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天青の巫女 ~箱入り少女とおちゃらけ幽霊の死に戻り救済譚~  作者: あじふらい
2.5章 間話

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EX2-7 特訓巫女少女

『トコヨにお願いがあります』


『……急にどうしたんですかミコト』


いい天気の今日は仮設神社前の広場に来ていた。

今日はこの後もう数刻したらここでサヨに聖魔法を教えることになっている。

それよりだいぶ前にここにきたのは、トコヨに教えてもらいたいことがあるからだ。


『私に聖魔法を教えてくださいっ!!』


『は……? えっと、今日はミコトがサヨに聖魔法を教える日だったと記憶していますが』


『私は考えたのです……この間のやり直し多発の原因を』


『……あれに関しては騎士団側もおかしかったので仕方ない部分もあるかと思いますが』


『トコヨちょっと黙ってて』


『はぁ……』


口を挟まれてテンポを崩されたからトコヨに言いたいことは言わせて欲しいと釘を刺す。

トコヨは凄く微妙そうな顔で口を閉じた。

表情は気に食わないけどとりあえず続ける。


『あれの原因は、私自身が取れる手段が少なかったせいもあると思ったんだよ』


『ふむ……それで?』


『だから、私ももっと高度な聖魔法とかを覚えて取れる手段が増えれば、もっとやり様はあったと思ったわけです』


『それでなぜ私に?』


『え? トコヨって私のご先祖様でしょ? 私とかお母さんと似てるし。あれ、この場合私とお母さんがトコヨに似てるってことになるのかな……?』


トコヨは私の子供の時と瓜二つの見た目だ。

私との違いなんて、目の色合いがトコヨが黒、私が黒に近い紫っていう部分くらいしかないと思う。

お母さんなんて目も黒だったから、お母さんの幼少期はさらにトコヨに近い容姿だったのではないだろうか。


『ん、ん~~……ご先祖様……ご先祖様って言っていいんですかねこれ……とはいえミコトが私に似ているのは事実……うん、そういうことでいいです』


『なにかニュアンスの違いがあったの?』


最後には肯定したから血縁ではあるんだよね?

渋ったってことは、私が直系でトコヨはどこかの傍系?

でもご先祖様に近い関係であることには変わりないよね多分。


『というわけで、尊敬すべき古き良き巫女様が知ってるすごい聖魔法が知りたい! ってことなんだけど』


『言い方がだいぶ気になりますが……まぁ、いいですよ。ミコトが知らない聖魔法も知ってますし』


『やった!』


相談してみるものだね!

お母さんが亡くなってから誰かに教えてもらうとか考えてもいなかったけど、よくよく考えたら私にはトコヨがいた。

あまりにも友達って感覚が強すぎて完全に選択肢から除外されていたのだ。

故郷でお母さんに指導されてる時に助言をしてくれたこととかもほぼなかったし。


『そうですね……じゃあ今回は自己防衛手段を増やす方向でいきましょうか』


『防衛手段?』


『ミコトがミスズから教わったのは治癒や浄化系統に儀式、それと最低限の防衛手段として光弾ですよね? 筆頭巫女の教育の慣習がそうでしたし』


『うん。大体そんな感じ』


『魔物相手ならこれで事足りるとは思います。だからこそ少数の魔物以外の危険がなかったあの辺境ではそれしか教えてなかったわけですし』


当たり前に受け取ってたけどそういう感じの経緯だった、のかな?

まぁ口振り的に、認識されてなくても長年巫女を見守ってきたであろうトコヨがそう言うならそうなのか。


『今回問題になったのは弱点を的確に狙ってくる人間が相手になったからですね。こうなると、自衛手段として光弾では足りないと思います。なので、盾を増やしましょう』


『盾?』


『そうです。相殺するのではなく、自身に向かってきた脅威を弾く盾だと思えば分かりやすいです。光盾って言うんですけど……まぁ、治癒よりちょっと難しいくらいなのでミコトならすぐ使えると思いますよ』


