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成金が生きる異世界物語  作者: 永遠に馬鹿な龍
二章 異世界の旅
5/5

第五話 魔道具

ようやくネット解禁・・・・・・(歓喜)

投稿が遅れてしまい申し訳ありませんでした。

見直しをあまりしていない為、誤字脱字が酷いかもしれませんが、暖かい気持ちでどうぞ。

 誰か――お願い。


 少女は泣きそうな声で、屈強な男達に頭を下げていく。

 その姿はあまりにも必至で、良心を持っている者ならば誰もが首を縦に振ってしまいそうだった。

 しかし、少女のお願いを聞いた男達は青褪めた表情となり、次々とその話を切っていく。

 それでも尚縋ろうと男達のマントや鎧を掴み、時には土下座までして頼み込む。

 しかし、男達は苦渋の表情で少女の手を払うと、逃げるように去っていった。

 時には少女を蹴っ飛ばして、無理やり逃げ出すものもいる。

 周囲で見ていた他の大人達も、その少女を可哀想だと思いつつも、救いの手を差し伸べるような真似はしなかった。

 そして、断り続けていく者達も責められる事はなかった。


 仕方ないのだ。アレには、手を出してはいけない――。


 大人達はそう心の中で呟き、少女の周囲から離れていく。

 しかし、少女は諦めることなく、何とかして貰おうと親に話を持ちかけた。

 父親は断ろうとしていたが、母親はその少女の必至な表情に心を折られて、冒険者ギルドのAランク任務として発注した。

 ただ一つ、父親はその少女に、こう言った。


『あれは不幸を呼ぶ。お前を助けてくれる人なんかいないぞ』












 ここまで寝起きの悪い朝は久々だ。

 今、俺の顔は酷いものになっているだろう。

 まだ昨日の疲れが癒されていないのが分かる。

 この原因を作り出したのは、俺の記憶にある限り一人しか――いや、一羽しか知らない。


 俺の頭の上に乗る、鶏――通称『アイツ』だ。


 こいつは寝ている時は喧しく部屋の中で鳴きまくり、朝になると俺の繊細な頭を突ついてくるときた。

 思えば、この世界に来て、初めての人間以外の生物ではないだろうか。

 まあ嬉しくはない。

 他の動物ならば嬉しかっただろうが、こいつの場合、俺は全く嬉しくない。

 反抗的すぎるのだ、こいつは。


 まあいい。

 どうせ今日は外を見て回るのだ、こいつともおさらばである。

 二度寝しようにも、こいつが邪魔で寝れねぇ。

 かと言って、この部屋にはテレビがないから時間を潰すことも出来ねぇ。

 精神的な疲れは全く癒えてないが、まあ足の疲れは治ったし、歩けるっちゃあ歩ける。


 さて、今日はどこに行こうか。

 とりあえず……そうだな、服が欲しい。

 俺が着てるのはボロボロな布服だから、少し周囲の視線が痛いのだ。

 着替えたい。

 それと道具だ。

 このまま魔導都市に引き篭もっておきたい所だが……異世界に来てまで引き籠りはないだろう。

 俺も男だ。

 異世界らしく、森の中で野宿とかしながら旅をしたい。

 しかし、外で生きていくにしては、俺のステータスは低すぎる。

 恐らく、肉食動物が一匹でも現れた瞬間、俺の死は確定するであろう。

 ならどうするか。

 そこで道具だよ。


 確かに、俺は弱い。

 だがしかし、罠とかならば張れる。

 つまりはそういう事だ。

 凶悪な動物達から身を守る為の道具を買いに行くのだ。

 もし売ってなかったら、俺はこの街を出ない。

 男の浪漫も、命よりは軽いのだ。


 支度するものも無い為、ベッドから降りたらそのまま扉まで一直線だ。

 正直、受付の前はあまり歩きたくないのだが……昨日の人じゃないことを祈る。



 さて、宿屋の外に出た。

 スニーキングミッションは失敗し、受付の人からの冷たい目が俺を貫いたが、何とか耐えて外に出れた。

