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生徒と先生

あの夜会の招待状をもらってから数日がたった。

夜会は明日だ、憂鬱すぎる・・・。

深いため息をつきながら、研究室で魔道具を触っていると、いつものようにエリックがやってきた。

エリックは研究室に入ってくると、定位置へ腰かけ問題集を取り出した。


「先生、ここはどうしてこうなるんですか?」


本に書かれた図式を指さしながら、彼は悩ましげな様子で問いかける。


「うーん、ここはね、こっちが優性だから、この氷の鉱石を宝珠に変えて、風の術式に組み合わせるんだ」


エリックは私の言葉にスラスラとペンを走らせていく。

本当に優秀だなぁ、この年でここまで魔道具を理解できている子はそんなにいないだろう。

貴族だろうし、卒業したら王宮の魔導師にでもなるのだろうか。


「ありがとうございます、ところで先生は・・その・・・なにか香水のようなものをつけているのですか?」


「うん?またか・・・いや、つけていないよ」


「また・・・ですか?」


「あぁ、前にも生徒に聞かれたよ。私は変わった臭いがするのだろうか?」


「いえ変わった匂いとか・・・そういうわけではないのですが・・・」


エリックは顔を赤らめながらボソボソと頭を垂れた。

そんなエリックを横目に、作りかけの魔道具を取り出し研究に取りかかると、エリックは慌てたように私のサポートを始めた。



研究が一段落すると、エリックは帰る準備をはじめる。

机に置いていた問題集とノートをカバンへ詰め込むと、私の前へやってきた。


「先生、ありがとうございました。失礼いたします。」


「いやいや、こちらこそありがとう。いつも本当に助かっているよ」


そう微笑みを浮かべると、彼は顔を赤くし、慌てた様子で私から視線を反らせた。

カバンを手に、綺麗な礼をとって研究室を出ていったエリックの後ろ姿を見送ると、私も研究室の中へと足を進めた。


研究室に戻ると、椅子に深く腰掛け、背筋を伸ばした。

うーん、今日はもうなにもないかな。

私は日誌を取りだし今日の出来事を書いていく。

ふぁぁ、眠い。

昨日遅くまで魔道具に触りすぎたからだな・・・。

私は徐に日誌を書いていたペンを置くと、研究室の隅にある来客者用のソファーへと足を向けた。

消灯時間まで時間があるし、ひと眠りしてから日誌を書こう・・・。

そう思いながら、私はソファーへ寝転ぶとスッと寝入った。




ガラガラ、


「先生すみません、忘れ物をしてしまって・・・」


あれ・・・?返事がない。

ふと研究室を見渡すと、ソファーに横になっている先生が目にはいった。

寝ているのか?

俺はそっと足音を立てずソファーへ近づいていくと、寝息をたてる先生をじっと眺めた。

後ろに一つにまとまっていた黒髪が崩れ、頬にかかっている。

乱れた黒髪の近くには、柔らかそうな赤い唇が白い肌に浮かび妖麗に見えた。

そんな先生の寝顔に見惚れていると、口から本音がこぼれていた。


「綺麗だな。」


俺は慌てて口をふさぐと、顔に熱が集まるのがわかった。

くそっ、俺は男の先生を見て何考えてんだ・・・。


もんもんと悩んでいると、ふと教室で話していた同級生の会話が頭を過った。


「おれさ、そんな趣味はねぇが・・・先生ならありかもしれねぇ。」


「わかる、先生ってエロイよな!ローブから見える真っ白な首筋にドキッとする」


「それに先生の傍にいると良い匂いがするんだよなぁ~」


あぁぁぁ!!俺にはそんな趣味はないはずだ!

そう自分に言い聞かせるも、先生が眠ってる姿から目を逸らすことができない。

ローブから覗かせる、真っ白な肌は艶めかしく、吸い寄せられるようだった。


あぁぁぁぁぁ!!ダメだ・・・ダメだ!!!!!

俺は邪な気持ちを投げ捨てると、忘れ物だったペンをカバンへと詰め込み、勢いよく研究室を出て行った。



ガタンッ!


突然の大きな音に目が覚めると、私はゆっくりとソファーから起き上がった。

うん・・・?誰かきたのか?

虚ろな目で研究室を見渡すが、誰の姿も見当たらない。

ふはぁあ、夢かな。

私は大きな欠伸をすると、またソファーへと横たわり、ゆっくり瞼を閉じると深い眠りに落ちていった。



ふと気が付くと、私は見覚えのある庭に立っていた。

あぁ・・・これは夢か。

全然見ていなかったのに・・・あの舞踏会の招待状なんてもらったからか。

呆然と庭に佇んでいると、ベネチアンマスクを着けた私の前に、数人の派手なドレスを着た令嬢達が近づいてきた。


「あなた、いきなりきて調子にのりすぎですわ!男を侍らせてどういうつもりなの!」


「そうですわ!舞踏会のルールを知らないとは言わないですわよね・・・?」


「さっさと一人に決めて会場を出ていきなさいよ!」


激しい権幕でむかってくる令嬢たちを呆然と眺めていると、私を囲うようにジリジリと迫ってきた。


「ふん、そんなに男を侍らわせたいのなら、これでもかぶると良いわ」


中央に立っていった令嬢の一人が蔑むような目で私を見つめると、徐に手に持っていた瓶のふたを開け、私に投げつけた。

私は咄嗟に顔を覆うが、瓶からこぼれた水は私に降りかかる。

令嬢達は下品な笑いを浮かべ、水浸しになった私を嘲笑っていた。


「っっ・・・」


「おいっ、君たち何をしている」


知らない男の声が聞こえたかと思うと、令嬢たちは慌てた様子で逃げていった。

私は令嬢たちがいなくなったことにほっと息をつくと、体の異変に気が付いた。


「ご令嬢・・・大丈夫ですか?」


水がかかった個所が熱く、体が火照ってくるのが分かった。

次第に意識が朦朧としてくると、私は側にあった木に手をつきながら、荒くなる息を落ち着かせようと必死だった。

そんな中、ふと見上げると心配そうな声で私に話かける男性が視界に映った。

顔ははっきりと見えないが・・・ブラウンの髪にエメラルドの瞳の男は私の背中を優しく撫でた。




ハッと目を覚ますと、外は太陽が沈みはじめ、窓から差し込む光が弱くなっていった。

まずい、早く日誌をかかないと・・・。

私は慌ててソファーから飛び起きると、さっき見ていた夢の事を思い出すこともなく、急いで日誌を書き始めた。

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