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天青の巫女 ~箱入り少女とおちゃらけ幽霊の死に戻り救済譚~  作者: あじふらい
1章 巫女が治める辺境の里

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1-12 隠し通路と対策

「次は……上から2段目の左から3番目の本を引き出して……燭台を右回転で反転して――」


シルヴィアさんが順番に仕掛けを動かしていくのを3人で少し離れたところから見守る。

万が一間違えた場合にどんな罠があるか分からないから離れていて欲しいというシルヴィアさんからの申し出に従った形だった。

周囲の本棚や燭台、絵画とかの仕掛けを順番通りに動かすためにシルヴィアさんがちょこちょこ走り回っている。

私の方が全然小柄ではあるんだけど、シルヴィアさんはなんというかそういう体格の話は抜きにしてもそう見えてしまう。

シルヴィアさんが最後と思われる仕掛けを動かしたタイミングで、床の違和感があった部分が地鳴りのような音を鳴らしながら動き出して、前に見たあの階段が姿を現した。


「よかった。あってました」


「よくやった堕神官。じゃあ一応中確認しに行くよ」


「だから堕神官では……」


「……中だいぶ暗そうだな」


「あぁ、それなら――」


ライルさんの言葉に、何度も繰り返しているやり取りを中断したシルヴィアさんが聖魔法で光弾を作り出した。

それを見ていると、どうしてもあの時のことを思い出してしまう。

腐臭と、矢と、列を為して迫るアンデッド。


「……っ」


思わず、足を止めそうになってしまう。


「ミコトさん? どうかしましたか?」


かけられた声に顔をあげると、シルヴィアさんが心配そうに振り返ってくれていた。


「……大丈夫です。ありがとうございます」


無理矢理笑顔を作って、前に進む。

正直に言えば不安でどうにかなってしまいそうだ。

だけど、今度は、あんな結果にならないようにしないといけない。

そう思って、拳を握りしめた。


3人は慎重にではあるけど迷わずに中に進んでいく。

どうすればいいだろうか……とりあえず階段を降り切る辺りまでは多分安全だしそこからアンデッドの溜まり場になっていることを示せれば、戦闘になる前に引き返してくれるだろうか。


『ミコト、早くいかないと置いていかれちゃいますよ』


『うん。行こう』


トコヨが促してくるのに応えてから、私も階段を下り始めた。




「うわ、なにこの血」


「完全に乾いてるな。最近ではあるんだろうが、ここ数日とかのもんじゃねぇな」


「……ここに入った近衛の方たちの物ですかね……?」


「でも、ここにも遺体がありませんよ?」


「……慎重に進むぞ」


前も見つけた階段を下りてすぐのところにある血痕に、他の3人が反応する。

私もアンデッドを匂わせるような反応をしておくけど、やっぱりこれだけだと引き返そうなんていうことにはならない。

まぁ3人からしたら避難民の非戦闘員10人以上を連れてここを通らないといけないから、安全に通れる場所かどうかを確認しないと意味がないから当然ではあるんだけど……

そう思いながら、3人についていく。


前回罠に嵌められた場所が近づいてきた。

既に腐敗臭も感じる。

3人もそれを感じているから警戒が強くなってる。

そろそろ頃合いかな。


「ちょっと止まってもらってもいいですか」


「ん? あぁ、どうした」


「いえ……その、進行方向から嫌な気配がする気がして……」


「嫌な気配……? この臭いと関係ありそう?」


結構強引な止め方にセシルさんが関連付けながら聞き返してくれる。

光弾を射出すれば流石に反応するよね……多分だけど。

セシルさんの問いかけに頷いて答えながら聖魔法で手に光弾を生成する。


『トコヨ……これ当てたら多分なりふり構わずに迫ってくるよね……?』


『おそらくは』


トコヨも私と同じ状況になると予想してるみたいだし、それも踏まえて皆に警告しておくか。


「……おそらく、アンデッドです。一応今から確認しますが、逃走の準備をしておいた方がいいかと。シルヴィアさん、明かりはこのまま任せても大丈夫ですか……?」


「っ……はい。浄化でどうにかできる数ではなさそうということですよね?」


シルヴィアさんの問いかけに頷きながら、光弾を遠距離でも当てられるように圧縮気味にして速度重視にして射出した。

威力はたかが知れてるけど、こうすると速度と距離は伸びる。

意図通りに光弾は前方の暗闇を照らしながらまっすぐ飛んでいった。


高速で飛んでいく光弾は、だいぶ遠くまでいったところでかき消された。

なんでかはすぐにわかった。

かき消される前に、明らかに待ち伏せするように配置された弓を持ったスケルトンと、その背後の通路を埋め尽くすような大量のスケルトンやゾンビのようなアンデッドの群れが見えたのだ。

