垣間的かつ白夢的に
「どうする?メリッサの奴、もうアリス殺す気ないみたいなんだけど?」
流暢な英語をケータイ片手に呟いているのは、長身の少年。
『初めから期待していない。お前さんの好きにしろ』
ケータイ越しに轟く、野太い声。
『殺しても構わないし、連れ帰っても構わない。もちろん、犯しても構わないさ』
ハッハッハと、ケータイの向こうから野太い笑い声。
あまりの声の大きさに、少年は顔をしかめながらケータイを遠ざける。
「まぁ殺していいって言われてもさ、俺はメリッサのバカには勝てねェけどさ。でもま『賢者の石』は絶対に取り返してみせるよ」
『期待しているよ、ミスタ・シン』
それだけ残し、ケータイは途絶えた。
少年は静寂の中、ポケットから携帯用双眼鏡を取り出した。
百均とかによく売っている、プロ野球のスタンドで一度は必ず見かけるアレである。
「さぁて、俺の愛しい愛しいハニー&ダーリンはどっこかなァ?」
ニタリと不気味に微笑みながら、少年は双眼鏡に目を通した。
その先には――少年一人と少女二人がいた。
ダーリンとハニーは、一人の少年を囲んでいる。
「ふっふ〜ん、二人の美少女に囲まれる少年……羨ましいなぁオイ」
双眼鏡から顔を離し、もう片方の手を天高く掲げ、
「De nihilo nihil」
何かを呟いた。
直後、長身の少年の身体が薄らと、まるで煙が空気に拡散する様に、足下から姿を消していく。
「ハーレム状態を独り占めはいけないなぁ。羨ましい。俺も混〜ざろっと♪」
長身の身体が全く見えなくなるのと台詞の最後は、同時だった。
漆黒の闇を、少年は駆ける。
不可視の存在として――。