 外にさえ出れれば問題はない。

 今度は俺の服による注目が集まっているが、服さえ買えりゃあ問題ナシだ。

 さあ、まずは服屋への道を聞かないといけないな。

 だが、その前に……だ。


「お前……そろそろ離れろよ」

「コケェ……」


 俺の頭の上で寛ぐアイツを何とかせねば。

 俺が十分に寝れていないというのに、アイツは俺の頭の上で寝ていやがるのだ。

 なんという奴だ。

 今すぐ焼き鳥か何かにクラスチェンジさせてしまった方がいい気がしてくる。

 というか、何でこいつは俺のパートナーの如く俺の頭に住み着いてやがるんだ?

 理解不能だ。

 力尽くで引き剥がそうとしても、一体何が起こっているのか、全く引き剥がせない。

 いくら殴っても、起きる気配なし。

 何なんだ、これは。


 しょうがない……このまま行くか……。

 こいつは……。

 ……思ったんだけど、アイツって名前だと色々面倒臭いな。

 街中で思わず『アイツうるせぇ!』なんて叫んじゃったら、周囲の誰かが勘違いする可能性もある。

 しょうがない、ペットと思って、名前を付けてやろう。

 チキンでいいか?

 うん、チキンでいいや。

 可愛がる必要ないし、そもそも可愛くないしな。


「よし……じゃあ行くか、チキン」

「コケェ……」


 まず向かう場所は一つ。

 服屋だ。






 魔導都市ファルメ。

 成る程、どうやら俺はこの都市を舐めていたらしい。

 まさかここまで規模がでかいとは、思いもしなかった。

 まさか迷うとは、な。


 空を見てみる。

 まだ明るいが、太陽が結構移動している。

 恐らく、宿屋を出て二時間ほど経過しているだろう。

 あー、腹減った。

 先に料理店でも見つけるべきだろうか?

 いや、この格好のまま人が沢山いる場所には入りたくないし、やっぱ服屋かな。

 あー……なんかもう、疲れたな。

 いや、スタミナも確かにもう切れているのだが、それ以上に精神的なスタミナも消費しているに違いない。

 周囲の目を気にしながら二時間も歩いたんだ、そりゃ精神も磨り減るってもんよ。

 まあ、このボロい服だけじゃなくて、頭の上で呑気するチキンの影響もあるがな。


「あー、早く場所を特定しないと……お?」


 何気なく見た階段の上に、一人の少女がいた。

 銀髪ポニーテールの、可愛らしい少女だ。

 腰には刀を二つ差しており、なんかこう、落ち着いた雰囲気を漂わせていた。

 此方のファッションなのだろうか。

 白いTシャツの上から黒いコートを着て、赤色のプリーツスカートを履いている。


 俺は確信できた。

 あのいかにもなオーラを纏っている少女なら、きっと服屋への場所も知っているだろう!と。


 いやまあ、他の人でも知ってるだろうけどさ。

 なんかね、その辺に居る人って、全員怖いんだよ。

 黒いローブを着て杖を持った中年とか、鎧を着込んで顔に傷を負ってる人とか。

 とにかく話しかけ辛い人しか居なかったんだ。


 そんな中に射し込んだ希望の光。

 年もあんまり離れてなさそうだし、雰囲気も落ち着いてる。

 何より可愛い。

 話しかけない理由がどこにあると言うんだね?


「コケコケコケェーー!!」


 ほら、チキンの奴も、待ってました!と言わんばかりに鳴いているじゃないか。

 ……あ、お前起きてたんだ。

 いや、どうでもいい。

 俺は階段を駆け上がり、少女に近寄った。

 隣には俺と同じ速度で飛行するチキン。

 ……あ、こいつ飛べたのね。


「あ、あの!」

「はい?」


 俺の言葉に反応して、何処かに向かおうとした少女は動きを止めて振り向いた。

 さっきは遠目で分からなかったが、その瞳は青かった。

 スカイブルーといった所か。

 それにしても、近くで見ると余計可愛いな。

 どう?お嬢さん、これからパーティでも。

 いい物用意するよ?

