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彼女はいつも同じさよならしか言わない 〜さよならを言う練習  作者: ふぁい(phi)


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最終話 結婚前夜

式の前日。


 


部屋にはタキシードと、少し緊張した空気。


 


俺はベッドに腰掛けて、天井を見ている。


 


妙に静かだ。


 


 


スマホを見る。


 


通知は少ない。


 


祝福のメッセージがいくつか。


 


その中に、一通だけ。


 


三年前に再会した、あの人から。


 


 


「おめでとう」

「ちゃんと幸せになってね」


 


 


それだけ。


 


 


俺はしばらく画面を見つめる。


 


胸は揺れない。


 


懐かしさはある。


 


でも痛みはない。


 


 


あのホームの春も。


 


あのカフェの午後も。


 


ちゃんと俺の中にある。


 


でも今、隣にいるのは――


 


 


ドアがノックされる。


 


 


「入っていい?」


 


 


彼女――明日、妻になる人。


 


 


パジャマ姿で、少し照れくさそうに立っている。


 


 


「寝れない」


 


 


「俺も」


 


 


二人で床に座る。


 


 


沈黙。


 


 


彼女が言う。


 


 


「ねえ」


 


 


「うん」


 


 


「怖くない?」


 


 


正直だなと思う。


 


 


怖い。


 


離婚するかもしれない。


 


嫌いになる日が来るかもしれない。


 


病気もある。


 


裏切りも、可能性ゼロじゃない。


 


 


でも。


 


 


「怖いよ」


 


 


俺は答える。


 


 


「でも」


 


 


言葉を探す。


 


 


「未来は保証されてないけどさ」


 


 


彼女が少し笑う。


 


 


「うん」


 


 


「選び続けるのは、できると思う」


 


 


完璧じゃなくていい。


 


毎日好きじゃなくてもいい。


 


でも、迷ったときに


“こっちを選ぶ”を繰り返せるかどうか。


 


 


彼女はしばらく黙ってから言う。


 


 


「私も」


 


 


そして少し間を置いて。


 


 


「過去ごと、あなたを選んでる」


 


 


胸の奥が、静かに熱くなる。


 


 


俺は言う。


 


 


「俺も」


 


 


「未来ごと、君を選ぶ」


 


 


派手じゃない。


 


プロポーズみたいな台詞でもない。


 


 


でも十分だ。


 


 


その夜、眠る前。


 


俺はあのメッセージに返信する。


 


 


「ありがとう」

「ちゃんと選んだよ」


 


 


既読はつかない。


 


それでいい。


 


 


電気を消す。


 


 


世界は止まらない。


 


 


明日も止まらない。


 


 


でも。


 


 


止めなくていい。


 


 


さよならは、未来に預けた。


 


再会は、現在を確かめた。


 


 


そして今。


 


選ぶのは、これからの毎日。


 


 


窓の外は静かだ。


 


ただの夜。


 


 


奇跡は起きない。


 


 


でもそれでいい。


 


 


――完。


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