第8話:思わぬキス未遂事件
「……くっそぉぉぉ!!!」
來未は、自室のベッドの上でゴロゴロと転がっていた。
(なんで雄二の言葉でこんなにモヤモヤしてんのよ、私!!!)
——「俺は、お前を選んだんだけどな。」
あの時の雄二の声が、頭の中で何度もリピートする。
(いやいや、ただの偽装婚約でしょ!? 雄二だって深い意味なく言っただけじゃん!?)
來未は枕を抱きしめながら、自分の顔が熱くなっているのを感じた。
(……でも、もし本当に、雄二が私を選んだとしたら?)
(いや、そんなことあるわけ——)
「……ああああああ!!!」
來未は勢いよくベッドから飛び起きた。
(だめだ、こんなこと考えてたら寝れない!!)
時計を見ると、もう23時を回っている。
(とりあえず、リビングに行ってクールダウンしよう……)
來未はふらふらとリビングへ向かった。
◆酔っ払い來未、暴走
リビングに行くと、雄二はソファでビールを飲んでいた。
「……お前、まだ起きてたのか?」
「……うん。」
來未は冷蔵庫から缶チューハイを取り出し、プシュッと開ける。
「お前、飲むの?」
「なんか、飲まなきゃやってられなくて。」
「……は?」
來未は勢いよくチューハイを飲み、ぷはぁっと息を吐いた。
(もうこうなったらヤケ酒だ!!)
「お前、そんな飲むタイプじゃなかっただろ。」
「今日は飲むの!
ほっといて!」
來未はぐびぐびとチューハイを飲み続け、30分後——完全に酔っ払った。
「ねぇ、ゆーじ……」
「……お前、もうやばいな。」
雄二はため息をつきながら來未を見た。
顔はほんのり赤く、目はとろんとしている。
「んふふ……
ちょっと、聞いてよぉ……」
「はいはい、なんですか。」
「なんでさぁ、男の人って、キスできないとすぐ離れていくの?」
「……は?」
「私さぁ……
いままでキスすらしたことないのにさぁ……
すぐ振られるの!!」
「……まぁ、キス禁止ルールのせいだろ。」
「ちぇー……
そんなの、どうでもよくない?」
「お前、それ言い出したら、お前の人生設計全部崩れるぞ。」
「んー……
じゃあさ、試しにさぁ……
キスってどんなもんか、やってみない?」
「……は?」
「いや、だから!!
ちょっと試してみるだけ!!!」
來未は、雄二の顔をじっと見つめる。
雄二は、その言葉に一瞬フリーズした。
「……お前、マジで言ってんの?」
「うん。」
來未は、ふにゃりとした笑顔を浮かべながら、じわじわと顔を近づけてくる。
「おいおいおい……」
雄二は動揺しながらも、すぐに來未の額をペチンと軽く叩いた。
「痛っ!」
「バカ。
そんなの、試すもんじゃねぇよ。」
「えぇ~……
ケチ……」
「ケチじゃねぇ。」
雄二はため息をつきながら來未の肩を押し、適度な距離を取った。
「お前さぁ……それ、俺じゃなかったら危なかったぞ?」
「んー……?」
「俺だからまだ笑って流せるけど、他の男だったらどうなってたか分かんねぇぞ。」
「……そっか……」
來未は、ぼんやりと雄二の顔を見つめる。
(……なんでだろ。)
雄二に止められて、ホッとしたような、でもちょっと寂しいような……そんな気持ちになった。
(私、ほんとにどうしたいんだろ……)
「ほら、お前もう寝ろ。」
「はぁい……」
來未は、ふらふらと立ち上がり、自室へ向かった。
背後で雄二が、深く息を吐いたのを、彼女は知らなかった。
◆雄二の独り言
來未が部屋に入った後、雄二はビールを一口飲み、静かに呟いた。
「……試しに、か。」
目を閉じて、さっきの來未の顔を思い出す。
(あんな顔で迫られたら、危なかったんだよ、バカ。)
雄二は、ゴロンとソファに横になり、ドキドキと高鳴る自分の心臓を持て余していた。