 チキンの丸焼きとか、ね。


「あ、昨日の……。えっと、何か用ですか?」


 むっ、危ない危ない、目的を履き違える所だった。

 違うよな、チキンの処分は後回しだ。


「すみませんが、服屋ってどこにあるかご存知ですか?ついでに鶏の処分の出来る場所を……」


 後半の言葉を言った途端、飛行するチキンの体当たりが俺の横腹に命中した。

 いってぇ……けど、体力低の俺にこの程度のダメージって……所詮は鶏か。

 俺に体当たりをかました後、優雅に俺の頭へ着地するチキン。

 おい、俺の頭の上はお前の寝床じゃねぇんだが。


「服屋、ですか?それなら上に行って下さい」

「上、ですか?」

「はい、その後に左へ、いや右?あれ、下だったかな?もしかして」

「はい分かりました、よく分かりました、有難うございました」


 速攻で説明を打ち切って立ち去る俺。

 あれだったか、上手く説明できない人だったか。

 ようやく見つけた打破の道を、まさかこんなアッサリと潰されてしまうとは……。

 心なしか、頭の上のチキンもしょんぼりしているように感じる。

 心が今、鶏と繋がった。

 大して嬉しくないのは何故なのか。


 しっかし、もう道がないな。

 どうしようか……。

 ……ん?


「なあチキン、お前さ、ここに来て長いのか?」

「コ?コケー!」


 元気そうな声。

 うん、これは恐らく肯定しているのだろう。


「ならよ、もしかしてお前、服売ってる場所分かるか?」

「コー…………」


 ん?何だろうか。分からないってわけでもなさそうだが、あまり乗り気じゃない時の声だな。

 いや、まだ会って一日目だからそんなの分からんが。

 頭に乗るこいつを引っぺがして、俺の目の前に持ってくる。

 今回はやけにすんなりと外れた。

 俺の目に映ったチキンは、何やら自分の腹を羽根で叩きながら、チラチラと此方を見ていた。

 うっわ、なんかうぜぇ。

 こいつは一体何をご所望してやがるんだ?


 ん?待てよ?

 今は昼時。

 そろそろ腹が減ってくる頃だ。

 鳥類たるこいつが人間と同じ感覚だとしたら……。


「……まさか、服屋まで案内してやる代わりに、昼飯を寄越せってか?」

「コッケッ!」


 大仰に頷くチキン。

 本当にこいつ鶏かよ。ちょっと疑わしくなってきた。

 いや、元から疑わしかったんだけどね。


 さて、ここで断るのは簡単だ。

 NOと言って首を横に振るだけでいいのだから。

 だが、かといって、ここで断れば俺はこの広大な都市の中、服屋に辿り着くことも出来ずに迷う事となる。

 殆ど選択肢が無い、というのが現状だった。


「OK、チキン、話は分かった。

 お前が案内してくれれば、お前が満足するまで昼飯を奢ってやろうじゃねぇか!」


 俺のこの言葉に、チキンが満足そうに羽根を動かす。

 ま、金も無限にあるし、別に問題ないだろ。

 ユッケを大量に食わしてやるとするか。

 上機嫌になったチキンは俺の肩に乗り、ビシッと羽根で道を指示する。

 これがもし、肩に乗っているのが烏とか燕とかだったのなら、少しは格好よかったんだろうが、鶏だし……。

 むしろ無様だ。


 さて、チキンの指し示す方向へと足を進める。

 しかし、本当にこいつ、知ってんのかな?

