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第一話
「明日花、起きなってば。もう遅刻するよ?」
声が空から降ってきた。
今の私の状況にはそんな表現がよく似合う。なんてったって、声の発信源は浮いてしまっているのだから。
いつの日からかは忘れてしまったけれど、私の隣に一人の幽霊が現れた。それは噂に聞いたように半透明で、空中を自由に動き回ることができる。でも、ただ一つ違っていることがあるとすれば、彼女には足があることだ。
そんな彼女、明日葉に促されて身を起こすとあら大変。遅刻ギリギリの時間ではないか。
「明日葉!何でもっと早く起こしてくれなかったの!遅刻するでしょうが」
これでも私は今年高校生になったばかりで、入学してから今日まで無遅刻無欠席をほこっているのだ。その記録をこんなことで台無しにしてしまうなんて、冗談でもありえない。
「バカ明日花!1時間も前から起こしてるわよ。八つ当たりするな」
明日葉のいうことは最もだけれど、八つ当たりせずにはいられないのだ。たかが遅刻程度、一般的にはどうでもいいように感じてしまうことだが、私にとっては一生のお願いを使ってでもそれだけはまぬがれたいのだ。