お母さんが使ってるのは見たことがない……というか、トコヨがさっき言ってたことからして筆頭巫女の教育から外れてた魔法ってことだもんね。

ならお母さんが知るわけないか。

となると……あ、あれか。


『もしかしてラースさんが使ってたみたいなの?』


『ラース……ラース……あぁ、あれですね。はい。ちょっと形は違いますし、形式からして別系統だとは思いますが、似たような感じの聖魔法です』


ラースさんが私とシルヴィアさんの光弾とリーゼちゃんの風魔術を全て防いで見せた光の壁を思い浮かべて聞いてみたら案の定そういう術だったらしい。


『この魔法はオリツキ様と初代筆頭巫女のヘレナ・アメノが一緒に考案したものと伝わってます。まぁ継承を途絶えさせた時点で伝わってるもクソもないんですけど』


『クソって……口悪いよトコヨ。とはいえ、初代様か……家系図くらいでしかお名前も見たことがないかも』


『そりゃそうですよ。初代って3000年くらい前ですし。伝わってるものの方が少ない……あぁ、でも家訓はちゃんと初代から全部伝わってましたね』


『それが初代様からなのは私も知ってる』


逆に言うとそれくらいしか伝わっていないともいう。

それくらい3000年っていう時は長い。

3000年続いてる巫女が凄いとも言えるのかもしれないけど、それは多分神官もそう変わらない。

イリスさんが174代目の教皇とか言ってたし。

オリツキ様が考案に関わっているっていうのに関しては、聖魔法はそもそも神のお力を間借りする力でしかないんだから考案に絡んでいても妥当としか思わないし納得。

そんなことを考えていたら、トコヨが正面に回り込んできた。


『じゃあまずは魔法陣を使う方法からやって、それが出来たら詠唱と祈りだけ、詠唱だけで出来たら祈りだけでやってみましょうか』


『うん! お願いします!』




「穏やかなる守りの光よ、我が前に集いたまえ——」


教えてもらった通りに詠唱して手をかざすと、手の少し前に透き通った丸い光の盾が形成された。

トコヨの言う通り、割とあっさりと。

祈る時間を長めにするかどうかで盾の大きさが変わるっぽい。

祈りと詠唱がほぼ同じくらいの長さで使えば掌よりも少し大きい程度、祈りをたっぷり長めに20秒くらいやれば私の身体全体を覆うくらいはできそうな感じだった。


『うん、よさそうですね。じゃあ次は祈りだけでやりましょうか。多分大きさのコントロールが無詠唱の方が難しいはずなので』


『やってみるね——』


目を閉じてオリツキ様に祈る。

大切な人を危険から守ってもらうための祈りを捧げる。

誰かが理不尽な攻撃にさらされないように……

そうやって祈っていたら、少しして掌よりもだいぶ小さい光の盾が形成された。


『……あれ、なんか小さい?』


『うーん……もしかしてなんですけど、ミコトの祈り方がよくないのかもですね』


『えっ』


『あ、貶してるとかじゃないですよ? この魔法は基本的に自分の身を守るためのものなので、他人の身の安全とかそっちの方向の祈りだとズレてるんですよ。自分と誰かとかなら大丈夫だとは思いますけど、誰かだけだと趣旨が変わってくるので』


『びっくりした、そういうことか』


そういうことなら納得できる。

無詠唱だと魔法陣と詠唱を使わない分祈り方とか祈りの純度が魔法の効力にダイレクトに効いてくるし。

トコヨに言われた通りにやり直してみる。

オリツキ様に、私自身を助けてもらうための祈り……私と大切な誰かを助けてもらうための祈り……

それを意識して——

その数秒後に、さっきの数倍の大きさの光盾が形成された。


『はい、もう習得でいいですね。パンパカパーン! おめでとー! おめでとー!』


『ありがとう、ではあるんだけど……トコヨふざけてるよね』


投げやりな感じが凄く駄幽霊。

教えてもらった手前何も文句は言えないんだけど。


『あはは。まぁでも、やっぱりミコトは筋がいいですよ。祈り方とか言われても普通こんなにすぐに修正できるものじゃないですし』


『そうなの?』


『そうなんです。そもそも、ミコトの祈りは純度が凄い高いですし。お祈り中に余計なことを考えてること自体少ないのがいいですね。これもミコトの昔からの鍛錬の賜物ですよ』


