街道にて
港町ラカンを出て、歩きで首都パームを目指す二人。
首都パームまでは徒歩でも一時間もあれば着くくらい近い。
森と森の間を街道が通っているため一本道で迷うこともない。
欠点として挙げられるのが森に入ると治安が一気に悪くなることだ。首都の近くともあって行商人を狙う盗賊も多い。
もちろん国も騎士を配備しているが街道だけで森の中まではカバー出来ていない。
そんな中わざわざ森に入るのは何故か。
密貿易や、狩猟そして研究等などである。
特に密貿易はかなりの頻度であり、交易の港町ラカン出表立って取引できない品物をここで行うことが多い。
密貿易であるため、盗賊に襲われて被害を国に知らせることも難しい。
盗賊はそれを承知で略奪しているし、国もわざわざ密貿易人を守ろうとは思わない。
よって一般人は森に立ち入らず、街道だけ治安が保たれている。
「ってのが俺がさっき商人から聞いた話だ。寄り道せずまっすぐ行こうぜ。」
ダースは肩をすくめながら言った。
「そうなんだ。ありがとうダース。そうだね。厄介事に巻き込まれたくないし…でもちょっとくらい見てみたい気もしない?」
好奇心に取り憑かれてしまったかのよいに目を光らせて言うカイ
「やめろ。そんな目で俺を見るな!そんな無垢な瞳で俺を見るんじゃない!」
「(やばい…カイの変なスイッチが入ってしまった……好奇心のお化けだ……まだ短い付き合いだが、こいつがだんだん分かってきた……)」
「ちょっとだけだから良いでしょ?……ん…?今女の子の声が…」
「おい…カイいくら何でもわかりやすいぜ。その嘘は。全然聞こえないぜ。っておい!待てって!」
凄まじい速さで走るカイ。それでもダースの事を気遣ってか追いつけなくもない速度でどんどん森の中へ入っていく。
(速すぎる…いや…こちらを見ながら走ってるしこれでもだいぶ加減してくれてるのか…ホントに何者なんだ…)
ダースは必死に追いすがりながら疑問が膨らんでいた。盗賊団に居たときは自分が一番速く多少なりとも自信を持っていた。騎士団に追いかけられたこともあったが、逃げ切れた。だが今回は嫌というくらい分かった。自分速い方であって速いわけではないと。
(しかしあいつは嘘をつくやつじゃねえ。聴こえたってことはマジで聴こえてるんだろう。お?止まった。誰かいるのか。)
数十メートル先でカイが立ち止まっている。
カイの視線の先には10人を超える男とそれに囲まれる一人の少女の姿があった。
少女は森の中を逃げ回っていたのか服がところどころ擦り切れていた。
ブロント気味の白髪でミディアムヘアー、少しつり上がった銀色の瞳を持ち、非常に端正な顔立ちをしている。
歳はカイ達より大人びて見えるがいくつかはわからない。
窮地に追い込まれているが表情は落ち着いており、腰にはやや短い刀を下げている。
「やっと諦めたか……手こずらせやがって……抵抗しなきゃ遊んでやるだけで終わらせようと思ったがよ。残念ながらてめえは遊んだあとで殺してやるよ。」
盗賊か山賊かは分からないがおそらく、頭と思われる男が得物の斧を構えながら言ったのに対し少女は、
「そう…………見逃してくれないのね………なら、最後まで足掻かせてもらうわ。」
やや短い日本刀のようなものを抜いて、臨戦態勢に入った。
「野郎共!殺してもいい!一斉にかかれ!一対一をするとさっきみたいにやられるぞ!」
「ッ!!」
どうやら、先程からかなり長い間戦っていたようだ。
少女はジリジリと間合いを詰めてくる相手に待っていてはジリ貧と判断し、一番弱そうな相手に突進した。
しかし……
「お前がそう来ることは読めてるんだよ!網をかけろ!」
「!?」
囲んでいた10人とは別に後ろから網が投げられた。少女はいくつかは斬り裂き抜けるも、全ては避けられずに拘束され転倒してしまった。
「おいおい。こんな簡単に捕まっちまうなんてやっぱり俺たちと遊びたかったんじゃねえのか?綺麗な面してるんだから戦いなんてやめて楽しもうぜ?」
「…………」
少女は何も答えずにもがくのをやめた。覚悟を決めたのだろう。
頭と思われる人物が勝ちを確信して詰め寄ったその時…
「貴方達は命を失う覚悟は出来ていますか?」
銀髪の美少年が現れた。
「何言ってんだお嬢ちゃん?お前も混ぜてほしいってか?邪魔するならお前も犯すぞ?……いや………お前も綺麗な顔をしてんな。お前も犯してやるよ。ハハハハ!野郎共!かかれ!」
「分かりました。後でもう一度同じことを聞きますね…」
カイは腰の刀を鞘から抜かずに真っ直ぐに突進した。単純な突進であるがあまりに速くそして静かな為周りが認識できていない。
「え?消えっ……ぎゃあああああ!」
「おい!大丈夫か?うげぇ………」
「このアマ速いぞ!気をつけろ!うぐっ……」
一気に間合いを詰めて水月を一突き
ただ単純な動作であるがあまりに精度が高すぎる。盗賊団20数名は頭を残して昏倒していた。
「すごい………」
少女は呆然とその光景を見ながら一言口にしていた。
「大丈夫か?俺も初めて見たがアイツはすげえんだ。俺ダースって言うんだ。立てるかい!」
ダースが拘束されていた少女を救出していた。
「ありがとうダース。助かるよ」
カイは視線を頭から動かさずに言った。普段と眼の色が違い真紅の瞳になっている。
「……嘘だろ………騎士団崩れのやつをかき集めて何年も訓練した俺の手下達が………」
頭は呆然自失気味になりながら言った。
「さて………さっきの問がまだでしたね。命を失う覚悟は出来ていますか?」
「ふざけんな!何なんだお前ら!いきなり現れて邪魔しやがって!この女が俺らの仕事を邪魔したんたぞ!お前は関係ねえじゃねえか!」
「確かに僕らは関係ないです。でも僕は人が酷い目に合わされそうなところを黙って見過ごすなんて出来ない。でももし…その子に非があるなら、大人しく下がります。何をしたんですか?」
カイは視線を少女に向けた。
「私のお婆様から大切なものを盗もうとしたから、その手下を殺した。」
「と言ってますが事実ですか?」
「嘘っぱちだ!証拠はねえ!」
頭は汗をかきながら叫ぶ。
「そうですか。証拠もないので殺すのはやめましょう。」
カイはニッコリと微笑みながら刀を腰に戻した。
頭からホッとした表情に戻った刹那
何かが頭に直撃し気絶した。
「お……おいカイ……今のは?」
「気功を飛ばしただけだよ。うまく加減できてよかった。とりあえず拘束して騎士団を呼ぼう。君名前は?僕はカイって言うんだ。」
あどけない表情に戻ったカイはニッコリと笑った。