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天青の巫女 ~箱入り少女とおちゃらけ幽霊の死に戻り救済譚~  作者: あじふらい
1章 巫女が治める辺境の里

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1-15 通路の最奥(前)

あらかじめ決めておいた隊列で通路を進んでいく。

隊列なんていっても、サヨを含めた非戦闘員が少し遅れてついてきて、最後尾に松明を持ったシラノさんたち自警団員3人が付いてくるというだけだ。

私とシルヴィアさんは万が一アンデッドが残っていた場合に浄化とかをできる可能性があるから、聖魔法で明かりを灯しながら、最前面を歩いてくれているライルさんとシスイについていっている。

セシルさんも私たちの近くを歩いていた。

そんな矢先に、通路の先に鎧のようなものが落ちているのが見えた。

シスイとライルさんが警戒しながら鎧に近づいていく。


「……これは」


「……近衛の鎧だ。通路の形からして、ここが前にアンデッドが待ち伏せしていた場所だな」


「ということは、私の儀式で浄化できた、と考えていいんですかね……?」


以前はアンデッドが装備していたであろうそれが落ちているということは、持ち主だった人の魂を浄化して世界樹に還すことができていると考えていい気がする。

臭いも前に来た時よりマシになっている気もするし。

臭いの根源であったアンデッドが浄化されて残滓だけになっているということだろうか。


「ミコトさんの儀式の効果は本物だったということですね。私も猊下の儀式を何度も見てきましたが、それに劣らない効力、荘厳さの儀式でしたし」


「ま、筆頭って言うくらいだしそりゃそうでしょって感じだけどね。神官のことは詳しく知らんけど」


「あ、ありがとうございます。ちゃんと力になれてよかったです」


シルヴィアさんが純粋に評価してくれて、セシルさんにぶっきらぼうに言い切られて、なんとも言えないむず痒さを感じる。

サヨとか村の人におだてられることはあっても、お母さんからはあまり褒めてもらえた記憶がない。

もちろん、成功した時とかにご褒美をくれたりはしていたから雑に扱われていたとかではないんだけど、筆頭巫女として必要な技量だと再三にわたって言われ続けて、毎日毎日練習と勉強漬けだったし。

神官としてしっかりとした役職を持っているシルヴィアさんにまでそう言ってもらえたというのは、私的に結構大きかった。


『ミコトミコト、照れてるところ悪いですけど、ちゃんと警戒はした方がいいですよ』


『て、照れてるわけじゃ……それで、警戒ってどういうこと?』


『多分全部が全部浄化できているわけではないです。大部分は浄化できているとは思いますけど。あくまで広範囲にある程度の効果の浄化を波及させているだけなので、未練が強かったりすると多分あれじゃ足りませんね』


『……うん、わかった』


多分言わなくても警戒してくれるとは思うけど、意識してもらっておいた方がいいか。

そう思って、検分している皆の方を向いた。


「この状況からして、あの儀式で大部分のアンデッドは浄化できたと思います。ただ、儀式も万能ではないので、未練が強い方などは浄化しきれていない可能性が高いです。警戒を続けて進んでいきましょう」


「あぁ、そうだな」


私の言葉にすぐにライルさんが返答してくれて、それに続くように皆が頷いた。

浄化が成功していたという事実に若干前向きになりながら、警戒しつつ歩き始めた。


しばらく通路を進み続けても、通路の中にはアンデッドは一切残っていなかった。

だけど、前を進む戦闘経験が豊富な人たちは、皆その気配を感じ取っていたと思う。

この先に、この先にある少し開けたエリアに、何かがいる。

そう思わせるほどの嫌な予感……気配のようなものを滲ませてきていた。

避難民の人たちをシラノさんたちに任せて、静かに通路の奥を伺う。

そこには、黒い骸骨のようなものが佇んでいた。

そのアンデッドは、以前通路で見たアンデッドたちよりも豪華な鎧をまとっていて、明らかに地位を持っている者のアンデッドであることが読み取れた。

骸骨の背後には華美な装飾が施された衣類やマントをまとっている遺体が転がっている。

その様子を見つつ、一度後退するかを考え始めたところでライルさんの絞り出すような声が隣から聞こえてきた。


「っ……よりにもよって、あんたかよ……隊長っ……!」




ライルさんを引きずるようにして、私たちは通路を少し後退してきていた。

明らかに力を持っていそうなアンデッドの存在。

聖魔法の明かりのせいでこっちに気づいているはずなのに、襲ってこないで待ち構えていたその姿。

どう対処するのかを話し合わないといけないと、動けなくなってしまったライルさん以外で頷きあって後退した感じだった。


「で? どうすんのあれ。近衛の隊長なんでしょ」


「ライルさんを指導していた方、ですよね……?」


「……あぁ」


セシルさんの率直すぎる切り出しと私の確認に、ライルさんは暗い表情で静かに頷いた。

それはそうだろう。

ライルさんを逃がしてくれた近衛の隊長さん。

あの日誌を残していた、近衛の中でライルさんに唯一真摯に向き合ってくれていた人。

そんな人がアンデッドになってしまっていたのだ。

ライルさんがこうならないわけがなかった。


「……はぁ。とりあえず情報まとめてこのまま行って勝てそうかどうかの判断くらいはするよ。対策必要なら対策考えないといけないし。どんな剣士で、どの程度の実力があったのさ」


