春の女王様を目覚めさせる方法
遠い世界の遠い昔の話。
あるところでは、春、夏、秋、冬を司る女王がいました。
女王達は自分の役割の季節には塔に篭って気候の調節を行います。
季節が変わり目に女王様達は引き継ぎを行い、塔
の管理を交代していきます。
そのおかげで、人間達は季節の恩恵を受けて、豊かに生活していました。
もちろん、人間だけではありません。
その他の動物や植物も、四季の変化の恩恵を受けながら生活していました。
そうして、世の中のすべての生物は四人の女王が司る四季を感じて一年を過ごしていました。
しかし、ある時、どういう理由か、冬の女王が塔から出てこなくなり春がやって来なくなりました。
そして、しだいに人間の住む国では雪が降りしきり、寒さで作物が育たず、人々も外に出られなくなり、生活が苦しくなり困ってしまいました。
もちろん人間だけではありません。
動物も冬眠から覚めず、植物も寒さで成長する事が出来ませんでした。
そこで困った人間の国の国王様は家臣を連れて、塔に閉じこもった冬の女王に、なぜ塔から出ないのか聞きに行きました。
「冬の女王よ、なぜあなたはもう春になるのに塔から出て来ないのですか? このままだと人間だけでなく、動物や植物も困ってしまいます」
国王様が塔の外から聞くと、中から冬の女王から返事が返ってきました。
「私だって交代したいわよ! でも、春の女王が眠りから目覚めないの」
そう言って塔の中から、冬の女王様は半分嘆きながら国王様に塔から出ない理由を伝えます。
どうやら、冬の女王は自分の意志ではなく、春の女王が目覚めなくて交代できないから、仕方なく塔に閉じこもっているようです。
その話を聞いた国王様は困ってしまい、何か良い案はないかと国中にお触れ書きを出しました。
『冬の女王を春の女王と交替させた者には好きな褒美を取らせよう。
ただし、冬の女王が次に廻って来られなくなる方法は認めない。
季節を廻らせることを妨げてはならない。
ちなみに冬の女王が春の女王と交代しないのは春の女王が目覚めないからである。
我こそは春の女王を目覚めさせる事が出来ると思う者は立候補してほしい』
そのお触れ書きを見た人々は今までにない前代未聞の問題にとても解決できそうにないと諦める人が多くいました。
しかし、そのお触れ書きを見た者の中から三人の勇者が春の女王を起こすのに立候補しました。
その三人とは孤児院の先生、イケメン王子、寡黙な料理人です。
そして、その三人は国王様に呼び出されました。
三人は国王に呼ばれて王の間で顔を合わします。
そんな中、国王様が口を開きました。
「この度、そなた達はを集めたのはお触れ書きにも書いた通り、春の女王を起こす為である。自信のある者は?」
すると、国王様の言葉を聞いた孤児院の先生は言いました。
「私に朝、起こせなかった子供はいません。必ず起こしてみせましょう!」
孤児院の先生は春の女王を目覚めの悪い子供扱いをしています。
それを聞いたイケメン王子が言い返します。
「いやいや父上、私が目覚めのキスで起こしましょう!」
どうやら、イケメン王子は国に伝わる物語の通り、眠れる女王をキスで起こそうとしたみたいです。
「まぁ! 王子様なのになんてハレンチな!」
それを聞いた孤児院の先生は、顔を赤くして言い返します。
「いや、これは国中に関わる事だから」
「ですが、その発言は!」
ここで、イケメン王子と孤児院の先生は言い合いを始めます。
本来なら国の王子相手にこの発言は許されませんが、父である国王及び臣下達も思うところがあるのか何も言いません。
国王様に至っては父親として王子の性格に嘆いているのか、眉間に手を当て悩んでいます。
「……もういい、二人とも行ってきなさい」
まだ、寡黙な料理人が何も言ってない中、国王様は事態を収拾しようとしたのか、それとも諦めたのか、二人に春の女王のところへ行くように命じます。
