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学園生活

あれよあれよと気がつけば、教員となって一か月が経過していた。


私の授業は分かりやすいと評判がよく、最初の頃よりも授業の回数は増えていった。

忙しくなる学園生活の中、私を女だと気が付いている生徒もいないようだった。

まぁ名前も中性的だしな、見た目もこんなんだし、しゃべり方も令嬢っぽくないしな。


そんな事を考えながら、学園を歩いていると顔見知りとなった生徒が、親し気に話しかけてきた。


「ねぇ、先生!この魔道具、絶対あってると思うんだけどなんで動かないんだ?」


私は生徒が手にしている魔道具に目を通していくと、


「ここはこの宝珠とこの宝珠の位置が逆だな。」


「おぉ、動いた!先生ありがとう!」


駆け足で去っていく少年の背中を見送ると、また別の生徒が声をかけてきた。


「先生、なんか香水つけてる?いつも良い匂いするよね」


クンクン、臭い・・・?

私は自分の腕に鼻を寄せてみる。

うーん、特に臭いなんてわからないが・・・・。

まぁこんなのは自分でわかるもんじゃないか。


「あっ、俺もそれ思ってた。先生から甘い匂いするよな」


甘い匂いならまぁ良しとするか。

臭いってわけじゃないんだろう・・・。


「香水はつけてないな。ほら、さっさと移動しないと授業が始まるよ」


わらわらと集まってくる生徒を追い払うと、私は自分の教室へと足を進めた。



そんなある日、学園の廊下を歩いていると、校長に声をかけられた。、


「アレックス先生、魔道具を研究されたいのでしたら、学園の研究室を使って頂いて結構ですよ。他の先生たちから、なんでも研究をしたいからと急いで帰るとうかがったもので。」


「えっ!宜しいのですか?」


「えぇ、もちろんですよ」


優しそうな微笑みを浮かべる校長先生が、神のようにみえる。

やったぁ!これでゆっくり研究ができる!!

ここの研究室は様々な道具がそろっているという事は、来た当初にチェック済みだった。

そんな設備が整った研究室を個人的な趣味に使わせてもらえるはずがないと思い、聞くことはしなかったが、まさか使用許可がおりるなんて!!

それになんていっても、うるさい母がいない場所で研究できる事は素晴らしい!


私は校長の手を握り、ありがとうございます!とニッコリ微笑みを浮かべると、校長はなぜか呆けた表情をしたかと思うと、慌てた様子を見せた。



それから私は授業が終わると、すぐに研究室へと引きこもるようになった。

学園の消灯時間ギリギリまで研究をしている中、校長は少し困った様子を見せたが、特に何も言われることがなかったので、気になりながらも私は研究に勤しんでいた。



今日も授業が終わり、早々と研究室へ引きこもっていると、


トントントン


ノックの音が響いた。

うん、誰だ?

私は持っていた宝珠を机に置くと、扉へと足を向ける。

扉を開けると、そこには良く知る生徒の姿があった。


「先生、お休みのところすみません。この図式がわからないので教えて頂けませんか?」


「おぉ、エリックじゃないか。入るか?」


コクリと頷いたエリックを、私は笑顔で迎え入れると、研究室の机へと案内した。

持ってきた問題集を机に開くと、私は一つ一つ彼の質問に答えていった。

一通り説明が終わりひと段落つくと、エリックは机に置いてあった宝珠に視線を向けた。


「先生はここで何かを作ってるんですか?」


「うん、今新しい構図で魔道具を製作中なんだ。」


私は宝珠を手に取ると、微笑みを浮かべた。


「俺も・・・その・・・魔道具作り見ててもいいですか?」


「もちろん、興味がある子は大歓迎だ。」


私は机に向かうと、エリックと並び魔道具作りを始めた。



それから放課後になると、毎日エリックと魔道具作りに励んだ。

彼はとても優秀で、私が作る構図をしっかりと理解していた。


一緒に研究を進めていく中で、次第に彼は優秀な助手として働いてくれるようになっていった。


「ほんとエリックがいて助かってるよ。」


そう口にすると彼は顔を赤くし照れる様子を見せた。

可愛いな、そんな事を考えていると


「あの・・・先生はご結婚されているのですか?」


「結婚?してないな。ついでに婚約者もいないよ。」


「そっそうなのですね・・・」


彼は驚いた様子を見せた。

まぁこの年で結婚も婚約者もいない人は少ないだろう。

貴族ならなおさらだ、跡取りだのなんだの色々な柵が絡み合ってくる。

ふとエリックに視線を向けると、眉間に皺をよせ悩まし気な表情をしていた。


「うん?どうかしたのか?」


「いえ・・私の母が早く婚約者を作れとうるさくて・・・」


「あぁ・・その年ならしょうがないよな。」


私は宝珠と鉱石を棚に戻しながら、自分も母にしつこく言われたなぁと思いを馳せていた。

あれは本当に鬱陶しい・・・、放っておいてほしいところだ。


「私も昔は良く言われていたよ、まぁ聞き流していたけどな。私のところは姉と弟がしっかりしていたからこの年まで野放しにさせてくれていたってのもあるんだ。まぁ・・・貴族であっても、決められた婚約者よりも、自分の好きだと思う人と結婚したいよな?私の姉と弟は好きな人と結ばれて幸せそうだ。」


エリックから少し離れた場所にある棚に、作りかけた魔道具を片づけていると、


「俺も・・・そうなりたいと願っています。」


ぼそりと呟いた彼の言葉は、私の耳には届かなかった。




ある日、帰宅の為と学園のエントランスを出ると、淡い赤い髪をなびかせ、簡素な白のドレスを身に着けた女性が、門の前からこちらに向かって手を振る姿が目に入った。

私は見覚えのあるその姿に露骨に嫌な顔を浮かべると、咄嗟に踵を返し、学園へ戻ろうとするが、彼女は私の肩を急いで捕まえると、親し気に話しかけてきた。

うわ・・・嫌な予感しかしないな・・・


「久しぶりね、もう何なのその格好は!」


「あぁ・・久しぶりだな。どうしたんだ今日は?」


「ふふふっ・・・ねぇ、これ一緒に参加してくれない?」


彼女の手には見覚えのある夜会の招待状が握られていた。

私は眉間に皺をよせ、再度彼女に背を向けようとした瞬間、彼女が耳元でボソッと呟いた。


「ねぇ行くわよね?行かなかったら・・・以前行った舞踏会で知らない男と寝たこと・・・あなたのお母様に言っちゃうわよ」


うそ・・・、どうして知っているんだ!?

私はあまり驚きに、目を大きく見開き固まった。

あれが母にばれれば私はきっと殺される・・・。

驚愕の表情を浮かべながらゆっくり彼女に向き直ると、勝ち誇った顔をしていた。


「はぁ・・・わかった、いくよ。」


「ふふふ、ありがとう。ちゃんとドレスを着てきてね!後、仮装も忘れないように!」


そう言い捨てると、彼女は私に背を向け歩き出した。

去っていく彼女の背中を、疲れた様子で眺めていると、


「当日、迎えにくからね!!!ちゃんと準備しておきなさいよ!」


淑女にあるまじき大声を上げ、馬車の中へと消えていった。


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