「……隊長は、近衛の剣士としての技量が卓越してた。攻めというよりも守りに特化した、本当に陛下を守るための剣士だったんだよ。だから、こっちを攻めてくる脅威って言うよりも、立ちふさがった時の守りが脅威だ。あの人を放置してその先の通路になんていけるわけがない」


「へぇ? じゃ、どうすんのさ。あんた切り崩せんの?」


「……何度も打ち合ってきたけど、一回も勝てたことはない。それどころか、隊長の背後にある案山子を隊全員で連携してどうにか切り捨てろっていう連携訓練でも、案山子を守り切るほどの実力者だ」


ライルさんはそう言って俯いて、自分の震える手を見つめていた。

そんなライルさんを後目に、セシルさんは言葉を続けていく。


「単体じゃ無理、と。連携するしかないね。一応言っておくと、こんな古い地下通路じゃ私の魔術はあんまりあてにならないから。でかいの使うと崩落しかねないし」


「聖魔法も、浄化という意味では意味があるかもしれませんが戦力としてお役に立てるかと言われると……」


セシルさんは早々に自らをあてにしてもらっても困ると言って切って捨てた。

確かに言う通りで、あんな雷の魔術を使おうものなら地下の天井が崩落しかねない。

納得の分析だった。できても軽い援護くらいなんだろう。

それは私とシルヴィアさんも同じで、光弾をあの人の大きさしかないアンデッドと剣士が戦っている合間を縫って当てられるかと言われると疑問が残るし、戦力としてはほぼ意味がない存在だろう。


「……浄化……そうだっ……! なぁ、ミコト、シルヴィア、隊長を浄化してやることはできねぇか!」


「不可能ではありませんが、戦闘中などでは無理です。相手の戦闘能力を奪い、拘束することができれば、私はできます。ミコトさんも先ほどの技量からしてできると思います。そうですよね?」


「はい。落ち着いて浄化できる状況にしていただけるなら、必ず」


シルヴィアさんの確認に、私も力強く頷く。

巫女の大きな役目の一つでもあるそれは、お母さんに徹底的に仕込まれた。

落ち着いてやれる状況を整えてもらえれば、間違いなくできる。

ライルさんの期待に応えるためにも、自信があることを示す様に頷いた。


「隊長を浄化して、魂が世界樹に還れるようにしてやりたい。協力して欲しい」


「もちろんです!」


「というか、どのみちあれはどうにかしないといけないんだから、それが最短でしょ。だからどうするのか話し合うって言ってんじゃん」


ライルさんの決意したような言葉に、シルヴィアさんと私が頷きながら返すと、セシルさんがバッサリと切って捨てた。

相変わらずズバズバ言う感じだ。


「ライルさん。切り崩すのには、俺も協力させていただきます」


「シスイ、だったか。いいのか」


今まで黙って見守っていたシスイが、ライルさんに声をかけた。

ライルさんもあまり話していなかった人物からの声掛けに驚いたような表情をしていた。


「はい。俺は剣の腕には自信があります。対魔物戦を想定したものですが、自警団の団長であった父から、不在時に集落の警備を任せてもらえる程度の腕はあると思ってもらって結構です。伝え聞く話からして俺が決定打になることはないと思いますので、囮に使ってください」


「囮って……」


「それが一番確率が高いと思います。対複数戦で大剣使いを含めた騎士団員たちをさばき切るほどの技量となると、俺の細剣では決定打にはなり得ないでしょう。どうにか隙を作るので、ライルさんの大剣で決定打を」


その言葉に、ライルさんが考えこみだした。

セシルさんも、シスイの言葉を吟味しているようだった。

確かに、シスイの剣の腕は相当なものだと思う。

この旅の間、自警団員の中では一番若いシスイが指揮を執っていたのも、ひとえに剣の腕が最も卓越していて、状況判断能力もあったからだ。

彼の対魔物戦闘に関する認識は信頼できる。

アンデッドを魔物と言ってしまっていいのかは、ちょっと微妙だけど……


「ま、それが一番無難か。そっちのやつらは引き続き非戦闘員の護衛、私らであのアンデッドの攻略。中心はライルとシスイ。私とミコト、シルヴィアで魔術と聖魔法で気を散らすから、そいつが隙を作る。それであんたがどうにかしろ」


「……あぁ、そうだな。そうしよう。俺が、隊長を何とかして見せる。だから、すまん。囮になってくれ」


セシルさんの言葉を受けて、ライルさんは眉をひそめて目を閉じながら、そう言ってきた。

その結論に、誰も異論を挟むことはなかった。

一番合理的だし、一番成功率が高そうな作戦だ。

そして何より……多分だけど、アンデッドの「未練」という部分に、強く訴えかけることができる方法だと思う。

あの隊長さんの未練が、私の予想通りであればだけど……




再び5人で開けた空間まで歩みを進める。

私たちが近づいてくるのを見た黒い骸骨は、静かに剣を抜いた。


「あんたの命令通り、救援連れて戻ってきたぜ、隊長。……こんな形にはなっちまったけど、数か月ぶりの稽古、つけてもらおうじゃねぇか!!」

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