 人語が分かると言っても、所詮は鶏。

 道を間違えたり、忘れたり、迷ったりする可能性は否定できない。

 保険として、俺も周囲をよく見渡しながら歩くことにしよう。

 そう決めて、俺はチキンの命令に従うのであった。





 かなり早かった。

 服屋に辿り着くまでに、計十分程度。

 さっきまでの二時間は何だったのか?と疑問に思うレベルである。

 しかも意外な事に、最初に泊まっていた宿屋のすぐ近くだった。

 最初からこいつに道案内を頼んでれば良かった……。

 と思ったが、その時、こいつは睡眠していたんだったな。

 あの時は大人しくて良かったなぁ。

 今、俺の肩に乗ってドヤ顔をしている奴とは、比べものにならないくらい大人しかった。


 まあ、いいや。

 兎に角、これで俺はようやくマトモな服をこの身に包むことが出来る。

 俺は店の扉を叩き、意気揚々と開いた。


「おぉ……」


 ここに来て、二回目になる感嘆の声。

 まず、ピカピカに光るシャンデリア。

 そして、この店の広々とした空間を埋め尽くすように飾られる衣服達。

 とてもじゃないが、こんなボロっちい布の服を着た子供のいる場所ではなかった。

 店員と思わしき女性の

「え?なにこいつ、何しに来たの?」

 とでも言いたげな視線に、思わず縮こまりそうになる。


 でも、堂々とせねばなるまい。

 俺は客なんだ。

 布の服だし、肩にみすぼらしい鶏を乗せているが、れっきとした客なんだ。

 元から小さい体を更に小さくし、店の奥へと小走りで走った。



――――――――――――



 よし、こんなものでいいだろう。

 俺が手に持つのは、白いTシャツに、膝まで届く黒く長いコートと、同じく黒いカーゴパンツ。黒いグローブに、灰色のブーツといった、とにかく暗い色の装備品達。

 実はこれ、チキンの奴が選んだ物だ。

 どんな服がいいかなぁ、と見て回っていた時、急にチキンが飛び去り、少ししてからこれらを持って帰ってきた。

 サイズは少し大きめだったが……これからこの体も成長するだろうし、これくらいが丁度いいのかもしれない。

 服を選ぶのなんかに時間をかけるのもバカバカしかったし、悪くはなかった為、買うことにした。腹も減っていたし。

 恐らくチキンの奴も、早く飯を食いたかったから適当な物を選んできたのだろう。

 カウンターまで持っていき、店員に品を渡す。


「えっ………と、透化のシャツに耐斬のコートと隠密のズボン。罠鍵の手袋に消音のブーツですね。代金は銀貨七枚になります」


 ふむふむ、銀貨七枚か。高いのかな?分からんが、まあそこそこか。

 銀貨七枚をカウンターに置く。

 すると少し驚いた顔をした店員は、急いで袋に品を入れて渡してきた。

 こいつ……多分、そんな金持ってないだろって思ってたな。子供っていうかクソガキを見る顔だったもん、さっき。

 内心ドヤ顔で袋を受け取り、店側のサービスである着替え室を貸してもらい、そこで服を着替えた。


 さて、さっき買った服だが……実際に着てみると、凄く怪しい人間になった。

 肌が殆ど隠れてるからかもしれないが、殆どの色が黒に近いってのが原因の一つだと思う。

 まあ着心地は悪くないし、それどころか凄い馴染む。これが魔導都市ファルメの実力ってやつか。


『称号:見習い盗賊を獲得しました。

 職業:盗賊になりました。』


 頭の中に言葉が流れる。

 え……盗賊?なんで?何で!?

 そんな、何も盗んでないし、何もしてないよ!?


「おいチキン!何か盗賊になっちゃったみたいなんだけど、理由分かるか!?」


 分かるわけない。

 たかだか鶏に俺ですら分からない答えが、分かる筈ない。

 しかし、チキンはその羽根でビシッと俺の体を指した。

 俺……いや、服か?だがなぜ服を示しているのか……。

 そういや、罠鍵やら消音やら隠密やらって話してたな。ってまさか、この服を着ただけで盗賊になるとか?

 おい!そんなもの売るんじゃねぇよ!というかチキンの奴も持ってくんなよ!

