1-7 王都探索
「ほら、行くよ」
「はい。よろしくお願いします。セシルさん」
私はセシルさんと一緒に王都の探索に出ることになっていた。
朝起きてすぐに行われた班分けをどうするかの話し合いの結果でもある。
隠し通路を探しに行く班と食料調達班の2組、それと万が一に備えて地下酒場に戦える人間を1人以上残すという方針の下で誰をどう組み合わせるかを話し合った。
その結果、食料調達に私とセシルさん、隠し通路探索にライルさんとシルヴィアさんという組み合わせになったのだ。
理由は簡単。
王城勤務だった近衛のライルさんを王城で隠し通路探しに、魔術で物を浮かせられるらしいセシルさんを効率の観点から食料調達にして、その2人はそれぞれ固定。
それに組み合わせるように治癒を使える私とシルヴィアさんを振り分けた形である。
そもそも外に出ること自体がリスクだから、治癒の聖魔法を使える者を同行させて万が一に備えるべきだという意見が出て誰も反論しなかったのだ。
酒場の警備にはシラノさんが残ってくれている。
シスイたち3人はまだ目が覚めていないか戦える状態じゃないから休んでもらっている。
サヨは自衛もできないので当然酒場に居残りだ。
私自身も特にこの組み合わせに異論はなかったし妥当だと思った。
あとは、トコヨのおかげで私は広範囲の探索に向いているから、食料調達の役には立てるだろうなという自負もあって異議を出さなかったのもある。
『あの竜、まだいますね』
『……縄張りかなにかにでもしてるのかな?』
トコヨの言う通り、黒竜は昨日と同じように王都周辺を旋回していた。
でも、縄張りだからといってずっと旋回したりするものだろうか。
何かを探してる?
よく分からないな。
とりあえず見つからないようにしながら食料を探すしかないか。
「セシルさんは探す場所とかに心当たりはあるんですか?」
「もともと商家だった場所」
「……なるほど?」
商家となると、お店だった場所ってことだよね。
お店の商品だったものを集める、ってことでいいのかな。
「……なんでそこ行くのかわかってないでしょ」
「え、と……あはは、すいません……」
「……はぁ。滅びたのが1か月以上前だったってのはライルが言ってたでしょ。保存食として加工してないものはまず駄目になってる。保存食だって、あったならどの家も避難の時に持ち出してるでしょ。なら、緊急時に全て持ち出せてない可能性が高い商家を探すのが一番効率がいいってこと」
「おー……なるほど」
セシルさんの説明ですっと理解できた。
面倒くさそうにしていたのに、私が分かりやすいように順を追ってちゃんと説明してくれていた。
セシルさん、口下手なだけで優しい人なのかもしれない。
『トコヨは分かってた?』
『……私も当然わかってましたよ! うんうん。私が実際に探す立場なら、私だってそうします!』
この駄幽霊、私と同じで分かってなかったな。
でも、これならトコヨに探しに行ってもらったりしなくて大丈夫かな。
セシルさんは商家がどこにあるのかも分かってるみたいに迷いなく進んでるし。
避難民の人からあらかじめ聞いておいてくれたのかもしれない。
すごい。トコヨよりも頼りになる。
「ありがとうございます、セシルさん。すごく頼もしいです。私にできることは何でも言ってください!」
「……やりづらいな……とりあえず、倉庫が大きいところとか普段から在庫抱えてそうだったところとかは避難民に選別させておいたから、そのあたり順番に回るよ」
「はい!」
最初の方に呟いていたことは聞き取れなかったけど、食料が残ってそうな商家の選別までしておいてくれたらしい。
本当にセシルさんの言うとおりに動いてれば食料はどうにかなりそうだ。
集めるときとかはセシルさんの負担をなるべく減らせるように私も頑張ろう。
『ミコトー。こっちのも大丈夫じゃないですか?』
『この後見てみる。ありがとうトコヨ』
商家の地下倉庫の中で、保存食を選別していく。
食料は思いのほかすぐに見つかった。
一件目に行った大きな倉庫がある商家は、荒れ放題でもう誰かが食料を漁って持って行ったあとだった。
だけど、二件目に行った在庫が多そうだった商家は地下倉庫を持っていたみたいで、施錠までされていた。
それをセシルさんが魔術で破壊して倉庫に入ったら、ほとんど手つかずの状態で倉庫の物が残っていた。
盗んでるみたいで気が引けるけど、今は緊急事態だから仕方ないと自分に言い聞かせながら食料を選んでいく。
『あ!! ミコト! 蜂蜜がありますよ! 蜂蜜! これ!! これ持っていきましょう!!』
『蜂蜜!?』
トコヨの言葉に思わずそっちを振り向いてしまう。
神社ですら滅多に食べられなかった甘いものの中でも筆頭格で大好きな甘味だった。
蜂蜜を使った甘いお菓子はトコヨも好きみたいで、食べられるときは一緒に楽しむのがいつもの流れだった。
思わぬところで好物を見かけてそれも持っていく方に足してしまう。
「選別したのはこの陣の上にまとめて――って、なにしてんの」
「へ?」
「……一応言っておくけど、蜂蜜は駄目だよ。嵩張る、重い、腹持ちしない。ただの旅とかならいいけど、あの竜の襲撃のリスクとかがある状態で持ち運ぶものじゃないから」
「……そうなんですか?」
セシルさんの説明に気落ちしてしまう。
そっか……ダメなんだ……残念……。
「……~~っ……はぁ……そんな露骨にしょんぼりしないでよ。少しならいいからこの街から出るまでに優先的に消費して、余ったら置いていく。それでいい?」
「……! はい! ありがとうございます!」
少しならいいというお許しをもらえて、思わず笑顔になってしまった。