おそらく、近接戦闘ができるアンデッドに何らかの手段でかき消された。

それを認識すると同時に、あちらもこちらが気づいていることに気づいたようで、大量の何かがこちらに動いてくる鎧や軍靴、骨の音が通路の中を反響するように響き始めた。


「引き返せっ!!!!!」


ライルさんがすぐさま叫んだ。

その声を聞くよりも前に、私たちは全員弾かれるように反転して全力疾走し始めていた。

あれは4人でどうにかできる数じゃない。

こんな狭い通路で、飛び道具まで持っているアンデッドの群れを相手に正面戦闘なんてとてもじゃないけどできない。

ましてや今の私たちは前衛が一人しかいない。

戦ったとしても不利過ぎた。


ライルさんが殿を務めるように走っていて、明らかに走り慣れていない私たち女3人に合わせてくれている。

たまに矢が飛んできているような音がするけど、当たりそうな気配はなかった。

そして、一気に階段を駆け上がって王城まで戻ってきた。

外の明かりが見えてきた辺りで背後のアンデッドが追跡してくるような音はしなくなっていた。




「ぜぇ……ぜぇ……っ、この通路使えないじゃん!!!」


「はぁ……ふぅ……王族の方が実際に使って、中で何かあったのかもしれませんね……」


セシルさんが、心配になるくらい息を切らしながら叫んだ。

私たちの中で一番体力がないのかもしれない。

彼女の表情は怒りに染まっていた。

全員が出てきているのを確認したシルヴィアさんが、隠し通路を閉じるためなのか開けるときに最後に弄っていた絵画を反回転させた。

それと同時に、通路の入り口は閉じていった。


「……見えた鎧が近衛の物だった。まず間違いなく、中で何かあったんだろうよ」


「ライルさん……」


ライルさんの表情は暗いものに戻っていた。

あれが近衛騎士団の鎧を着たアンデッドだったなら、その通りなんだろう。

思わず声をかけようとしたところで、ライルさんは俯きかけていた顔を上げた。


「っ……でも、ミコトのおかげで助かった! ありがとな」


「いえ、それは全然……」


明らかに空元気だった。

それでも、気丈に振る舞ってくれているライルさんに対して、私たちはこれ以上何も言うことができなかった。


「でも、おかしくないですか? あれは明らかに待ち伏せしていました。普通のアンデッドは、あそこまで明確な意図を持った行動は……」


「おかしいけど、今はどうしようもないでしょ。とりあえず暗くなる前に拠点戻るよ」


シルヴィアさんの疑問を、セシルさんは切って捨てた。

結局、頼みの綱だった地下通路は使えないってことになって、その場でできることはもうなかった。

外が夕暮れになってきているのもあって、セシルさんの提案通り拠点の地下酒場に戻ることになった。




あれから数日が経った。

それにもかかわらず、結局打開策は見つからなくて、方針は定まらないままだ。

空には依然としてあの黒竜が旋回していて、歩いて脱出するという選択肢はないものとして扱われている。

食料の補充とかには出てるけど、それだけだ。

シスイやシラノさん達も全員万全の状態で動けるようにはなったけど、前衛が4人増えたところであの狭い通路で戦略的な動きまで見せるアンデッドに勝てるかと言われると疑問符が浮かんでしまう。

そもそもあのアンデッドの戦略行動すら意味が分からないのだ。

これが通常通りの未練に執着したりしてるだけの知的行動ができないアンデッドだったらまだ打つ手があったけど、待ち伏せまでできるとなると流石に話は変わる。


シスイ達にも地下通路の事情は伝えて、皆でどうにか打開できる策はないかを考えていたけど、やっぱりネックはソルミア王国の避難民の人たちやサヨのような戦闘ができない人たちだ。

