第11話:嫉妬する雄二、感情爆発
翌朝。
來未は目覚まし時計の音で目を覚ました。
(……頭、痛……)
昨日飲みすぎたせいで、完全に二日酔いだった。
ふらふらと起き上がり、リビングに向かうと、すでに雄二がテーブルでコーヒーを飲んでいた。
「……おはよ。」
「……おう。」
雄二は新聞を広げたまま、來未を一瞬だけ見て、すぐに視線を戻した。
(……なんか、冷たくない?)
昨夜のことを思い出し、來未は少しだけ胸が痛んだ。
(私、酔った勢いで変なこと言ったっけ……?)
「昨日のこと、覚えてる?」
來未が恐る恐る聞くと、雄二は新聞をめくりながら、無表情で答えた。
「別に。
何もなかっただろ。」
「…………」
(……そう、何もなかったことにするんだ。)
來未は黙ってコーヒーを飲んだ。
なんとなく分かる。
雄二は、私の言葉をなかったことにしたいんだ。
(……そういうことなら、私も何も言わない。)
こうして、二人の間には妙な距離感が生まれた。
◆キザ課長・桐生とランチ!?
その日、來未の会社でとんでもない話が舞い込んできた。
「來未さーん、すごいことになってますよ!」
後輩の麻美が、ランチタイムに駆け寄ってくる。
「な、何?」
「なんか、桐生課長が來未さんをランチに誘ったって、社内でめっちゃ噂になってます!!」
「……は?」
來未は、聞き間違いかと思った。
「いやいや、そんなの聞いてないんだけど。」
「でも、総務の田中さんが言ってましたよ!
『桐生課長が佐々木さんに食事を申し込んだ』 って!」
「……えええぇぇ!?」
確かに、桐生課長はしつこかった。
婚約の話を聞いた後も、「本当にその男でいいのか?」と余計なお世話なことを言ってきたし、なんとなく諦めてない感じがあった。
(でも、まさか会社で堂々とそんなことを……!?)
「で、來未さん、どうするんですか?」
「いや、断るでしょ、普通……!」
「でも、來未さんの婚約者って向かいの会社の雄二さんですよね?」
「え?
そうだけど?」
「だったら、ここで堂々と『桐生課長より雄二さんを選びました!』って示すのもアリじゃないですか?」
「…………」
確かに、それも一理ある。
(雄二との関係、今ギクシャクしてるし……ここで何かアクション起こせば、気にしてくれるかも……?)
そんな考えが頭をよぎった瞬間——
「……分かった。
行く。」
來未はそう答えていた。
◆雄二、怒る
その日の夕方。
來未が仕事を終えてオフィスを出ようとした時——
「おい。」
エントランスで待ち構えていたのは、明らかに機嫌の悪い雄二だった。
「うわっ!?
な、なに!?」
「お前、今日……
桐生とランチ行ったってマジか?」
「え?
なんで知って……」
「あんな目立つことしてたら、すぐ噂になるに決まってんだろ。」
雄二の顔は、明らかに不機嫌だった。
「別に、ただのランチだし?」
「ただのランチじゃねぇだろ。
お前、アイツに何か言われたのか?」
「……まぁ、『俺と結婚したほうがいいんじゃない?』的なことは言われたけど?」
「……っ!」
雄二の顔がピクッと動いた。
「お前、そんなやつと飯食って、楽しかったか?」
「な、なんでそんな言い方するのよ。」
「お前、アイツがどういうつもりで誘ったか分かってんのか?」
「そ、そりゃ分かってるけど……」
「……お前、バカじゃねぇの?」
「は!?
なんでそんなこと言われなきゃいけないのよ!」
「じゃあ聞くけどよ、お前はそいつと結婚するつもりあんのか?」
「ないけど!
でも、仕事の付き合いだし!」
「仕事の付き合いで、他の男と二人きりで飯食うのか!?」
「……なによ、それ!
まるで、嫉妬してるみたいじゃん!!」
來未が思わずそう言うと——
「……してるよ、バカ。」
「……え?」
雄二は、真剣な目で來未を見つめていた。
「……俺、お前が他の男と飯食ってんの、普通にムカついたわ。」
「…………」
來未は、一瞬息ができなくなった。
「お前はどうなんだよ。」
「え?」
「お前は、俺が他の女と飯食ってても、何も思わねぇのか?」
「そ、それは……」
來未は言葉に詰まる。
(……私は……)
雄二が、誰か他の女とご飯を食べたり、優しくしたりしているところを想像した。
(……嫌だ。)
(……すごく、嫌だ。)
「……分かったなら、もう変なことすんなよ。」
雄二はそう言って、來未の腕をぐっと引っ張った。
「ちょ、ちょっと!? どこ行くの!?」
「帰るぞ。
俺の隣以外に、お前の居場所はねぇんだから。」
來未の心臓が、ありえないほどの速さで跳ねた。
(なにこれ……! こんなの、ずるいじゃん……!!)




