初出勤
地獄の一週間をおえ、体力を消耗しきった私に、母は学園までの地図を渡すと屋敷から追い出した。
鬼すぎる・・・。
馬車は使わせてもらえず、母に歩いていきなさい!と怒鳴られると、私はトボトボと学園へ歩いて向かう中、暑い、帰りたいと何度もつぶやいていた。
そして現在私は自分が勤める学園へとやって来た。
服装はもちろん、昨日と同じ格好だ。
ボサボサの髪は後ろで一つに束ね、ボサボサ感は少し押さえてはいるはず・・・。
そしてまた新しく用意された服のまま寝てしまった為、皺皺になってしまった服をこの前と同じローブで隠していた。
朝、怒られるのを覚悟でこの格好で母の前に出ると、いいんじゃないとのお言葉を頂き、そのまま学園へとやってきた。
到着した学園を見上げると、頭が痛くなってくる。
お城のような豪華な風貌をした、大きな学園を目の前に圧倒されながらも、私はため息をついた。
はぁ、ここで今日から教員になるのか・・・。
気が重い、暑いし、家に帰りたい、眠いよ・・・。
私は深いため息をつくと、学園の中へとの渋々足を進めた。
学園に入ると、登校してきた生徒たちに混じりながら、教員が集まる一室へと足を向けた。
「おはようございます」
私は淡々と挨拶をすると、なぜか教員達の視線が一斉に私へと集まった。
うん?なんなんだ?
ブラウンの髪に、端正な顔立ちをした背の高い一人の男がエメラルドの瞳で私をじっと見つめると、
「初めまして、まさか噂の魔道具を作成しているお方がこの学園に来ていただけるとは思っていませんでした。私はウィリアムともうします。」
私は差し出された手を軽く握り返すと、ウィリアムは少し驚いた表情を見せた。
「あなたは・・・」
ジリリリリリ
始業のチャイムが部屋に響き渡った。
教員たちと簡単に挨拶を済ませると、皆各自教室へと移動していく。
先ほど握手を交わしたウィリアムは呆然と私を見つめていることに気が付いたが、私はそれをスルーすると他の教員たちと並んで部屋を後にした。
廊下に出ると、校長から渡された手紙を開き、担当の教室へを確認する。
2-Bか・・・。2階だな。
とりあえず階段が見える方向へと進んでいくと、何人もの生徒達とすれ違った。
なんかすれ違う生徒が男ばかりだな・・・
そんな事を考えていると2-Bの教室の前へと到着した。
騒がしい声がする扉を開けると、そこには30名ほどの男子生徒達がはしゃいでいる姿が目に飛び込んできた。
男、漢、おとこ。
まさか・・・、この学園は男子生徒しかいないのか・・・。
優秀だってことでこの学園の名前を知っていたが、まさか男子学園だったとは・・・。
驚きで扉の前で思考停止していると、ふと自分の恰好を思い出した。
うーん、まぁでも問題ないか。
こんなローブ姿にボサボサヘヤーの私を、女だと気が付く者もいないだろう。
それに女だとばれるな、とも言われていないしな。
私の姿を見て、騒いでいた生徒たちが次第に静かになっていく。
「おはよう、今日から魔道具の授業を担当するアレックスだ。宜しく」
淡々と挨拶すると、私はすぐに授業へと取り掛かった
授業の方法は鬼のような特訓で得た一朝一夕の付け焼刃だ。
教科書を開き今日授業を行うページを確認すると、ホワイトボードへとペンを走らせる。
教員になることになった一週間前に配布されたこの教科書に軽く目を通して思ったんだけど、これわかりにくいよな。
そう考えていた私は、自分がイメージしている魔法図式をホワイトボードに記載していった。
生徒達は教科書とまったく違う図式に困惑し、ざわつき始めていた。
書き終え、生徒達へ目を向けるとざわついていた声が次第に止んでいった。
「えー、教科書の図式は分かりにくいので新しく書かせてもらった。」
生徒達は唖然としながらも、私の図式を目で追っていくうちに何も言わずノートを取り始めた。
教室全体を見渡し、大丈夫そうだなと判断した私は、図式をもとに授業を進めていった。
図式を解説していく中、一人の生徒が徐に手を挙げた。
「先生、その右に書かれている氷の宝珠が炎の宝珠の横に並ぶのはおかしいと思いますが。」
私は手の上げた生徒に視線を向けると、透き通るようなブロンドヘアーに、端正な顔立ちをした、美しい青年が青い瞳でじっと私を見据えてた。
「えーと、君はエリックくんだね。いいところに気が付いた、そう、通常この氷の宝珠と炎の宝珠は相性が悪く引っ付かないが、この同系列にある風の鉱石を組み合わせると、炎の宝珠が本来持つ力が氷の宝珠に作用し、使えるようになる。これは最近開発された冷却箱にも使われている。」
そう解説すると、わかりましたと納得した様子で青年は席についた。
ふぅ、ちゃんと受け答えできてよかった。
引きこもりが長かったからな・・・これが一番不安だったが・・・。
まぁなんとかなるもんだな。
そして授業を進めていくと、
ジリリリリリリ
終わりのチャイムが教室に鳴り響いた。
私は教科書を手にとり、
「今日はここまで」
そう一言話すと、静かに教室を後にした。