 ああよく分かったわ、店員の人が微妙な顔をした本当の理由がよく分かったわ。

 ボロい服を着た子供が嬉々として盗賊の服を購入しに来たら、俺もちょっと困るかもしれない。


「チキン……て、めぇ……」


 拳を震わせながら、睨む。

 いや、確認しなかった俺も俺なんだけどさぁ………。

 多分こいつ、分かっててこれを押し付けてきやがった。してやったりって顔をしている。

 どうしようか、これじゃさっきとは別の意味で表を歩けない。

 しょうがない。脱いで、新しい服を買おう。

 コートとTシャツを脱いで、ボロい服を手に持ち、着ようとする……が、突然服が弾かれた。

 ボロい服がビリビリに破かれながら空を舞い、床にばら撒かれる。

 唖然とする俺の脳内に、言葉が流れる。


『呪われています。透過のシャツ以外の上装備は付けられません。また、消音のブーツと隠密のズボンは透過のシャツとのセット効果により、呪われ、下装備も固定化されました。耐斬のコートは呪いの対象外です』


 聞こえてきたのは、絶望的な言葉だった。

 は……呪われた、だと?嘘だろ?

 き、教会、教会へ行って呪いを外してもらわないと………。

 いや違う、そうじゃない。

 呪いってあれだよな。RPGとかだと、攻撃する度にダメージを受けたり、装備から外せなかったり、下手をしたら死んだり。

 今回のこの装備は外せないタイプのものと見た。


 とすれば、解除方法が分かるまで、俺はこの姿で過ごさなければならないことになる。

 一瞬だけ、盗賊RPでもしてみるか、とも考えたのだが、金は持ってるし人の物を盗む度胸がないのでやめといた。

 呪われた装備を着たステータス貧弱のボッチ盗賊か、未来が霞んで見えないな。

 ……これで外を歩いたら、捕まったりしないよね?

