第2話:いざ実家へ、想定外の展開
「……なあ、やっぱり今からでもやめないか?」
週末の昼下がり、來未の実家へ向かう車の中で、雄二は運転しながら弱気な声を漏らした。
「は? 何言ってんの?」
「いや、お前の親父さん、めちゃくちゃ怖いんだよ。
小さい頃から何回も見てきたけどさ、俺が來未と婚約したなんて言ったら、絶対問い詰められるだろ?」
「大丈夫大丈夫!
うちの父さん、雄二のこと好きだから!」
「それが余計に怖いんだっての!」
雄二の頭には、小さい頃から來未の父親に怒られたり、叱られたりした記憶が鮮明に残っていた。
「男ならもっとしっかりせんか!」
「來未の手を引いて転ばせるとは何事だ!」
「お前がしっかりしてないから、來未がこうなるんだ!」
小学校、中学校、高校と、來未が何かやらかすたびに、なぜか雄二が怒られるのが定番だった。
「あー、やっぱりやめよう。
俺、今ならまだ間に合うよな?」
「は?
何逃げようとしてんの?」
「俺の人生が懸かってるんだよ!」
「私の人生も懸かってるの!」
「お前の人生はお前の問題だろ!」
「違うの!
今回は雄二の人生も一緒に巻き込むの!」
「おい、堂々と人の人生巻き込むな!」
そんなやり取りをしながら、來未の実家に到着した。
「ただいまー!」
玄関のドアを開けると、すぐに母親の明るい声が響く。
「あら!
來未、おかえり!
あらあら、雄二くんも!
いらっしゃい!」
來未の母、陽子は昔から変わらず明るく、そして世話好きだ。
幼い頃から雄二のことを「もう一人の息子」扱いしていた。
「久しぶりです、おばさん。」
「まあまあ、どうしたの二人とも?」
「実はね、お母さん……私たち、婚約したの!」
「……え?」
一瞬の沈黙の後、パァァァッと陽子の顔が輝いた。
「まぁ!!
來未、ついに決まったのね!!
しかも、相手が雄二くんだなんて、これ以上の安心はないわ!」
母は拍手しながら、感激したように來未の手を握った。
「いやぁ、良かった良かった!
ずっと雄二くんが來未と一緒になればいいと思ってたのよ!」
「お、おばさん……!
そんな、前から決まってたみたいに……」
「だって、昔から來未のこと一番面倒見てたの、雄二くんだったでしょ?」
「それはまあ……確かに。」
「それに、小さい頃から一緒にいたんだから、もう家族同然よね!
これで、雄二くんは本当の家族になったのね!」
「いやいや、ちょっと待ってください、おばさん!
俺、まだ結婚の話までは——」
「まぁまぁ、座って座って!
あっ、お父さん呼んでくるわね!」
「えっ!?」
「來未、何か言ってくれよ!」
「うん、私も驚いた。」
「驚くなよ、お前が言い出したんだろうが!」
だが、もう遅かった。
陽子はすでに來未の父、剛志を連れてきた。
「……來未、帰ってたのか。」
居間に入ってきた剛志は、相変わらずの厳つい表情。
身長は180cm近くあり、ガッチリした体格で、いかにも「厳格な父親」といった風貌だ。
「で、雄二。
お前が來未と婚約したって?」
「は、はい……一応、その……。」
「ふむ……」
剛志は鋭い視線で雄二をじっと見つめる。
その目は、嘘を見抜こうとする刑事のようだった。
(やばい、バレる! 絶対バレる! いや、ここで堂々としていれば……!)
「……まあ、お前なら認めてやる。」
「え?」
「何度も言ったが、來未のことを本当に任せられるのは、お前ぐらいしかいないと思っていたからな。」
「は、はぁ……」
「うむ、それはそれとして——」
剛志は、ぐいっと來未と雄二の前に身を乗り出した。
「新居の件だが、もう決めてある。」
「…………はい?」
來未と雄二は同時に声を上げた。
「いや、ちょっと待ってください、お父さん!
新居って何ですか!?」
「決まっているとはどういうこと!?」
「お前ら、婚約したんだろう?
それなら、二人で一緒に住むのは当然じゃないか。」
「い、いやいや!
まだ結婚までは考えてなくて!」
「何を言っている、來未。
お前ももう29だぞ?
それに、婚約しているなら、生活を共にするのが普通だろう。」
「そ、そんな急に……!」
「急じゃない。
すでに不動産も手配したし、家具も揃えてある。
あとはお前らが入るだけだ。」
「えええええええ!?」
「それと、来週には親戚に婚約の報告をする会も開くからな。
準備しておけ。」
「ちょ、ちょっと待って!」
「待たん!」
剛志の断固たる口調に、來未は目を丸くし、雄二は完全に固まっていた。
(……おい、どうするんだよ。)
(……どうしよう。)
嘘の婚約が、まさかの同棲に発展するとは——。
雄二の悪い予感は、すでに現実になろうとしていた。