「「はい!」」
二人は急ぎ、春の女王の元へ向かいましたが、その結果は……。
「すいません、ダメでした。私の力……いや、母親力不足です」
「父上、僕の魅力はまだまだ足りないみたいです」
二人とも失敗に終わりました。
孤児院の先生は、
「起きなさい! もう朝ですよ、いや、春ですよ!!」
「あと五分、いや、あと一年」
と、家庭にある朝の光景そのままに結局、春の女王の布団をはぐ事が出来ずに、初めての敗北を期しました。
春の女王は百戦錬磨の母親力を上回る力を持っているようです。
一方でイケメン王子はというと、
「はぁい、ハニー! 僕のキスで目覚めよう!」
「……あんたなんか興味ない」
人生初の挫折、そして物凄く短い言葉でノックアウトされました。
でも、それを聞いた国王様と臣下は内心で春の女王に感謝していたのは秘密です。
二人の報告を聞いた国王様は料理人を呼び出しました。
「もはや、そなたしかいない、やってくれるかる」
「御意」
料理人は短い返事を返すと、春の女王の元へ向かいました。
気になった国王様や臣下、失敗したイケメン王子と孤児院の先生も見に行く事にしました。
「…………」
料理人は春の女王の元に着くと無言で料理を作っています。
それを見た他の人は失敗を確信してガッカリしています。
「へい、おまち」
そう言うと料理人は寝ている春の女王の横に作った料理人を出します。
その料理とは焼きたてのパンにスープ、サラダに目玉焼きです。
辺りには焼きたてパンとスープの匂い、そして卵の焼けた香ばしい匂いが広がっています。
春の女王を起こす事に失敗したと思った国王様達ですが、その料理の匂いには感心していました。
すると……、
「ん……んんん!?」
なんと、春の女王が突然起きたではありませんか!
それを見てみんな驚いています。
春の女王はとびおきると、料理人の用意した料理の前に座ります。
「美味しそうな匂い! 食べていい!?」
「……どうぞ」
寡黙な料理人は短い言葉で返します。
「頂きまーー」
「その前に歯磨きを。寝起きの口内には菌がいっぱいです」
しかし、料理を食べようとした春の女王を料理人は手で制し言いました。
料理人がそう言うと、料理を作った料理人の言う事を聞いた春の女王は素直に歯磨きに向かいました。
そうです、寝起きの後の口内には菌がいっぱいなので、起きたらすぐに歯磨きする方が良いのです。
「ちゃんと歯磨いたよ! 食べていい!?」
「……どうぞ、温かいうちにお召し上がりください」
料理人がそう言うと春の女王は礼儀正しく、
「頂きまーす!」
と、言って食べ始めました。
「うんうん、美味しい!」
「あまり一気に食べては喉に詰まります。よく噛んで食べてください」
「はーい!!」
春の女王は料理人の言う事に素直に応じると、ちゃんと良く噛んで、美味しくすべての御飯を食べ終えました。
「御馳走様でした!」
「……お粗末様でした」
「ありがとう! じゃあ冬の女王ちゃんと塔の当番、代わってこよっと!」
「お待ちください、食後も歯磨きを」
美味しい御飯を作ってもらって春の女王は、料理人の言う事を素直に聞いて、歯磨きをした後、冬の女王と塔の番を代わりました。
そうです、ちゃんと食後も歯磨きをしなければいけません。
春の女王も長い眠りから覚めた空腹には勝てず、料理を作ってくれた料理人の言う事には逆らえなかったようです。
また、その光景を見ていた国王様達によって後に『胃袋を掴む者がすべてを制す』という格言が生まれたのは少し後の話です。
こうして、無事に冬の女王と春の女王の交代が済み、国には暖かい春が訪れたとさ。
めでたし、めでたし。
春眠暁を覚えず、冬眠明けは食欲が、朝起きたら歯磨き、食後の歯磨き、胃袋を掴む事は大事、すべて詰め込んでみました!
しかし、童話ってコメディー要素に走っても良かったのでしょうか?
初めてなので、その辺が分からなかったのですが……。