 いや、きっと大丈夫。そんな着たら捕まるような服を売ってるわけないし、外には俺以上に怪しい服着た奴等いたし、大丈夫だと信じよう。

 そもそもここは異世界。もしかしたら盗賊がいい職業の可能性もある。

 うん、大丈夫だ。と自分を無理やり落ち着かせて、流れる汗を無視しながら俺は外へと足を動かした。





 さて、チキンの援護により俺は道具屋に辿り着いた。

 片手にはパンとパンの間に生焼け肉を挟んだような食べ物を持って。


 俺は元々、定食屋みたいな場所で食事を取るつもりだった。

 まあ……残念な事に、入れてもらえなかった。

 理由は簡単だった。盗賊を店に入れる訳にはいかない、だと。

 俺は当然直談判したさ。俺は何もしちゃいない、盗賊なんかじゃないさ!と。

 しかし、流石は呪いと言った所か、全く信じてもらえんかった。

 なので仕方なく、その辺に出ていた屋台で、イノシシサンドとやらを買って立ち食いしていたわけだ。

 幸先不安である。


「らっしゃーい!」


 木材で作られた扉を開けると、大量の武具や道具に囲まれた中年が笑顔で出迎えてくれた。

 俺の姿を見るなり少し目を細めるが、まあいいかと呟いて笑顔に戻る。

 どうやら道具屋にとって、盗賊が物を買いに来ようがどうでもいい事らしい。

 基準が分からんな。

 まあいいや、無事に入れるのなら問題ない。早速目的の物を買うとしようじゃないか。


「今日は何を買いに?」

「あ、じゃあ相手の身動きを封じる道具とかあります?」


 何気無く、本当に何気無く聞いてみると、次の瞬間に中年の笑顔が消えた。


「身動きを封じる?おい、まさかそれでこの俺の動きを封じて、この店の商品をかっぱらうとか、そんな事考えちゃいねぇよな?」


 中年の言葉を聞いて、俺は笑顔の消えた理由が分かった。

 そりゃ盗賊がそんなもん求めてきたら、何か企んでんじゃないかと疑うわ。俺でも疑う。

 何とかして誤解を解いておかないと、道具を売ってもらえなくなる可能性が出てくる。

 それは避けたい。


「ち、違いますって!いえ、後日旅に出るつもりなんですが、自衛用の物が欲しくて……」


 これは嘘偽りない言葉だ。

 いやまあ、いつ旅に出るかは分からんけど。でも軽く一ヶ月後くらいにはなるんじゃないかな。心の準備がいるし。

 そういえば、旅の目的とか、そういうのも考えなきゃな。目的のない旅なんてつまらんだろうし。

 俺はこの世界をゲームだと思っている。

 ゲームの鉄則に従い、行動したいと思っている。

 さて、そこで考えなくちゃいけないのは、どんなRPをするか、だ。

 自由度の高いゲームでは、人々はゲームのキャラに成りきり、生活している感を楽しむという。

 折角異世界に来たのだし、俺も是非ともそんなして楽しみたい。


「自衛ねぇ……ふむ、そんな理由ならこれとかはどうだ?」


 中年はそう言うと、大量の道具が積まれた箱から一つの縄を差し出してきた。

 持ってみるが、普通の縄のように思える。感触も何もかもがただの縄だ。

 まさかこの親父、これを使って捕縛しろとか抜かすわけじゃないだろうな?

 だとしたら、お前は目の前にいる奴をよく見てみろとつっこみたい。ただの少年に何を期待しているんだ。

 俺はよくいるチート少年じゃないんだ、過度な期待はやめていただこう。


「えっと、これをどうしろと……?」

「ん?おっと、こいつの効果を知らないのか?」


 はい、知りません。というか知りようがありません。


「こいつはな、敵意を持った奴に向かって自動的に絡み付く魔道具だ。持ってるだけで効果があるぞ」


 なん……だと?

 ただの縄だと思っていたのに、まさか縄風情がそんな大層な能力を有していたとは……。

 というか、魔道具?

 流石は魔道都市、道具にすらも魔が付いているんですね。

 こいつさえあれば安泰だな。実は結構ちょろいかもしれない、この世界。


「へえ、じゃあこいつ一本で安全ですね!」

「いや、確かに不意打ち等には強いが、刃物類で切られれば効力を失うし、見境がないから味方も襲う。使い勝手は悪い」


 あ、そうなんだ。

 安全安泰だと思ったのに、なんか残念だな。

 しかしまあ、俺はボッチだし、仲間を巻き込む危険なんてないから、買ってみるのもいいかもしれない。


「とりあえずその縄買います。いくらですか?」

「銀貨二枚といったところだな」


 能力で銀貨二枚を創り出して、それを中年に渡した。一枚一枚を丁寧に見て、本物であることを確認した後にその金を懐にしまう。


「毎度ありぃ」


 俺は購入した縄をとりあえず肩に掛けて、再度店の中を見渡した。

 流石に縄一本で旅に出るわけにはいかないだろう。外がどんだけ危険か知らんが、試してみる勇気は俺にはない。

 俺はあれだ、RPGとかで無謀な戦いをしない主義だ。

 仲間のレベルを推奨レベル+5まで育て、装備を充実させ最短距離でボス部屋目指すタイプだ。

 出来るだけ万全な状態を作りたい。


「親父さん、旅に出るのにオススメの商品なんかあります?」


 俺は素人な為、何の道具が有用なのか分からない。

 ここの店主に聞くのが一番手っ取り早いと思い、尋ねてみる。


「オススメ?そうだなぁ……お、そうだ、これとかどうだ?」


 中年がそう言い取り出してきたのは、一匹の鼠だった。

 掌サイズの鼠で、灰色の毛がはえている。

 ……まさか縄以上に訳の分からん商品を渡されるとは思ってもいなかった。

 鼠?鼠でどうしろと?というかまさか、お前の店にいた鼠を捕まえただけじゃないだろうな?