ライルさんが大真面目に穴を掘るかとか言い出したときは気は確かか心配してしまったけど、そういう変なことを言い出してもおかしくないくらいの八方ふさがりだった。

まぁ、あまりにもふざけた発言にセシルさんから凄まじい眼光で睨まれてたけど。


そんな時だった。

地下酒場でシスイたちと頭を悩ませていたら、トコヨが声をかけてきた。


『ミコト! ちょっといいですか?』


『どうしたの?』


『儀式をしましょう』


『儀式……?』


トコヨの唐突な発言に思わず怪訝な表情を浮かべてしまう。

そんな変化に目敏く気づいたシスイが、心配そうに声をかけてきた。


「ミコト様? どうかしましたか?」


「あ、いえ。ごめんなさい。なんでもないんです」


『トコヨのせいで変に思われちゃったでしょ。どういうことなのかちゃんと順を追って説明して』


表情を取り繕いながら内心でトコヨに文句を言いつつ続きを促す。

するとトコヨは、いつものふざけた雰囲気なんて全く感じさせないような真剣な表情で言葉を続けた。


『神社で最後にやった儀式をお城でやるんです。毎年やっていたあれなら、アンデッドへの効果も期待できます。それで地下通路を通れるようにしましょう』


『え……? あれ、アンデッドに効果があるの……? 治癒みたいな効果が周囲の人に出るのは知ってるけど……』


『というよりも、あれは余波で治癒みたいな効果が出ているだけです。魂の浄化の効果も同じように余波で出てるはずなので、大規模な浄化として転用できます』


トコヨも巫女服を着ているから巫女だっていうのは知ってたけど、そんなの私すら知らなかった。

お母さんは知っていたのだろうか。

正直お母さんから全てを教え切ってもらえたかと言われると分からないから、判断ができない。

筆頭にだけ伝えられてたこととかがある……?

それはいいとしても、そもそもなんでトコヨはそんなことを知っていたのに隠していたのか。


『どうしてもっと早く言ってくれなかったの?』


『リスクがあったからです。ミコトも知っていると思いますけど、あの儀式は他の聖魔法の比じゃない規模の陣や発光、周囲への視覚的な影響も出ますし、まず間違いなく竜に気づかれます。襲われかねないんですよ。だから言わなかったんです』


……一応筋は通ってる、のかな。

確かにあの儀式は広大な範囲に光の粒子が舞うし多大な発光とかも伴う。

竜が近くを飛んでいたら絶対に気づかれると思う。

腑に落ちない部分もあるけど、とりあえずそれで納得するか。

試してみるとしても、どう説得するかが問題かな……素直に提案してみるか。


「あの、皆さん。少しいいですか?」


「ミコト様?」


すぐ近くにいたシスイがすぐに反応してくるのを皮切りに、セシルさんたちも話を聞く体勢になってくれた。


「地下通路のアンデッドを、浄化できるかもしれない方法があります」


「……へぇ? 言ってみなよ」


皆驚いているけど、頭の整理を終えたらしいセシルさんが試す様に声をかけてくる。

聖魔法はセシルさんもそこまで詳しくないだろうから、多分そんなに根掘り葉掘り聞かれたりはしない、よね……?

私も知らないから聞かれても困るし。


「私が行うことができる儀式に、広大な範囲を浄化できるものがあります。その儀式を行って、アンデッドを浄化しましょう」


「儀式……? 浄化っていうから聖魔法だとは思ってたけど、本当にそんなことできるの?」


「……不可能ではありません。ありませんが……あの規模のアンデッドを一度に浄化できる程の儀式となると、それこそ、教会では猊下ぐらいしか行使した実績はないはずです。もちろん、行使できる方はいるとは思いますが、実際に行使したことがある者は数えるほどもいないと思います」


セシルさんの疑問に、シルヴィアさんが答えてくれてるけど……この感じ、シルヴィアさんも訝しんでないだろうか。

むしろシルヴィアさんの方が自身の専門分野だから、慎重に言葉を選んで補足している感じがする。


「その、猊下ってどなたのことですか……?」


サヨが恐る恐るといった感じで手を挙げて質問した。


「……猊下というのは、教皇猊下のことです。教会の指導者であり、全権を管理しているお方でもあります」


「つまり……」


「つまり、教会のトップレベルの上澄みくらいしかできない儀式なわけだ。本当にできるの? なんで今まで言わなかった?」


セシルさんが問い詰めるような感じで立て続けに質問をしてくる。

私のせいじゃないのに、なんで私が怒られるみたいな感じで質問攻めにされないといけないのか。

今まで黙ってたのはトコヨなのに……


「できます。集落を黒竜に襲撃された日に、実際に私自身がその儀式を成功させています」


「ぁ……じゃあ、ミコト様が言ってた儀式って……。そ、それなら、私もこの目で見ています。ミコト様は、筆頭巫女の……先代筆頭巫女のミスズ様と比べても劣らない……いえ、ミスズ様以上の出来で成功させていました」


