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寄せ集め冒険譚  作者: blazeblue
水晶の花
5/10

届いた光




 リーダーの崩れ落ちる音がやけに大きく響く。どうやら野盗たちもあまりに予想外の出来事で意識が飛んでいたらしく、響いた音でハッと意識を取り戻すとようやく動きを再開した。しかし当のグインはもうかなり離れた位置まで逃げている。

 それは突撃から離脱までが瞬き二、三度ほどの間の、鮮やかな出来事であった。


 グインもグインで、何か重いものが崩れ落ちる音を背中で聞いていた。それに合わせて頭のすぐ後ろからは“あ”という小さな声が届く。


「うわぁぁぁ、どうしようどうしよう」


 肩でアデリーを担ぎながら相変わらず村を走るグインは、先ほどの怒りから一転して顔を青くしていた。思わずカッとしてリーダーを吹き飛ばしはしたものの、本当はできると思っていなかったのだ。なにしろきちんと技を教わったわけではなく、楓が実際に使っているところも一度しか見たことが無い。ミストに至っては非常時ですら肉弾戦を他人の仕事と思っている節がある。


(うっ……すっごく怒ってる……!)


 背後をちらりと窺ったグインはすぐに後悔した。もしも彼に言い訳が許されるなら、アデリーに剣を向けられたことで目がくらんだだけだと主張したかった。しかしそれはできない。完全に勢いに任せた行動が取り返しなどつかないほど野盗たちを怒らせてしまったと、いくらか冷静になった今なら分かる。野盗たちは鬼のような形相でグインたちを追っていた。


 この事を知ればミストは大爆笑するだろう。楓に知られたら呆れられるか“後先を考えない行動はするな”と叱られるかもしれない。アデリーを野盗たちから引き離せたこと自体は褒めてもいいと思ったが、それ以上にグインが自分を慰めるにはマイナスが多すぎた。


「グイン、さん」


 肩の後ろから弱々しい声がする。体を折るように担がれていることで、走るグインに合わせて腹部が圧迫されているのだ。相当苦しいはずである。


「ごめんアデリー! 苦しいと思うんだけどもうちょっと頑張って」


 言いながら、グインは後ろ向きで担がれたアデリーからは見えないことをいいことに眉をしかめた。もうちょっと。自分が言った言葉が信じられない。もうちょっととは、一体あとどれくらいだろうか。


(僕ってやつは、ほんとに情けないなぁ……)


 追いかけてくる男たちは変わらず六人。村にいた野盗のリーダーこそいくらか戦闘力を削いだものの、グイン程度の攻撃ではもう少しすれば回復するはずだ。その内心は考えるまでもなく手加減など全く期待できない。

 逃げ足だけが取り柄のグインは一斉に襲われてしまえばそれで終わる。だから、グインが言った“もうちょっと”は気休めでしかないのだ。


「は、い……だいじょうぶ、です。ありがとう、ございます」


 必死に走る少年を心配させまいとしたのか穏やかな笑みを含めたかわいらしい声も、苦しげに詰まっていることで現実を伝えている。どうしようか。このままじゃ可哀そうだ。グインがいっそう悩みながら地面を蹴ったとき、大きな変化があった。



 閃光が生まれる。それは真白い、きれいな光だった。



 尾を引いて空を切り裂くその光は、グインたちと追跡者たちのちょうど中間に着弾した。



 野盗たちが戸惑う暇もなく爆発し、音もないそれは彼らを吹き飛ばす。



「ぁ……」


 少し遅れて届いた爆音で、アデリーが上げた微かな声が掻き消えた。何を言おうとしたのだろうか。場違いだとは分かっていたが、グインはその言葉を聞き取れなかったことを残念に思った。


(っと、違う違う! 今はそんなこと考えてる暇なんて無かった)


 閃光と音こそ派手だが初級の攻撃魔術だったらしく、特に出血もないまま野盗たちが倒れている。グインたちではなく彼らを狙った魔術だったのだ。


(えっと……?)