 流石に文句でも言ってやろうか。と思ったけれど、縄だって凄まじい効果を持っていたことを思い出し、 不満を口にすることは控える。

 これでもし使い道がなかったら、鶏を投げ付けてやろうと思いながら、何に使うのか聞いてみた。

 すると……。


「こいつは魔道起爆式鼠といってな、敵を指定するとそいつに走り寄り、有効範囲に入った瞬間に起爆するという生物型兵器さ。

 体内に爆撃魔法の魔法円と、操作魔法の魔法円が組まれていて、それを組み合わせて指定と爆発を可能とするらしい」


 …………は?なにそれ怖い。

 というかそれ、人道的にどうなの?

 そんなものを嬉々として使用していたら、俺、頭のおかしい奴だと思われそうなんだけど。

 大丈夫?それ。


「おっと、あんたが考えているような事は心配いらねぇぜ?こいつらは精巧に鼠に似せちゃいるが、実際には血の通っていない機械鼠さ。一時期は本物が出回っていたんだが、流石にクレームが殺到したらしくてな……」


 だろうね。

 鼠とはいえ、爆散する兵器にしたりしたらそりゃ反対が出てくるわ。

 まあ人工で中身は機械らしいし、この状態なら問題ないからこそ売られているのだろうけど。

 でもなんかなぁ、抵抗あるのは元日本人だからだろうか。

 ……やめておこう、貴重な武器になりそうだけど、使うのに躊躇してしまいそうだ。


「他のはないんですか?」

「他、ね……そうだなぁ……」


 うーん、と唸る親父。

 すると、ふと、何かを思い付いたかのように此方へと目を向けてきた。


「そうだ、奴隷なんかはどうだ?」

「奴隷?」

「身の安全を守るだけでいいんだろう?なら安い奴隷でも買って、盾にしちまえばいいだろう」


 何て野郎だ、鼠爆散兵器よりも人道的にヤバい事を言ってきやがったぞ。

 しかしその目は真剣なもので、俺の為に一人の商人として意見を言ってくれたのだと分かった。

 もしかすると、この世界ではそこまでおかしい事ではないのかもしれない。

 でもなあ、うーむ……。


「それか、傭兵ギルドに足を運ぶとかな。金さえあれば護衛についてくれるだろうさ」


 今も尚、俺の希望に添える道具を探しながら、親父が言う。

 傭兵……あの奴隷馬車を護衛していたあいつらみたいな奴等か?

 まあ確かに、それなら元日本人としての感情も邪魔しないし、あいつらの腕を見た限りでは安心も出来る。

 ……しかし、俺の我儘を言わせてもらうなら……。


「仲間はあまり欲しくないですね、一人旅とかしてみたいんですよ」


 そう、正直、誰かと一緒に旅はしたくない。

 いや、いつかは誰かとパーティを組んで面白おかしく旅したい。

 でも、それは今じゃない。

 まずは一人だけで旅を楽しんで、それから誰かとの旅を楽しみたいのだ。

 RPGだって、最初は一人なんだ。

 チキンの野郎がいるが、こいつは人間じゃないからノーカウントでいいだろう。

 とにかく、この時点で奴隷やら傭兵やら雇うのはやめときたい。

 そうだなぁ……鉄則に従って、知らない村とかを三回くらい訪れたら、誰かとパーティを組もう。

 三つ目くらいの村となると、ゲームでも流石に仲間が一人くらい増えている頃だ。

 パーティを組むのには、丁度いい辺りだろう。


「ってなわけで、とりあえず安心安全な道具を買い占めたいんで、一通り商品を見せてもらっていいですか?」

「ふむ……」


 まあ仲間はいらないってだけで、道具だけは自重しないけどね?

 何なら、この店の品を全て買い占める勢いでいかせてもらおう。


「よし、ならこいつなんかは……」



 それから二時間ほど、あらゆる道具の説明をされた。

 良さげな物が大量にあった為、説明をされた品を買い占めた。


 その間、ずっと放置されていたチキンが拗ねていたのは、また別の話。

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