『……ありがと』


『まぁミコトだけじゃなくてシルヴィアもなんですけどね。クロード絡み以外の祈りの純度に関してはあの子もなかなかのものですよ』


『私もそう思うけど、クロードさん絡み以外なんだねやっぱり……』


『むしろミコトはあの子のクロード絡みの祈りが純粋だと思うんですか?』


……目を逸らした私は悪くないと思う。

不純とまでは言わないし、クロードさんに喜んでもらいたいとかそういう方向ではあるだろうけど、やっぱりあわよくばっていうのが混ざってるもんねいつもの感じだと。


「ミコト様―! お待たせしましたー!!」


「ちょっ、サヨ。飛びついたら危ないよ」


飛びつくようにして抱き着いてきたサヨを抱きとめる。

いつの間にか結構時間が経っていたらしい。

それじゃあ今度は私が指導側だ。


「じゃあ始めようか。サヨ、魔法陣を使う治癒の聖魔法は使えるようになった?」


「はい! この間ミコト様に魔法陣の綺麗な書き方を教えていただいてから使えるようになりました! 今日は魔法陣なしでのやり方を教えてくださるんですよね!」


「うん。この前説明した通り、魔法陣なしでやろうとすると、正確な詠唱と純度の高い祈りが重要になるの。無詠唱よりも祈りの純度の要求値は低いけど、それでも雑念はできるだけ消さないとダメ。なるべく余計なことを考えないお祈りの練習、ちゃんとしてきた?」


「……多分、大丈夫だと思います。多分ですけど」


ちょっと自信なさそう。

まぁ最初はそんなものだよね。

とはいえ、あらかじめ書いておいた魔法陣を使ってそこを起点・補助にして発動する形式で使えたなら、ちゃんとお祈りができてれば、祈りと詠唱で魔法陣の形成までまとめてやる魔法陣省略形式もできるはず。


「それじゃあ、詠唱を確認したら一緒にやってみようか。使わなくていいから、詠唱だけ言ってみて」


「えっと……穏やかなる癒しの光りよ、かの者を癒したまえ——ですよね」


「うん。淀みなく言えてるね。大丈夫そう。それじゃあ次はお祈りと併せて、魔法陣を思い浮かべながらその詠唱をやって、ちゃんと魔法を使ってみようか」


「……やってみます」


そう言ってサヨは目を閉じた。


「穏やかなる癒しの光りよ、かの者を癒したまえ——あ、あれ?」


……全く魔法陣が出てこない。

魔法が起動してない。

祈りの問題?


「うーん……一応、もう一回やってみてもらってもいい?」


「あ、はい……穏やかなる癒しの光りよ、かの者を癒したまえ——…………ダメ、ですね。あれぇ……?」


詠唱は間違ってない。

となると、祈りの方の問題でしかないと思うんだけど……まったく発動の兆候がないのはどういうことなんだろう。

サヨはそのまま何度も挑戦し始めていた。


『えっと、トコヨ、何が問題か分かりそう?』


『……いやぁ……これは、どう言ったらいいんですかね……これで発動させちゃっても後々困りそうですし、ちゃんと根本原因を叩かないと……でもこれを矯正しきるのもそれはそれで……うーん……』


『……トコヨは何が原因か分かってるってこと……?』


『まぁ、大体分かるというか、想像がつくというか……ミコト、この子の問題をどの程度把握できてます?——あ、問題って今の祈り方だけの問題じゃないですよ? この子の傾向全般の話です』


傾向?

祈り方に限定してきてないってことは私生活のことだよね。

トコヨが問題と捉えそうなことというと……


『もしかして、私への依存のことを言ってる?』


『あ、ちゃんと分かってたんですね。よかったよかった。そうそう、この子ミコトに完全に依存しちゃってるんですよ。まぁ状況が状況でしたし、両親が亡くなってから同性のミコトが姉代わりみたいな感じで優しくしてあげてたから仕方ない部分はあるんですけど。問題は……その依存が多分だいぶおかしな方向に飛躍してることですかね』


『飛躍?』


『……うん。ミコトが正確に状況を理解した方がいいと思うので、そのための方法を教えます。サヨに詠唱じゃなくて祈ってる時に考えてることをそのまま口に出させてみたらいいと思いますよ』


