
外へ続くエントランスの扉を開けると、彼女は屋敷の門の前にすでに佇んでいた。
はやっ・・・、約束の時間まであと30分もあるのに・・・。
「ふふふ、よかった、逃げださないように早めにきていたのよ。まぁ取り越し苦労だったみたいね」
微笑みながらこちらを見据える彼女は、真っ青なドレスを身に着け、これでもかと胸を強調していた。
首元にはキラキラと光る宝石がたくさんついた派手なネックレスを身に着け、仮装用なのだろうか・・・頭には猫の耳の形状した何かがついていた。
「さぁ行きましょう」
私は馬車へ乗り込むと、彼女の前へと腰かけ、夜会へと向かった。
馬車の小窓から空を見上げると、月が高く上り、辺りを明るく照らしていた。
昼間の熱風とは違い、肌に心地よい風を感じた。
「ドレスを着れば、美しいご令嬢じゃない!ほんともったいない!もっと普段でもオシャレに気を配りなさいよ!」
「ありがとう・・・あっ青いドレス良く似合っているな」
小言が収まるように、オシャレに関しては触れず彼女のドレスをほめてみた。
「ふふふ、でしょ。今日は少しおとなしめなデザインにしてみたのよ!狙いは年下の王子なんだから!あまり派手だと逃げちゃうかもしれないでしょ。」
私は正面に座っている彼女の姿を上から下までじっくりと眺めた。
おとなしめ・・・?
体のラインがでる真っ青なドレスには、スパンコールが散りばめられキラキラと輝いていた。
胸元は大きく開き、スカートには深いスリットが入っている。
これが今の貴族のおとなしめなのだろうか・・・。
[おとなしめ]じゃなくなると、どうなるんだろう・・・。
そんな事を考えていると、彼女は前のめりに語り掛けてきた。
「今回の夜会わね、あの第二王子が参加するらしいのよ!もう狙うしかないわよね!」
「はぁ、君、婚約者がいるのにいいのか?」
「えぇ、問題ないわ。あっちもあっちで色々楽しんでいるんだから」
「はぁ、こんな婚約はしたくないなぁ・・・」
「うん、何か言った?」
「いえ・・・何も・・・」
「ふん、まぁいいわ。すぐ帰るじゃないわよ!わかってるわよね?」
「はいはい・・・わかってるよ~」
そんな事を話していると、あっという間に夜会の会場へと到着した。