 眉を寄せた感触ではっとするとグインはアデリーを地面に下ろし、光が飛んできた方角へ慌てて振り向いた。彼女の腕をつかんだまま自分の後ろへ庇う。何かあればすぐさま逃げ出す準備も忘れていない。グインたちは魔術により助けられたが、それは本当に二人を助けるための術だったかはまだ分からないのだから。現に村の中では他の場所からも爆発音が聞こえてくる。相手が複数いるのだから用心するに越したことはない。


(逃げられる、かな? 無理なら、それでも)


 追いかけてきた野盗たちをあっさり撃破した魔術の主に自分が敵う自信はない。だからこそ敵だった場合に自分で撃退することは最初から考えすらしない。しかし自分の身でアデリーを庇うくらいのことが出来なければ、グインは自分を許せそうになかった。

 爆発音がだんだんと近づいてくる。グインはギュッと拳を握りしめ、いつでも飛び出せるよう軽く腰を落とした。





「あーもう、久々に攻撃魔術使ったから疲れちゃった。しかも結局また魔力切れじゃないですかヤダー。雑魚でマジ助かったわー」





 緊張しながら身構えていると、村の北東部の森――グインたちのほぼ真横から、くたびれた旅装の若い男が短い杖をもてあそびながら近づいてくる。グインもアデリーも救い手の姿へ安心するより先に目を丸くしたが、よくよく考えればそう不思議なことではなかった。

 魔導師の楓が初歩的な医療魔術を使えるように医療師の彼もまた簡単な攻撃魔術を使えるのだ。グインの悩みを軽々飛び越えるような言い方にも腹が立たない。むしろ彼は安心して膝から力が抜けるかと思うほどだった。


「よーぅ、グイン。久しぶり、アデリー! つーかお前ら、鬼ごっことかずいぶん楽しそーじゃん。何? お前の足ならアデリー抱えて走るくらいのハンデ無いと勝負にならないってか?」


 にぃっと笑うミストは二人へ近づいてくると、自分が意識を吹き飛ばした男たちを示してへらりと笑った。軽い調子で右手をひらひらと振っている。


「なん、で……」

「んー。目的の洞窟さ、途中まで行ったんだけどねぇ? ちょっともう夕方までに間に合わなさそうだったから。どうせだしアデリーに会いに行こうって楓ちゃんが」


 ほら、と親指で示した先には長杖を構える魔導師がいた。すらりと立つその人は杖の先からミストと同じような光を飛ばして群がる野盗を吹き飛ばすと、不機嫌そうに足を踏み出す。先ほどから幾度となく響いている爆発音は楓の仕業だったらしい。派手な音とは裏腹に死人が出ている様子がないことが魔導師としての腕を示していた。


「この……っ!」


 また一人、広場の方から走り出た野盗が、ゆっくりと歩く楓へ襲いかかる。彼から見てグインたちと楓との距離はちょうど同じくらいだった。しかし逃げ足の速さを実証しているグインや杖が無くては一目では医療師と分からないミストより、女性であり魔導師である楓の方が与しやすいと思ったのだろう。たとえ力のある魔導師であっても術を唱えるより先に近づいてしまえば良いと。

 そんな野盗の希望を、当の魔導師はやすやすと刈り取った。


「ぐぁっ」

「弱い」


 振り下ろされた剣をするりと避けると、下から掬い上げた長杖で顎を打ち抜いたのだ。いつものように魔力で強化している長杖はさぞや痛かったはずだ。その上こういう事態での楓は容赦をどこかへ忘れてきているため、敵であるはずの野盗たちへグインはつい反射的に同情した。


「すごい、です」

「うん。すごいね」


 眉をしかめた楓は焦りと言うよりも不機嫌を見せており、その挙動に危なげはない。自己流でやってきた野盗たちよりも、きちんと系統立てた武術を学び魔術の支援がある彼女の力の方が数段上なのだ。先ほどまで必死で逃げていたグインも命を覚悟したアデリーも、もはや何らかの競技を観戦しているような軽い気持ちへ変わっていた。


「ウザい」


 頭へ衝撃を加えられて崩れ落ちた野盗を見向きもせずに蹴りころがし、楓はグインたちからは見えない角の先を睨み付けて小さく舌打ちをする。そして不機嫌そうな声を投げつけた。


「そっちには結界が張ってあるから、近づけないわよ。あの人たちを人質にできなくて残念だったわね。……まったく、何なのよここだけ結界張るとか。しかも時限制って。この状況に持ち込まない限り無駄極まりないじゃない。これだからミストは!」


 愚痴のような楓の言葉に少年と少女は興味をひかれた。別の路地から回り込んだグインとアデリーが広場と楓が向かっている通りを見れば、彼女が言葉を投げた相手とみられる野盗のリーダーが透明な壁の前で立ち往生している。

 確かに、広場への道が透明な壁により封鎖されているのは楓たちがいる通りだけだった。広場では村人たちが気絶した野盗たちをまとめて縛り上げ、これまでの恨みとばかりに小突き回している。


