第14話:修羅場勃発! 偽装婚約の崩壊
「……は?」
來未は、状況を理解するのに数秒かかった。
ついさっきまで、雄二と今までの関係を越えようとしていた瞬間だったのに——
玄関に、吉川千紗と桐生課長が立っている。
「……え?」
「お、おい……
なんでお前らがここにいる?」
雄二の驚愕の声が響く。
千紗は鋭い視線を來未に向け、プルプルと怒りを震わせていた。
「私、ずっとおかしいと思ってたんですよ!!」
「え?」
「だって、先輩と佐々木さんの婚約って、どう考えても急すぎるじゃないですか!!
しかも、先輩って、そういう恋愛にガツガツするタイプじゃないし……!」
「そ、それは……」
「……やっぱり、偽装婚約だったんですね!!!」
「!!!!!!」
來未の心臓が止まりそうになった。
(え!? ばれてる!? なんで!?)
雄二の顔も一瞬引きつる。
「お、おい、千紗——」
「私、先輩のことをずっと見てきたんです!
だから分かるんです!!」
「……いや、それはちょっと怖いな。」
「うるさいです!!」
千紗はバンッとドアを閉めて、ズカズカと部屋に上がり込んできた。
「ちょっと、待って!?
勝手に入らないで!?」
來未が慌てる間に、桐生課長が「ふむ」と顎に手を当てながら、やたらと余裕の表情で 部屋に入ってきた。
「なるほど……やはり、俺の勘は正しかったな。」
「……お前、何しに来たんだよ。」
雄二がイラついた声を出す。
桐生は、ゆっくりと部屋を見渡し、ニヤリと笑った。
「いやね、佐々木部長が“お前たちの婚約がどうにも怪しい”と言っていたから、少し様子を見に来たんだよ。」
「……は?」
來未の全身から血の気が引いた。
(ちょ、ちょっと待って!? 親父にまで疑われてるの!?!?)
桐生は腕を組みながら、満足そうに頷く。
「そして、俺の推理は正しかったわけだ。」
「推理って何よ!!
刑事か!!」
來未が叫ぶが、桐生は涼しい顔をしている。
「いやいや、どう考えてもおかしいだろう?
幼馴染でいきなり婚約、しかも“新居まで決まっている”なんて話、あまりにも出来すぎている。
そもそも、君たちは——」
「もう、うるさい!!!」
來未が頭を抱えながら叫ぶ。
「じゃあ、何?
あなたたち、わざわざそれを確認するためにここまで来たわけ?」
「当然です。」
千紗が腕を組みながらキッと來未を睨みつける。
「私は先輩が騙されているんじゃないかってずっと心配してたんです!」
「いやいや、私が騙してるわけじゃないでしょ!!!」
「じゃあ、本当に先輩と婚約してるんですか?」
「そ、それは……」
來未が言葉に詰まる。
すると、桐生がニヤリと笑いながら、決定的な一言を放った。
「なら、今ここで証明してもらおうじゃないか。」
「……え?」
「証明って、何を?」
「簡単なことだ。」
桐生は、テーブルをトントンと指で叩きながら言った。
「婚約してるんだったら、ここでキスくらいできるだろう?」
「……!!!!!!」
來未の顔が、一気に真っ赤になった。
「な、な、ななな、なに言ってんのよ!!??」
「いやいや、キスなんて当然のことでしょう?」
桐生はニヤリと笑う。
「だって、婚約者なんだから。そうだろう?」
「そ、それは……」
(やばい、やばい、やばい!!!!)
來未は冷や汗をかく。
千紗は「そうですよ!! 先輩、本当にこの人と婚約してるんですか!?」と興奮気味に詰め寄っている。
(ど、どうする!? このままだとバレる!?!?)
來未が完全に混乱していると——
「……いいぜ。」
「え?」
雄二の低い声が響いた。
來未が驚いて振り向くと、雄二はゆっくりと立ち上がり、來未を見つめた。
「別に、するだけだろ?」
「え、ちょ、ちょっと待って!?」
「ほら、証明しねぇと。」
雄二が來未の顎をそっと持ち上げた。
「う、嘘でしょ……!?」
來未の心臓が爆発しそうになる。
(ちょ、ちょっと待って!! こんな状況で、本当にするの!?!?)
雄二の顔が近づく。
本当に、本当に、今までの“偽装”じゃ済まされない瞬間が来る——
來未が完全にパニックになっていると、千紗が突然叫んだ。
「やっぱり無理です!!!!!」
「!?」
千紗は涙目になりながら、來未と雄二の間にズカズカと割り込んできた。
「そんなの……
そんなのズルいです!!
そんなことで証明されたって、納得できません!!」
「え、えぇ……?」
「私、ずっと先輩のこと好きだったのに!!
こんなの認められません!!」
「……お、おう。」
「私だって、先輩とキスしたかったのに……!」
「…………」
千紗が涙目で訴えるのを見て、雄二は静かに息を吐いた。
「……すまん。」
「え?」
「俺が好きなのは、來未だけなんだよ。」
「…………!!!」
來未の脳が、一瞬でフリーズした。
「だから、お前にできることは何もねぇよ。」
「……うぅぅぅ……!!」
千紗は涙目になりながら、その場を飛び出して行った。
桐生は、それを見ながら「……ほう」と腕を組み、ふっと笑う。
「どうやら、俺の負けらしいな。」
「……お前、最初から勝負だったのかよ。」
「さぁ、どうかな?」
そう言って、桐生も去っていった。
來未は、まだ心臓がバクバクいっているのを感じながら、ようやく全てが終わったことを実感した。