『え? それだけ?』


『はい。それだけです』


それで何が分かるというのだろうか。

まぁ試してみるか。


「サヨ、ちょっとお祈りの仕方に問題がないかを把握したいから、お祈りの時に考えてることをそのまま口に出してみてもらってもいい?」


「えっ……そ、それは……」


「あ、ごめん。恥ずかしかったかな」


「…………いえ。やります」


少し悩む様子を見せてから承諾してくれた。

サヨが静かに目を閉じて、少ししてから口を開いた。


「——ミコト様! 私に祈りを教えてくださってありがとうございます! 私を助けてくださってありがとうございます! だから今度は私がミコト様を癒したいんです! ミコト様の傷を塞ぎたいんです! ミコト様の痛みを消したいんです! どうか私の祈りが届きますように!! どうかミコト様がずっと笑っていてくださりますように!!!」


「へ……?」


『……うん、まぁ、こういうことですよ』


目が点になってしまうほど呆然としてしまった。

これが、お祈り?

なぜか私に対して感謝を捧げて、私を助けようとしている感じだったんだけど……


「えっと、サヨ?」


「は、はい!」


「お祈り、だよね……?」


「お祈りです!」


「オリツキ様に、祈ってる……?」


「……あ」


私が一番気になったところを聞いてみると、サヨが固まった。

うん。オリツキ様のお力をお借りするのに、オリツキ様に祈ってないんじゃ論外だよね……


『今の内容も、一応治癒してあげたいっていう祈りではあるんですよ。だいぶ歪んだ盲執っぽい何かが混ざってはいましたけど。対象がアレなだけで。なので、せめて最初に短くてもちゃんとした祈りを挟むように教えてみたらどうですか?』


『トコヨこれを察してたんだね……なんか、依存どころか崇拝になってきてる気がする……とりあえず、今はそれで教えてみようかな』


そう思って、サヨの方をまっすぐ見つめる。


「サヨ、私たち巫女が使う聖魔法は、オリツキ様のお力を間借りするものです。私の力でも、サヨの力でもありません。まずその前提を忘れないこと」


「はい……申し訳ありません……」


「ちゃんと最初にオリツキ様に祈りを捧げること。お力を貸してくださるのはオリツキ様。そのオリツキ様に祈りを捧げないと、魔法が発動するはずがありません。分かりましたか」


「はい……」


サヨがしょんぼりしてしまった。

どうしよう……サヨの気持ち自体は嬉しいんだよね。私の痛みを無くしたいとか、私に笑っていてほしいとか言ってくれてたし。

気を持ち直してもらう方法が何かないか考えてみる。

少しの間考えて、思いついた方法は一つだった。

しょんぼりしてしまっているサヨに近づいて、静かに抱きしめる。

そのままゆっくり頭を撫でながら口を開いた。


「でも、私を想って祈ってくれてるのは嬉しかったよ。誰かを治してあげたいっていう祈りではあったから、内容自体はダメとは言わない。もう少しだけやり方を考えてみよっか」


「ミコト様……! はいっ!」


サヨが明るく返事をしてくれた。

元気になったみたいでよかった。


『……こういうことするから依存が深まるんですよミコト』


『え、何かダメだった……?』


『うーん……まぁ、ミコトのこれは美徳でもあるのでダメではないんですけど……』


『?』


要領を得ないな。

まぁいいか。


「じゃあ今の反省を活かしてもう一回やってみよっか、サヨ」


「はい!」


サヨが目を閉じた。

そのままゆっくり手をあげていく。


「穏やかなる癒しの光りよ、かの者を癒したまえ——」


詠唱を言いきると同時に、サヨの掌に緑色の魔法陣が浮かび上がった。

うん、規模は小さいけど成功だ。


「っ! や、やった! できましたミコト様!」


「うん! 成功成功! やったねサヨ!」


サヨがぴょんぴょん飛び回っているのを見てこっちも嬉しくなる。

まだ不安定そうだから練習は必要だけど、魔法陣なしで使えるようになれば見習いとしては十分だ。

トコヨの方をちらっと見たら、なぜか『納得しかねるけどまぁいいか』みたいな微妙に渋い表情に近い苦笑を浮かべていた。

どうしたトコヨ。……まぁいいか。

とりあえず私もサヨと一緒に一通り喜んで、そのまま安定化のための練習に移った。

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