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ペットのことを知りましょう

この世は全く複雑怪奇。面妖な事柄で満ち溢れている。


蛙が王になったとな。


息を切らせたアンジェリーナに言われた時は、彼女が寝ぼけているのかと思ったのだが、それが事実だと知ったのは翌朝、大広間に集められたときだった。


城の者が集められた大広間。壇上にはトーテムポールこと、我が国の王、わがまま姫。そしてわがまま姫のすぐ隣には見覚えのない金髪金眼の若い男が堂々とたたずんでいた。蛙は、いない。



「アンちゃん、あの青年は誰?」

「蛙よ。」

「蛙。」



蛙、蛙、金髪金目の青年に蛙らしさはない。紛うことなき人間だ。唯一面影があると言えるのは金色の目だけ。ただそれももう不愉快さは帯びていない。



「皆様、このたびはお世話になりました。この国の隣、ルルヒ王国の王子フロッシュ・フェアディーンストと申します。」



醜い蛙の容貌とは似ても似つかぬ見目麗しい王子は恭しく頭を下げた。王族とは思えないその丁寧さに

いい意味でも悪い意味でも広間はざわついた。



フロッシュ・フェアディーンストと名乗った青年はつらつらと事の次第を語る。


ルルヒ王国の王子はつい先日、悪い魔法使いに蛙に変えられてしまったらしい。そして蛙になった王子は森で途方に暮れていたところ、うちの姫様が池の側で泣いているところを発見する。あまりにもかわいそうなので、話を聞くと金の毬を落としたとのこと。そこで王子は姫のために池にもぐり毬を取ってきてあげた。そして姫に頼んでこの城で過ごしているうちに、姫の優しさによって魔法が解け、昨晩もとの姿を取り戻したそうな。


軽くキャパシティオーバーする。魔法とはいったい何なのか。優しさなどというもので解けるものなのか。そもそも魔法使いってなんだ。そんなものいるのか。魔法自体噂に聞くものの実際にあるとは思っていなかったし、ひとかけらも信じていなかったが、蛙が人の言葉を話す世の中だ。人間が蛙にされていてもおかしくないのかもしれない。感覚がおかしくなる。



「大方は王子様の言う通りよ。ただ優しさで、っていうのは嘘ね。」

「まあ姫様全然優しくなかったしね。散々目の敵にしてたし。……じゃあなんで魔法が解けたの?」

「昨晩寝室に来た蛙を、とうとうブチ切れた姫様が壁に叩きつけたらしいの。」

「うへぇ、」

「それで魔法が解けたみたい。」

「解けちゃったの。」



壁に叩きつけられて解ける魔法とはなんぞや。ご都合主義もいいところだ。もしかしたらあの蛙の態度はわざと姫を怒らせるためだったのかもしれない。なんにせよ優しさとは対極にある解決方法だ。


魔法がどういうものなのか分からないが、解けたのならきっとそういうものなのだろう。



「私と姫は婚姻することになりました。しかし一つ問題があるのです。」


「昨日の今日、壁に叩きつけられたのに結婚決めた王子すごい。」

「きっと上の方々の思惑がいろいろあるのよ。」



すでに決定されたような姫と王子の婚約。皮肉一色であったがお似合いであるのだ。まあ丁度いいのだろう。


どうであれ、一使用人である私たちには些事である。姫が嫁ぐために国を出るならば、一緒についていくメイドが選ばれるのだろうが、私は生憎彼女のお気に入りでもなければ有能な使用人でもない。よって私には全く関係ないのだ。


姫の輿入れが決まれば仕事は山の様にあるだろう。さっさと広間から出て仕事に取り掛かってしまいたい。



「悪い魔法使いはきっと、私が元の姿に戻ったと知ったら再び私に魔法を掛けようとするでしょう。そして姫にも危険が及ぶ可能性がある。……皆様には魔法使いの捕縛を手伝ってもらいたいのです。」



ざわめきが大きくなる。当然だ。私たちは魔法使いの捕縛など本来の仕事でもなければ魔法使いの存在さえ絵空事だと思っていたのだ。



「そんなことできるわけないでしょ……っていうか魔法使いを追いかけたりなんかしたら私たちまで蛙にされちゃうかもしれないじゃない。」

「それね。勝手にやっててくれればいいのに。あの王子が蛙だろうと人間だろうと私たちには関係ないもんね。」



王子と姫が蛙にされようがされまいがどうでも良い。強いて言うなら魔法使いがいるかもしれないという場所に寄りつかないことだ。


他人事のようにアンジェリーナと囁きあいながらこのありがたいお話が終わるのを待っていた。



「魔法使いというと恐ろしく思うかもしれない。だが今その魔法使いもまた、魔法にかかり山椒魚の姿をしているんです。」



再びざわつく広間。しかし私はそれどころではなかった。



「サンショウ、ウオ……?」

「……ミーシャ、アンタ山椒魚飼ってるって言わなかった?」

「……か、飼ってる。オオサンショウウオさん。」

「……しかもあの蛙王子が城に来たのと同じ日じゃなかった?」



嫌な汗がダラダラと背中を流れる。心当たりがありすぎる。私のサンショウウオが客人の蛙を食べてしまうのではないかと危惧していたが、それどころでは無かった。諸悪の根源だった。



「普通のサンショウウオではありません。人の言葉を話し、体長も50センチほどで大きい。しかし結局はサンショウウオ、四足で鈍く動くことしかできません。」


「……アンタのサンショウウオ、喋ったりしない?」

「……あのね、アンちゃん。」

「うん。」

「しゃべる。」

「……そう。」



アンジェリーナはそれだけ言って、騒ぐことも誰に知らせようともしなかった。ジリジリと後ずさり、扉へと下がる。



「あの魔法使いを野放しにしておくことはできません!今後私のような被害者を出さないためにも、一刻も早く捕らえなくてはならないのです!」


「王子!その魔法使いはどこに?」


使用人通路扉をそっと後ろ手に開けて、私は走り出した。



「サンショウウオの姿をした魔法使いは、この国とルルヒ王国国境付近の森の中に!」



私が飼っていたのは、オオサンショウウオなどではなかったようで。

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