第5話:來未の見合い予定相手、キザな課長乱入
「佐々木さん、来客です。」
來未がデスクで資料を整理していると、受付の後輩がそっと声をかけてきた。
「私に?
誰?」
「えっと……
桐生課長という方です。」
「……桐生課長?」
來未は一瞬、誰のことか分からなかったが、次の瞬間、脳内で警報が鳴った。
(……ああああ! もしかして、あの!?)
桐生淳一――。
それは、つい最近まで來未の父親が見合い相手として押していた男の名前だった。
「……えっ、なんでわざわざ会社に!?」
「それが……
受付で『ぜひご挨拶したい』と言われて……」
「はぁぁぁぁ……」
來未は深いため息をついた。
これは、間違いなく面倒なやつだ。
◆キザな課長、登場
応接室に行くと、そこにはスーツをピシッと着こなし、いかにもエリート然とした雰囲気の男が座っていた。
「やあ、佐々木さん。
お久しぶり。」
桐生課長は、ニコリと微笑みながら立ち上がる。
その動作すらも計算し尽くされたスマートさを感じさせる。
來未は、すでに面倒くさいオーラを察知していた。
(うわ……相変わらず、妙にキザ……)
「桐生課長、お久しぶりです。
今日はどういったご用件で?」
來未が営業スマイルを浮かべながら尋ねると、桐生はゆっくりと微笑んだ。
「いやね、先日お見合いの話が流れたと聞いてね。
まさかと思ったが、君……
本当に婚約したのかい?」
「え、ええ、まぁ……」
「でも、驚いたよ。
お見合いの話をしていた時は、そんな気配もなかったのに。
まさか、幼馴染の人と婚約とはね……?」
來未は、背筋に冷たいものを感じた。
(……この人、絶対疑ってる……)
「まぁ、こういうのはタイミングってありますから……」
來未が適当に流そうとすると、桐生はくすっと笑った。
「僕としてはね、君がもう少し賢い選択をすると思っていたんだが。」
「……は?」
「いや、ほら。
君のお父様はこの界隈でも有名な方だし、君もそれなりの立場にいる。
結婚するなら、相応の相手を選ぶべきじゃないか?」
「……つまり、私が雄二を選んだのは、賢くないってことですか?」
「まぁ、端的に言うと、そういうことになるね。」
來未の眉がピクリと動いた。
(……こいつ、ほんとムカつくわ。)
元々、桐生のことは好きではなかった。
確かに仕事はできるし、見た目も悪くない。
だが、この圧倒的な自信過剰ぶりと、自分が一番正しいと思っている感じがどうにも気に食わない。
「ご忠告ありがとうございます。
でも、私の人生の選択は、私が決めるので。」
來未がピシャリと言い切ると、桐生は少し目を細めた。
「ほう……」
そのまま桐生は何かを考えるように來未を見つめる。
(うわ、絶対諦めてない顔してる……)
そんな來未の不安を裏付けるように、桐生はゆっくりと口を開いた。
「じゃあ、一度、お相手の方とお会いしたいな。」
「……え?」
「せっかくだしね。
僕としても、君が本当に幸せな選択をしたのか、確かめたいんだよ。」
(はぁぁぁ!?!?!?)
來未は頭を抱えたくなった。
このキザ課長が、わざわざ雄二に会いに来る!?
「えっと……
それは、必要ないかと……」
「いやいや、君のお父様も僕に『ぜひ一度、お二人に会って話をしてやってくれ』と仰っていたし。」
(お父さぁぁぁぁぁん!!!)
來未の心の中の叫びが、会社の屋根を突き抜けていった。
「というわけで、近いうちにランチでもどうかな?
君と、君の婚約者の方と三人で。」
桐生は優雅に微笑んだが、來未には全く優雅に見えなかった。
◆一方、雄二サイド
「で、そういうわけで、キザな課長が会いたいって言ってるんだけど。」
夜、家に帰った來未は、雄二に報告した。
「は?
誰だよ、そいつ。」
「お見合い相手候補だった人。
うちの親が結構気に入ってたみたいで……」
「へぇ。」
雄二はビールを飲みながら適当に相槌を打つ。
「で、どうするんだ?」
「どうするも何も……
会わなきゃいけないっぽいんだけど。」
「俺、そういうの面倒くせぇんだけど。」
「私だって面倒くさいわよ!!」
來未はソファにダイブした。
「でも、お父さんがその人に話を通しちゃったから、断るのも変な感じだし……」
「はぁ……
ったく、余計なことしやがって。」
雄二は頭を掻いた。
「まぁ、しょうがねぇな。
適当に会って、適当にやり過ごすか。」
「ほんと?
ありがとう、雄二!!」
來未は思わず雄二の肩をポンポン叩いた。
「おい、俺にばっかり面倒事押し付けんなよ。」
「仕方ないじゃん!
だって、偽の婚約者だもん!」
「……お前、そろそろその『偽』の部分を何とかしろよ。」
「え?」
雄二は少しだけ、來未をじっと見つめた。
「……いや、なんでもねぇ。」
雄二はビールを一気に飲み干した。
こうして、來未と雄二、そしてキザな課長・桐生の三者会談が決定してしまった。