サヨがつっかえながら私が実際にできていたと証言してくれる。

セシルさんとシルヴィアさんはサヨを見つめてその真偽や内容を真剣に考えこんでいるみたいだった。


「……じゃあ言わなかった理由は?」


「……竜に気づかれるリスクが高いからです。あの儀式は、他の聖魔法とは比べ物にならないほどの規模の陣や発光、周囲への視覚的な影響も出ます。どこで行使したとしても、気づかれる可能性が否定できないんです」


「具体的にどの程度の規模の影響が出るの?」


「えっと……」


「神社が小高い山の山頂付近にあって、その麓の集落まで光の粒子が降ってきていました。おそらくこの王都一帯は包めるかと。地下通路の位置や長さは把握していませんが、儀式を行う場所を考えれば地下通路をカバーすることができるのではないですか?」


私が言葉に詰まったら、シスイが補足するように証言してくれた。

そこまで言われると、セシルさんとシルヴィアさんも一応は納得したみたいだった。


「……それだけの規模の儀式となると、結構な準備がいるのではないですか? 猊下が行う儀式でも大規模なものでは相当な準備が必要となりますが……」


「……えっと……はい。必要になると思います。複雑な聖魔法の陣も一から記憶を頼りに書く必要がありますし、必要なものなどもあるので……」


シルヴィアさんの確認に、静かにうなずく。

準備は間違いなく時間がかかる。

無いものはこの街で探すなり作るなりしないといけないし、なにより、神社では神楽殿の床にあらかじめ描かれていた聖魔法の陣を私自身が記憶を頼りに書かないといけない。


『……協力してよ、トコヨ』


『もちろんです。どーんと私に頼ってください!』


本当に大丈夫かな……一応信じるけど。

私が内心でトコヨとやり取りをしていると、ライルさんが立ち上がった。


「じゃあその方針で行くか。ミコトはこの後必要なものとかを教えてくれ。皆で協力して調達しよう」


「はい」


しっかりと頷いて同意の意志を伝える。

それで必要なものをちゃんと洗い出さないといけないなと思っていたら、サヨが私の目の前に駆け寄ってきた。


「あ、あの! ミコト様!!」


「ど、どうかしましたか? サヨ」


「その、私……い、今まで申し訳ありませんでした!」


「へ……? それはなんの謝罪ですか?」


サヨの急な謝罪の訳が分からなくて、思ったことをそのまま返してしまう。

だけどサヨは下げていた頭を勢いよくあげて、言葉を続けた。


「お母さんが死んじゃって、村があんなことになって、私、ずっとふさぎ込んじゃって……ミコト様に甘えて……でも、ミコト様も、同じだったことに気づいたんです。ミコト様も、お母様を亡くされて、ミコト様自身が、浄化までして……私よりも、ずっと――それなのに……私は……甘えるばっかりで……」


サヨの手も、声も、震えている。

泣きそうになっているのを我慢しているんだろう。

多分相当無理して言ってくれてるんだろうなっていうのが、分かってしまう。


「私も、ミコト様のように前を向きます! 見習いでしたけど、私だって巫女なんです!! 儀式の準備も、あの日、お母さんと一緒にしました!! 私も、お手伝いします!!」


「サヨ…………ありがとう」


少しかがんでサヨの視線に合わせて、サヨを抱きしめる。

サヨの震えと一緒に、小さな温もりまで伝わってくる。

彼女の気持ちが、素直に嬉しかった。


「それじゃあ、サヨも一緒に、必要なものをまとめるところから手伝ってください。……頼りにしてますね」


「はいっ!」


満面の笑みでサヨが頷いてくれる。

そのまま2人で、ライルさんの方に移動した。

この状況を打開するためにも、どうにかあの日の儀式を再現しないといけない。

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