「楓ちゃん、それで多分最後」


 慌てて路地を戻ると、指折りで何かを確認していたミストの言葉へ楓が頷いているところだった。


「ようやくミストの無駄に使った術が役に立ったわね。さて、あとはあなた一人よ。余計な手間を取らせないでくれる?」

「はっ! 誰が俺で最後だと? 森にいる仲間がすぐに他の仲間を連れてくるぜ!」

「あぁそれなら大丈夫」


 楓が微笑む。整った顔の笑顔は美しいはずなのに、なぜかグインには悪魔の微笑みのように見えた。いつも彼には厳しくとも優しく接してくれる楓だから、なぜそう見えたのかはグインにも分からない。


「最初に捕まえたのから、全体の人数をきいてるから。だからあなたが最後で間違いないわ」

「なんだと!?」


 ゆるりと長杖を振る楓には傷や被害など何一つ無い。しかし村の惨状から見て彼女の言葉には疑う余地がない。野盗のリーダーは破れかぶれになったのか彼女へ突進し、剣を突きだした。目の前の女を始末しなければ未来はないと彼は悟ったのだ。服の裾は焦げており防具にはヒビが入っていることから、彼が楓の魔術に巻き込まれていたと分かる。

 無駄な術なんてひでーな、と笑いながら、ミストは杖へ魔力を注いだ。


「筋力強化」


 ぼそりと呟くと短杖の先から飛んだ魔力が楓を取り巻き、何らかの変質を引き起こす。


「楓さん……!」

「むしろ俺の方を心配してよ。今度こそホントに魔力切れだわ。もう無理。これ以上魔術使ったら俺死ぬ」


 いくら楓が強いと知っていてもそれは魔導師としてはである。ミストが術を行使したことには気づいたものの、普段の彼を知るアデリーが悲鳴のような声を上げた。何しろ彼が役に立つ援護をしたところをアデリーは見たことが無いのだ。

 しかし仲間であるはずのグインは気楽な様子で、全部終わったと安心のあまり膝に手をついて脱力している。ミストの呟きが聞こえていたうえ、きちんと援護をすると決めた時の彼が手を抜くことはないと知っていた。


「まぁ、楓ちゃんなら普通にダイジョウブだから。ほら」


 杖で右肩を叩いているミストが億劫そうにあごで示す先には、彼が言う通り楓の無事な姿があった。涼しい表情の楓とは逆に、むしろ襲いかかった野盗のリーダーこそが必死な形相をしている。それもそのはずで、非力なはずの魔導師は突き出された剣を杖で上向きに反らし、なおかつその根本へ杖を噛み合わせることで受け止めているのだ。

 ミストの補助が効いていることもあるが、それ以上に楓自身が野盗のバランスを上手く崩すことで力を受け流していた。


「くそっ」

「あぁそう、そういう態度なの。分かったわ」


 にこりと笑うと、魔力が満たされている長杖へさらに魔力を送る。それは杖のさらなる強化ではなく“魔導師の持つ杖”による本来の用途だと、グインやアデリーにも分かった。


「私本当は、力が強すぎて加減ができないから魔術が苦手なの。今日も家を壊さないように加減しながら使ったけどそろそろ限界なのよね、我慢とイライラの。よほど直接殴った方が楽なのに、そんな私に魔術を使わせたのはあなたよ。だから次はどうなるか保証できないわ」



 ――精々、体がいろんな方向にサヨナラしないように祈っておけば?



 至近距離で魔力光に照らされた笑顔がリーダーの目には不気味に映る。魔導師のはずが長杖を振り回して手下たちをはり倒したこの女は、この至近距離で、手加減せずに魔術を使うと言っているのだ。彼には魔術の素養など全くないが辺りで渦巻く圧倒的な力は嫌でも感知できる。“いろんな方向にサヨナラ”などと可愛らしいものではない。この力がすべて攻撃に回ったとしたら彼はかけらも残さず消滅するだろう。

 その時、迷いを見せるリーダーの体から突然力が抜けた。


「助かったわ。相変わらず腕がいいわね」

「いいえ、余計な手出しでしょうけれど」


 楓が振り向けば、ミストの傍に水晶の短杖を構えているアデリーの姿がある。彼の指示を受けて遠距離から麻酔術を飛ばしたのだ。ミストよりも高い精度の麻酔技術を持つアデリーだからこその援護である。

 長杖から魔力を抜いた楓は三人と合流し、広場へ向かう。すでにミストの張った防御用の結界は消えていた。村人たちの威勢のいい声が村中から聞こえる。


「よかった……」


 普段に戻りつつある村へ息をほぅっと吐き出して、グインはようやく力を抜いたのだった。




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