蜂蜜……何で食べよう。
パンにかけるだけでも美味しいし……あ、でも今は乾パンしかないのか。
でも、それでも蜂蜜があれば美味しいだろう。
「ほら、いいから。早くこっちの魔術陣にまとめたもの載せて」
「はい!」
呆れたような表情のセシルさんが急かす様に声をかけてくるのを受けて、言われた場所に食料を運びだす。
大き目の布に聖魔法とはだいぶ違う形の陣が刻まれている。
これが魔術陣らしい。
その上に選別したものが収まりきるように載せていった。
私とセシルさんはお昼過ぎくらいには拠点の地下酒場に戻ってきていた。
気を失っていた人たちもシスイ以外はもう目が覚めていて、シスイには戻ってからすぐに治癒の聖魔法をまたかけておいた。
持って帰ってきた蜂蜜とかも使って保存食も食べた。
サヨと一緒に久しぶりの甘味に舌鼓を打ったけど、やっぱり甘いものはいいなと実感した。
トコヨは特に、旅の最中でもしょっぱい保存食に結構文句を言ってたから、味覚共有で甘味を堪能して嬉しそうにしてたし。
まだ戻ってこないシルヴィアさんたちの分の蜂蜜はちゃんと残してあるからそこは安心だ。
そんな感じで、シルヴィアさんたちを待っていたんだけど……
「あの、セシルさん……いくら何でも遅くないですかね……」
確認してみたけど、外はもう日も暮れて真っ暗になっていた。
月明り以外の明かりが全くないせいで、まともに足元すら見えなそうな状態だ。
それなのに、シルヴィアさんとライルさんは、まだ帰ってきていなかった。
セシルさんは無言で扉の方を見つめている。
「……」
「何かあったのかもしれませんし……探しに行った方が——」
「駄目」
私が提案すると、セシルさんは即座に却下してきた。
でも、さすがにこの状況で、いつまでも帰ってこないとなると心配だし……
「でも……」
「……私だって面倒くさいからダメって言ってるわけじゃないよ。じゃあミコトは、この暗闇の中で仮に探しに行くならどうするつもりなの」
セシルさんは逆に問い返してきた。
でもそこは問題ない。
いくら暗いと言っても、聖魔法なら光弾を明かりのように使って周囲を照らすことができる。
「私は聖魔法が使えますから、暗闇とかは——」
「はい駄目」
「え……」
「あのさ、聖魔法で明かりを出せることくらい私も知ってるよ。シルヴィアが散々やってるのを見てきた。で、今私たちは何から隠れてるのさ。この暗闇の中で明かりなんか出したら居場所を竜に教えてるようなもんでしょ。発見されるリスクが高すぎる」
言われてから気づいた。
反論なんてできなかった。
何もかも、セシルさんが言っている通りだった。
セシルさんのさっきの感じからして、全く心配してないわけじゃないと思う。
心配してなかったら、扉を見つめたりなんてしないはずだ。
それでも彼女は、現実的なリスクという面から考えていた。
「それに……この街おかしいんだよ。夜は行動するべきじゃない」
「おかしい……?」
セシルさんが呟くように続けた言葉を、そのまま繰り返してしまう。
どこかおかしいところなんてあっただろうか。
あの黒竜の影響と思われるものは散見されたけど、他におかしいところなんて……
「……私の勘違いならいいけど、街が綺麗すぎる」
「綺麗すぎる……?」
「そ。じゃあ聞くけど、ここにいる全員、あの黒竜の襲撃を受けてからこの街で死体とか見たことある?」
セシルさんが、私、サヨ、自警団員、避難民と順番に見渡していく。
だけど、見たことがあると口にする人はいなかった。
そこまで言われて、ようやく気付いた。
黒竜に襲撃されて、王都をめちゃくちゃにされたはずなのに、私たちの故郷の神社と同じような被害にあったはずなのに、“死体が一つとして落ちていない”。
「そういう、ことですか……?」
「死体が魔物に食われただけとかならいいよ。だけど、もしそうじゃないのにその辺に転がってた死体が消えたとしたら……ここから先は、神官のミコトの方がよっぽど詳しいでしょ」
「アンデッドになっている可能性があると……?」
人が死ぬと、魂は世界樹に還って浄化され、輪廻を巡りまた子供として誕生する。
それがこの世の摂理だ。
だけど、それには例外がある。
未練が強すぎたり、オリツキ様が戒める七つの大罪を犯しすぎたりした場合に、うまく世界樹に還ることができずにその場にとどまって、アンデッドになってしまうことがあるのだ。
だから、人が亡くなったら巫女が遺体に浄化を施す。
万が一魂が遺体にとどまってしまっていても、浄化して世界樹に還りやすくすることで、輪廻に戻りやすくする。
でも、もしもそれすらできない状況だったなら……
「理解できた? 夜出ない方がいい理由」
「……はい。アンデッドは日の光を嫌う性質があるので、もしいるとしても、日中は隠れている可能性が高いですが……夜は……」
夜は、間違いなくアンデッドが徘徊しやすくなる。
セシルさんの予想が正しければ、遭遇してしまう可能性はゼロではないだろう。
「……大丈夫、ですかね?」
「あの2人、そんな風には見えないけど、あの年で近衛に入れた騎士と司祭に上り詰めた神官なんだから大丈夫でしょ。暗くなったから慎重になって朝を待ってるとかそのあたりなんじゃない?」
司祭、というのが何かは分からないけど、セシルさんのこの口ぶりからして、きっと年齢から考えるとあり得ない地位にいるということなんだろう。
その言葉を信じて、待つことしかできなかった。
それからしばらく待ったけど2人は帰ってくることはなくて、セシルさんにいつまでも起きてないで寝ろと言われて、いつのまにか私は眠りに落ちていた。




